激励
電話を切った後、起きているかわからなかったが、親父に報告のために電話をかけると、まだ起きていたのか、すぐに取ってもらえた。
『そうか』
流氷さんが亡くなったことを聞くとため息をついて、しばらくの間なにもしゃべらなかった。
途中でいろいろあった二人だが、その死は親父にも予期できなかったものだろう。
『葬儀にはいく』
そうか。
葬儀自体は一般的な葬儀なんだから、だれでも入れるのか。ではまた、会場でと俺が言うと、そういえばと話題を突然変えた。
『総花、もしお前がなにかしたいんだったら、全力で行動しろ。全力でお前を応援するから』
どうやら俺のやりたいことは、あの人にお見通しだったらしい。
まあ親父の背中を見て育ってきたんだからな。
電話を切った後、しっかりと覚悟を決めた。
週末、一人で皆藤本邸に向かうと、茜さん、薔さんとともに夕顔さんも同席してくれていた。
一言も相談内容について言ってないはずなのに、なんの相談だと聞いたんだろう。
「すみません、忙しいときに。夕顔さんまでありがとうございます」
葬儀はほかの家のこともあるので、ある程度日にちはとられているが、それでもその準備で忙しかっただろう。
「大丈夫だ。しばらく皆藤家から遠ざかっていたから、それなりに心配していたんだ」
「……そうですか」
夕顔さんの言葉に少しだけ心がじんわりとする。
たしかに新年会とかも最初の一年、二年はきちんと顔を出していたが、大学が忙しくなってからは面倒で葵さんに全権委任していたんだっけ。
だからこうやって、まさか自分からここにくるとは思われていなかったんだろうな。
薔さんも頷いていた。どうやら傍から見ればそうだから、反論はできない。
「で、なんだ。相談って」
そうだ。感傷に浸りたくてここにきたんじゃない。
早速、本題の相談を継げる。
「もし首領を俺が辞めたいって言ったら、どうします」
俺の相談に顔色を変える三人。茜さんだけはあの電話で予想していたようで、少しうつむいただけだったが、それでも取り乱すことはなかった。
「お前、まさか」
「仮定の話ですよ?」
それに比べると、薔さんは余裕を失っていた。
「どうみても『仮定』じゃないだろ」
夕顔さんなんかは呆れていた。
それぐらい俺の相談はありえないものだった。
「――――まあ、いいや。もし仮定の話ならば全力で止める。『勝算ないことするな』ってな」
三人の中で最初に立ち直った夕顔さんがそう言うが、それでも不満そうだった。
まあこれでノリノリで勧められたら、それはそれで引くんだが。
「そうね。前例がないことではないけれど、止めるにこしたことはないわね」
茜さんもそれに同意する。危険な賭けに挑むのを引き止めてくれてありがとうございますとしか言えなかった。
「だな。だが、もし仮定でないのならば、俺は全力で支援する」
しかし、一人だけ意見が違った人がいた。
「薔!」
「茜さん、俺は賭けたいんですよ」
薔さんは俺の方を見てしっかりと言う。それに茜さんが噛みつくが、決して薔さんのことが嫌いだからとかそんな理由ではない。
ただ純粋に俺のことを心配してくれているのだろう。
「どういうこと?」
「そのままの意味ですよ。多分このままいけば、どう転んでも不幸しか生まないです。だから……――――少しでも希望を俺は持ちたいんですよ」
薔さんは今のこの現状を憂いていた。
「だからって……!」
「そうだな。あれは危険すぎる。だからといって、ほかの方法でそれを認められるのはないだろう?」
この人もわかっているし、ここにいる全員、それをわかっている。
その『賭け』はハイリスクだが、ハイリターンであるということを。
「そうだけれども……」
だから。
薔さんも夕顔さんもまったく同じ言葉で俺を激励する。
「戦え、伍赤総花」
「戦え、伍赤総花」




