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小さいときの刷り込みでなかなか離れてくれない幼馴染から離れようとしたら、余計に迫られてます!?  作者: 鶯埜 餡
遠い未来、遠い今、遠い過去

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招かれざる客人

 あれからすぐに学園に戻ったが、夏休みが始まったばっかりだったから、とくにすることもなく、課題を終えた後はひたすら自主練ばっかりしていた。どこかで櫻に会えるだろう、そんな期待を抱いていた。



 けれど、結局櫻が戻ってくることはなかった。まあ戻ってきたところで、どういうふうに接すればいいのかわからなかったので、よかったのかもしれないけれど。

 流氷さんに尋ねることをはしなかった。


 理由は単純。


 あの人は俺や櫻本人にたいしてすべてを隠していた。

 アイツは気づいていたかもしれないけれど、それでもあの人がしたことは――――



 俺は首領を継いでから理事長のことを流氷さんと呼んでいたが、なんとなく不愉快になった。だから、できるだけ接触を減らし、どうしても呼ばなければならないときは『理事長』、そして卒業(・・)してからは『皆藤首領殿』と呼んでいた。

 たったひと月。


 短いようで長い期間でみんなが俺に抱く印象は変わったと思う。






 そう。まるで伍赤柚太(ちちおや)のようになったと。






 当の本人とはあの日以来会っていないが、どう思っているのかが気になってはいた。




 ――――そんなことはさておき、あの日から一年と三か月後、俺は卒業した。

 ――――正確にいえば俺たち(・・)は、だな。


 どういう裏技を使ったのかわからないが、一応卒業生名簿の中に櫻の名前もあった。

 だから、アイツも少なくとも高校卒業という最終学歴になっているはず。




 そして高校卒業から四年、あの日から五年半経った早朝でも少し汗ばむ日。


「お前さんに頼みたいことがある」


 世間一般はゴールデンウィークという状況の中、俺は今、早朝六時という時間にもかかわらず、皆藤本邸にいた。

 いや、毎年の正月にはここにいるのだから、皆藤本邸にいること自体はなんら不思議ではないのだが。

 できれば近づきたくないという感情は別にして。

 呼びだされてしまった以上、断るのはあまりよろしくないと直感が囁く。


「なんでしょう」


 うーん。

 流氷さんの頼みごとか。正直、面倒としか思えない。


「一人、二泊三日で双刀の訓練をしてやることはできないか?」


 はあ。

 俺はどんなに間抜けな顔をしているだろうか、自分のことながら鏡を見たくなってしまった。

 しかし、『双刀を教えてやってくれ』か。できなくはないが、二泊三日だと基本的なことしか教えることはできんぞ。どこまで求めているのかわからないが、この人のことだ。断るためにあえて小さくいってみる。


「基本的なことぐらい、そうですね。双刀の基本的な型や軽い打ちあい程度でしたら教えられますが、それ以上のことになると――――」

「それぐらいでよい。茜から聞いたんだが、お前の方が双刀に限っては技能が上だと聞いてな。教職もとっているのだから、一人教えるぐらいはできるんじゃないのか?」


 俺の遠回りな断り文句にもそれでいいと言う流氷さん。

 そうでしたか。あきらかにいやな顔をするとどうだろうと思ったが、さすがにそれはやめておいた。仕方なく了承するとすまないと、流氷さんも珍しく頭を深々と下げる。この依頼にはなにも打算もないのかもしれない。

 どっちなのかわからなかったが、深く考えることをあきらめた。


 それから俺はその双刀の基本を教えてやってほしいという人物に会わされたのだが……――


「こちらがその彼女、金雀枝(えにしだ)(すずめ)さん」


 茜さんに紹介された『彼女』はぺこりと頭を下げる。


「よろしくお願いいたします」

「……どうも」


 一松櫻(アイツ)と同じくらいの小柄な少女。

 でも、彼女ではない。そもそもアイツと違って瞳の色が違う。

 それに茶色の髪の毛は長く、一部だけを上にまとめている。着ているものもアイツが絶対に着なさそうなフリルがいっぱい付いている真っ黒なワンピース、いわゆるゴシックロリータ服というやつだろうか。

 アイツではなかったことに少しだけ残念だったが、もうアイツとの縁はないのだろう。

 そう思えば気持ちが楽だった。


「じゃあ、行きましょう」


 俺は彼女の足元にあったアンティーク調の旅行鞄を持ちあげながら、そう言う。彼女はほんの少し嬉しそうにはいと笑う。




 高校卒業直後に運転免許はとっていて、大学への通学以外はすべて自分で運転をしている。


「少し席が狭いかもしれませんが、許してください」


 少女、金雀枝さんとどういう口調でしゃべればいいのか、少し把握しかねていたので、かなり丁寧な口調になってしまった。


「……ええ、大丈夫です」


 俺の口調に少し戸惑ったのか彼女の返答が遅れたが、ありがたいことに車の狭さには文句を言われなかった。




 車を運転している最中、俺は黙って彼女、金雀枝雀の身元について考えた。

『金雀枝』か。武芸百家の家ではないな……記憶が間違っていなければ、たしか表、いわゆる“一般”の財界における一族にそんな名字があったはず。

 あまり表の人間がこちら側に“お遊び”といえども、転がりこむことはない。でも、流氷さんはそれを受けいれた。ということは、なにか彼らとの間に密約でもあるのだろうか。

 俺に直接関わる事でなければいいや。

 でも、それを直接本人に聞くことは初対面の人間としてはよくない。

 だからこの二泊三日の訓練が終わったあとにでもこっそり流氷さんに聞こう。

 そこから先は運転に集中した。

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