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小さいときの刷り込みでなかなか離れてくれない幼馴染から離れようとしたら、余計に迫られてます!?  作者: 鶯埜 餡
意思と代償と想いの夢

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向かう先にあるもの

 常夏魔界、夢野。

 そこに行くまではいくつもの難関があるのだが、その難関の一つはこの海。

 離島である雫中も同じ条件といえば同じ条件ではあるが、あちらは小舟で行ける距離だが、こちらはそうもいかない。

 だから大型船舶の免許を持つ茜さんの協力が必要だった。

 そんな茜さんの運転するクルーザーに乗って、夏野がある島に向かっていた。


「あれが夏野なのね」

「はい。茜さんははじめて、なんですね」

「そうよ。総花君は何度もきたことあるんだよね」


 どうやら茜さんはここに来ることははじめてらしい。

 うっそうとした原生林が広がる目の前にすごいわとあきれ交じりのため息をついている。

 まあそうか。

 ここが『常夏』魔界と呼ばれる所以でもある亜熱帯の気候。そのため本土とは違った植生で、見慣れない高木が生い茂っている。


「小さいときに何度も」


 俺は何度もきたことがある。笹木野さんや櫻の父親、紫鞍さんに連れられて。だから、ある程度は島の状態を覚えている。

 しかし、茜さんをはじめ皆藤の人たちは武の英才教育(・・・・)を施される。こんな場所に来る人は少ないだろう。


「そうなのね。私たちが小さいときに会っていれば、どんなことを言いあったんでしょうね」

「さて、どうでしょうかね」


 茜さんが冗談交じりにそう言うが、俺には想像がつかなかった。

 多分、言い負かされていたと思うけれど。


「茜さん」

「なあに?」


 前方の状態を確認して、操舵席の隣に立つ。この分なら、少し別のことを喋れる時間はある。


「こないだの答えあわせをしてもいいですか?」

「こんなときなのに、ほかごとを考えているなんて余裕ね」

「逆ですよ」

「逆?」


 茜さんは俺の言葉に驚くが、それは小さいときに行っていたから知っていたことだ。はじめての場所ならば、こんなことはしない。


「ええ、逆です。あそこに行くまではなにもできないんです。一週間くらいいたところで真新しい罠や仕掛けが毎日のように作られているんですよ? だから、今から対策をしたところでどうしようもないんです」

「……よっぽど暇なのね。というか、初心者には向かない物騒な土地ね」

「そうです。だから『常夏魔界』なんです」


『常夏』は年中通して暖かい気候が由来であり、『魔界』は目の前にうっそうと茂る高木と、地中・地上問わず(・・・)島全体に仕掛けられた罠が由来。

 一般人が上陸したら、暑さと命の保証はないというひとたまりもないところなのだ。


「薄もそうだけれど、夏野もたいがいね」

「ええ」


 そうだろうな。

 薄の別邸付近はまだまともだが、本邸は標高が高すぎて道が入り組んでいる。だから迂闊に伍赤家以外には近づけなく、近づけないようにしている。

 その一方で、夏野は島全体が物騒。こちらも一松家以外は立ち入りにくいし、立ち入らせないような仕組みになっているのだ。


「で、答えあわせの件だけれど、そういうことなら全然かまわないわ」


 茜さんはクスリと笑って俺の答えあわせを喜んでくれた。


「ありがとうございます」


 答えあわせというのは俺が首領と五位会議で認められた日の話だ。

 学園で最初に会ったときに茜さんは俺に謎を解くチャンスをくれるといってくれた。だからその少しを答えあわせしたかったのだ。


「茜さんが《十鬼》であり、そしてこの学園に来た理由がようやくわかりました……――もっとも推測でしかありませんが」

「なにかしら」


『推測』ということにけげんな表情をするが、瞳の奥をじっと見つめるだけでなにも言ってこなかったので、思いきってそれを告げる。


「流氷さんを守る(・・)ためであり、流氷さんに復讐(・・)するため、ではありませんか?」

「……気づいちゃったのね。そうよ」


 茜さんは俺の推測を否定しなかった。ということは、山吹さんほどではないが、流氷さんも――――


「あなたにはわかっているようだから言うけれど、あの人はロクでもない男よ」

「そうでしたか」


 やっぱりか。もちろん俺の知らないとき、まだ生まれてなかったときの話なので、本当はなにが起こっていたのかは知らないが、それでも茜さんがそう評するほどのことが起こっていたのだろう。


「意外と驚かないのね」

「これでも結構びっくりしてますよ。ただ、想像がついただけで」

「……そうね。あの人は非道……いえ、非道ではないわね。あの人は心がないだけで」


 しかし、その続きに言われたものはかなり意外なものだった。


「それに私も十分、共犯者だから」

「……共犯者、ですか」


 茜さんが共犯者か。

《十鬼》として認められているから、そして、皆藤首領という立場に残っているから、いわゆる一般的な犯罪ではなく、社会的制裁を加えられるものではないのだろう。


「あの人の大切な(もの)奪った(・・・)、奪うきっかけ(・・・・)になった犯罪者よ」

「でも、それは――――」


 俺はそれは違うと思った。

 多分茜さんがいてもいなくても、それは起こったに違いない。ただ、時期が早まっただけで。


「慰めはいらないわ」

「……――――」


 そう言おうとしたが、ぴしゃりと拒絶されてしまった。


「だからこそあの人を守る義務(・・)がある。これ以上、奪わせないためにも」


 茜さんの口調はどこか後悔を感じさせるものだった。そう思ったら、口調をがらりと変えておどけるように笑う。


「でも、まだあの人には十分な復讐しきれてない。だから私はこうやって存在している。今だって総花君をどうやって海に突き落とそうかと悩んでいるわよ?」

「それは嘘ですよね」


 それは嘘だろう。

 ……――――いや、それは嘘だ(・・)


「どうしてそう思うの?」


 俺の断言に信じてもらえなくて傷ついてますという表情をする茜さん。

 でも、それは断定できる。


「だって茜さん、船に乗る前に言ってたじゃないですか」


『精いっぱい、櫻ちゃんを探そうね』って。

 俺は数時間前のやり取りを思いだしながらそう言うと、駄目だったかぁとおどけてくる。


「ハハハ。総花君にはやっぱりバレてたのか」


 ええ、バレてましたよ。

 とはいえ、一つ解決できてないこともある。

 それは茜さんと櫻の『名前』の違い。どうして似たような立場のはずなのに、櫻の母親であり流氷さんの妹である細雪さんは娘を一松家の首領にさせたがったのか、そして茜さんが櫻に執着しない理由がさっぱりだった。


「もう着くみたいね。心の準備はできている?」


 どうやら話しこんでいると時間が経つのが早かったようだ。

 先ほどよりも高木が近くに見える。

 もちろんです。

 すでに俺は覚悟を決めている。

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