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小さいときの刷り込みでなかなか離れてくれない幼馴染から離れようとしたら、余計に迫られてます!?  作者: 鶯埜 餡
想い知るタガイの思い

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うずまく

 生徒会室から理事長室までは遠くはない距離だが、今日に限っては遠く感じられた。


「まさかどうでもいい内容じゃありませんよね」


 道中、わざわざ生徒会室から連れ出した理由を聞くと、口ごもる理事長。


「まさか」

「そのまさかだ」


 連れ出される瞬間から、すごく嫌な予感がしたのけど、マジかよ。

 だったら生徒会室でもいいじゃないか。


「いい加減にしてください」

「いやいや、すまない」


 ちょうどそのとき理事長室に着き、ここに座れとソファを勧められた。

 ありがたく座らせてもらい、紅茶までサーブしてもらった。


「だが、三苺野苺がいるところっていうわけにもいかなくてな」


 理事長自身も自分の紅茶を持っておれの正面に座ってからそう言う。

 ほう。

 俺と理事長、なにを今さら話すことがあるんだろうか。


「『死線の銀弾』って聞いたことあるか」

「……――いえ。有名な存在ですか?」


 聞いたことのない名前だったが、これは社会常識(・・・・)なんだろうか。


「いや、最近出てきた奴でな、ほとんどの人は知らない。そうだな……皆藤上層部、凡河内大臣、五領首相ぐらいだ」

「なんでまたそんな情報を」


 なんていう日だ。

 新鮮とれたての情報か。

 なんかコードネームというよりもいわゆる厨二的なネーミングセンスだと思ったのは間違っていないよな。

 しかし、『弾』とついている以上、銃弾、拳銃でも使う奴なんだろうか。


「そいつが三苺家に近寄っているという情報を得てな」


 うん?

 だったら、それはここで言うべきじゃないんだろうか。それをなぜくだらない内容と言ったのだろうか。


「それは五位会議にかけるべきでは。少なくとも、俺だけに話すメリットはないはずですが」

本来ならば(・・・・・)な」


 問いかけに頷く流氷さん。


「だが、今師節と紫条の両首領は自分の敵に必死だし、一松もこの件に携わらせたくない」


 たしかに師節と紫条は今年度になって分家筋が暴れはじめらしいので、あまり不明瞭なことに手をさく余裕なんてないか。

 しかし、『一松に携わらせたくない』。

 ということは、一つの可能性を考え、確証する。


「……それは『実績』作りのためですか?」


 それ以外に考えられない。

 そうでなかったら、伍赤家に調べさせるメリットは一切ない。


「そうだ。察しが早くて助かる」


 正答だったようで、よろしく頼むぞと笑いながら頼まれる。

 これだから首領というのは嫌だけれど、それでもきちんとこなさねばという使命感はある。


「だから奴、『死線の銀弾』の正体、そして三苺に近づいている目的を独自(・・)に調べろ」

「承知いたしました」


 見かけ上は仕方ないというふうに嫌々そうにしながら頷く。ようやく今になって櫻の気持ちが分かった気がした。

 ついでとばかりにアレを聞く。


「そういえば、流氷さん」

「なんだ」

「櫻が俺のことを避けているのって、もしかして俺が首領になったからですか?」


 問いかけにうんと頷く流氷さん。ビンゴだったのか。


「そうだ。気になるのか」

「気になるというか、納得しただけです」


 そうだな。

 まあこうなるとはわかっていたことだし、その時期が早まっただけだとも理解している。


「首領同士が幼馴染ということは少なくない。私とて例外ではなかったからな。だが、首領になったらそれなりの距離を保たなければならない」


 そうだな。

 どんな世でも殺しあわなくてはいけなくなる可能性は否定できない。

 だからこそ、距離は必要なのだ。

 流氷さん、親父、山吹さんだってそうか。高校までは仲良かったらしいからな。時期的には親父が首領の座を継いだのが一番早いけれど、それも関係がこじれた後(・・・・・)の話だ。

 だから、この人たちは一定の距離を保てていたんだろうし、少なくとも俺と櫻が仲がいいことに対してなにも言わなかったんだろう。


「それはどんなときでもですか」


 ついそう尋ねてしまった。それは流氷さんたち三人に対する皮肉でもなんでもない。


「ああ」

「わかりました」


 その答えを聞いて俺は安心した(・・・・)。だったら、こちらだって徹底的にやってやろう。





 寮に戻るとき、校舎の玄関口でだれかが言い争っている声が聞こえた。


「だから、私は戻らないって言っているでしょ!? あと一年とちょっとぐらい我慢してよ」

「そうはいかなくなったんだよ」


 この声は……櫻と、まさか紫鞍さん。

 文化祭後の《花勝負》は忘れてはいない。

 あの人の一言がなければ俺は力を出しきれていなかっただろうから、そこだけは感謝(・・)しないと。

 しかし、なんで櫻をこのタイミングで連れ戻す必要があるのだろうか?


「なんで?」

「お前の力が必要なんだよ。一松家首領という力が」


 櫻も同じことを思ったのか、理由を尋ねるが、抽象的なことしか言わない紫鞍さん。


「力?」

「そうだ」


 もっと具体的な言葉を聞きたいのに引き出せない櫻。

 こういうまどろっこしいのなんて、お前好きじゃないだろ?

 もっとガツンと言ってやれと俺は物陰からそう願った。


「だったらさぁ、そんな私の力が必要ならば、力ずくで奪ってよ」


 ああ、そうでなきゃ。それでこそ一松櫻だ。


「どういうことだ」


 今度は紫鞍さんの方が理解できていなかった。


「文字通りの意味だよ、紫鞍兄さん」


 ここからは表情は見れないけれど、今頃アイツはにやりと笑っているんじゃないのかな。あのときと同じように。

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