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小さいときの刷り込みでなかなか離れてくれない幼馴染から離れようとしたら、余計に迫られてます!?  作者: 鶯埜 餡
君知る他知る己知る

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良い子には餌を与えなさい

 理事長室に入った瞬間、蠢く影を二つ見つけたけれど、櫻は気づいていないようだ。なにも反応せずに理事長に及びでしょうかと聞きにいく。どうやら生徒会関係のことだと思っているようだ。


「お前たちに出陣命令(・・・・)を下す」

「なんでこんな学期中に」


 理事長から返ってきたのは(櫻にとっては)予想外の言葉。そりゃあ櫻も驚くわな。でも、そう。『なんでこんな学期中に』っていう反応は正しいと思う。俺も最初この作戦を聞いたときにまったく同じ反応を返したから。理事長の言葉に心の中だけで頷いておく。ここでバレたら一巻の終わりだ。しかし、さっきの薔さんもそうだけれど、理事長もなかなか演技派?


「一応、お前たちは生徒であるが、基本季節なんて関係ない。その昔なんかは学校行事で行うこともあったぐらいだ」

「マジですか」


 しかし、次に言われた理事長の言葉は俺でも予想外だった。まさか学校行事で戦って。とはいえ、元々が武芸科だけだったのだから、それはそれで間違ってはいないのか……いないのだろうか? 思わず俺も本音で返してしまった。理事長がこちらをちらりと見ているが、あえて無視しておいた。


 ありがたいことに櫻も驚いてくれたようで、口をあんぐり開けっぱなしだ。


「そうだ。だから、これきし(・・・・)のことで音をあげるな」

「あげてません」


 軽く無視された理事長は拗ねたようで、俺が音をあげたとか言ってくれちゃったけれど、あげるわけないじゃんか。


「……それはそうと、相手はだれなんですか?」


 どこまでもマイペースな櫻。俺と理事長の静かな攻防にとらわれることなく、話を進める。


「相手は陸陽(りくひ)だ。主戦場に指定されたのは立睿北部の総合訓練場、日時は明日の明け方五時、人数はキミたちを含めて二十五人、向こうが二十人。一昔前ならば一年生の実習として行きたいところだが、さすがにコンプライアンス上の問題もある。だから、応援(・・)を呼んでいる」


 うーん、そうなんだよなぁ。


 理事長の言葉聞いていて、思ったというか感じたんだけれど、現代って武芸百家にとっては世知辛いんだよなぁ。文官統制になった現代日本だから、騒音・流れ弾その他もろもろの理由で地域一帯を巻きこんで大掛かりな戦はできないっていうのが実情。別に周囲五十キロにわたる荒野自体はあるんだけれど、偶然通りがかった人たちからの苦情対策なんだよね。

 だから、武芸百家専用の施設借りきって戦もどき(・・・)で勝負するしかないのさ。もっともここ最近の戦はほとんどなく、大規模なもので三、四十年前、ほとんどは《花勝負》で決着がついちゃっているのが現状。それをあえて戦の形式にするっていうのは結構突拍子もないことで、これなら櫻も騙せるかなという思惑があったようだ。

 それに加えお名前を借りた陸陽家は二本の棒を扱う双棒術の家。少しだけ伍赤家(うち)とも交流があり、紫条家の遠戚だからか快く名前を貸してくれた。全面協力である。

 ちなみに本来ならば戦には『書面』が必要らしいが、まあそこはなんとかするっていったけれど、本当になんとかしたようだ。書面が必要ないくらい具体的な説明だった。


 理事長の説明にふぅんと聞いていた櫻だったが、ある言葉に引っかかったようで、質問ですと手を挙げる。様式美だ。


「『応援』とは?」

「紫条と伍赤(・・)だ」


 いや、待て。

 理事長の言葉にはぁ!? と言ってしまった。そんな話、打ち合わせのときには聞いてないぞ。しかし、張本人は意地悪くにやにやしている。なにか俺って悪いことしたっけ。


「しょうがなかろうよ。書状で柚太に頼んでやった。ま、やつも結構乗り気だったがな」


 そんなことはないと訝しむ。

 嘘だ。

 絶対(ゼッテェ)嘘だ。

 あの親父は理事長の首を掻く気なら満々だけれど、そんなことにやる気が起きるはずもない。しかし、まあここでもめていてもしょうがないから、聞き流すことにした。


「……わかりました。しかし、キミたちっていうことは……――」

「一松櫻、伍赤総花ともに向かってもらう」

「はい?」


 またもや本気の驚き。いや、たしかに櫻を先陣にしなきゃいけませんよねぇとか言った記憶あるけれど、俺もその対象ですか。


「いいだろ? 実戦の訓練になるぞ?」


 にやにやしながら理事長が笑う。なにか復讐しないと気がすまなくなってきたな。

 ああ、でも面倒だな。ま、いっか。


「わかりました」

「一松も首領としてどう采配するのか、試されるぞ」

「はぁい」


 やる気のない櫻。

 うーん。なんでだろう? 思っていた反応と違うぞ。

 でも、そうか。櫻にしてみれば、今回は旨味のないタダ働きか。

 もっとも一松の家の管理をどうとらえているのかは知らないけれど、それにしても旨味がないな。


「ちなみに、今回のこの決闘である程度戦績を残せたら、実習点として考慮する」

「ホントですか!?」

「ああ、本当だとも」


 理事長の報酬提案(エサのぶら下げ)を見て、即座ににこやかになる櫻。そして、さっき俺を無言の攻防をくりひろげていたとは思えないほど、あたたかに笑う理事長。

 チックショー。

 だからといって、これが本当の戦とは限らないんだけれどね。

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