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小さいときの刷り込みでなかなか離れてくれない幼馴染から離れようとしたら、余計に迫られてます!?  作者: 鶯埜 餡
君知る他知る己知る

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ミッション・スタート

 それから数日経ったある日の夕食後、自主練のために屋内練習場に向かっていると見慣れた車を校門近くで見つけてしまった。そのそばには二人の女性と一人の男性の姿もあった。


「あれって、紫条の娘さん」


 制服は着ていないショートヘアの女性は紫条小萩さんだろう。五位会議のときに見かけた姿そのままだった。


「でもって師節先輩と笹木野さん」


 制服姿の女性はどう見ても師節桐花先輩であり、男性は笹木野さんだった。

 この時間にこの不思議な組み合わせが気になった俺は、練習する気が一気に消え失せ、そのまま寮へ戻った。




 そのあと笹木野さんに電話してもよかったけれど、どうにもはぐらかされそうで、電話の発信直前の画面にしてはホーム画面に戻したり、それを繰り返したりで夜も眠れそうになかった。

 寝ることを諦めた俺は残っている野菜でポタージュスープを作ることにした。丁度いいくらいに精神も統一されそうで、火の番をしながらちょっと前の休みに買ってきた新刊を呼んでいたけれど、どうしてもあの光景が忘れられなかった。





 翌朝、時間に余裕を持たせて教室に行くとまだだれもいない。武芸科の連中は試験の前でもない限り早く来ることはないから、まったく期待もこめてなかったけれど。

 荷物を教室に置いて、三年生のフロアへ行くと、もう結構な数の生徒がいた。武芸高校といえども、一応県内では有数の進学校だから、補習でもあるのか。目的の教室に行って中をのぞいたら、ありがたいことに廊下側に目的の人がいた。


「師節先輩、少しお話が」


 彼女を呼ぶと、少し不思議そうな顔をしてこちらを見たけれど、あまり時間がないので、さっさとお願いをする。


「ちょっとここじゃアレなので、生徒会室でもいいですか?」

「ふうん、わかったわ」


 なんだろうという表情だったけれど、構わず歩きだす。もっともすでに親公認済みの彼氏持ちである先輩をこうやって連れだしている時点でアウトな気もするが、先輩が前生徒会長なのと、俺が現生徒会副会長というのが大いに役に立っているのだろう。だれもなにも言ってこない。

 肩書というものはときに苦しめることもあるけれど、役に立つことだってある。


 生徒会室に入り、扉を開けっぱなしで話し始める。


「すみません、気になることを少し確認したいだけですから」


 最初はあくまでも丁寧に。

 師節先輩の顔を見て、丁寧に話し始めた。


 俺の態度に少し緊張を解いてくれたようだ。髪の毛をいじりながら、なぁにと尋ねる姿は可愛い。


「どうしたの、あらたまって」

「昨日の晩、笹木野さんと紫条小萩さんにお会いになられましたよね?」


 丁寧ながらも核心を突く。俺の質問にニヤリと笑う師節先輩。


「そう言い方をするってことは、見たのね?」

「はい」


 まあ、そうだよな。もしも見ていないのならば、そんなズバッとした問いかけなんてしない。


「じゃあ、私に聞くまでもないじゃない」

「まあ、そうなんですけれど、もしあなたが否定なさるのならば、ここで引きますよ?」


 俺は手のひらをひらひらとさせながら答える。別に彼女が否定するのならそれでいい。ただ、彼女たちが考えていることが永久に分からずじまいというだけ。


「本当?」

「ええ」

「フフ。でも、その質問に肯定するわ。私は昨日、笹木野さんと紫条小萩さんに会ったわ」


 師節先輩はどうしよっかなぁなんて考えていたけれど、別に口止めされていないようで、答えてくれたようだった。


「一応外部との面会は問題ないのですが、なぜ紫条小萩さんと?」


 正直なところ、会った事実はそれでいい。すでに俺が見ているんだし。ただ、笹木野さん、そしてなにより紫条小萩と会ったという事実が問題だ。


「それこそ黙秘してもいいかしら?」

「ご自由に……ただし、あなたは関係ないとはいえ第五位、師節の直系。そして、紫条小萩さんは第四位、紫条家の跡取り。そして俺は第三位の次期首領。あなたが答えなかったことで、俺に邪推をされてもおかしくはありませんよね?」


 伍赤と紫条の仲の悪さはあなたも知っているはずだ。何度も喧嘩する場面に遭遇しているはずだろ?

 そう圧をかけると、まいったわと困り果てたように笑う。


「たしかにそうね。じゃあ、素直に言うわ。あなたも協力(・・)しない?」

「協力?」


 しかし、師節先輩の口から出たのは意外な話だった。


「ええ、協力よ」


 そして彼女も今までにないほど真剣な眼差しだ。あの和食屋さんで話したとき以上に。


「『一松櫻を試す』実験よ」


 その言葉にどういった動機があるのかというのと、そしてこの流れを理解した。そういうことだったのか。


「なにがしたいのですか?」


 先に動機の究明をすることにした。


「単純よ。あの子は純粋だから、変なものに引っかからないかという訓練でもあるの」

「なるほど、このことはほかの人には?」

「フフフ。これはね、なにも私たちが勝手にやっていることじゃないの」

「というと?」

「理事長公認なのよ?」

「はぁ!?」


 思ったより大ごとだった。

 というか、それで二重に納得した。俺のところにたどり着くまでにひと手間かかった理由が。


「だから、あなたも安心して計画に参加してもいいのよ?」

「……――――楽しそうですからぜひとも参加させてもらいましょう。というか、そもそも小萩さんは俺を計画に参加させる気じゃなかったんですか?」


 俺は先回りして言う。すると、師節先輩はあら、わかっちゃったのねと苦笑する。


「アイツをだますのならば、まずは身近なところから騙しておかないと計画にほころびができる。だけども、紫条家と伍赤家(うち)は仲が悪いから、発案者(・・・)でもあり主な実行役である彼女経由で俺とコンタクトをとることができない。じゃあどうするか……――学園の内部を使えばいいのではというところで引っ張られたのがあなた、師節先輩なんじゃありませんか?」

「あら、そこまで読みとれたのね」

「ただの憶測でしたが、あっていましたか」

「ええ。素敵な解答だったわ」


 師節先輩の賛辞に素直にありがとうございますと頭を下げる。

 これで溜まっていたモヤモヤが一気に晴れた。師節先輩を解放し、教室に戻ったのは朝礼が終わり、授業が始まる数分前だった。




 授業後、櫻をだますのは辛かったけれど、ちょっと体調悪いから生徒会休むわと言って、理事長室に来た。そこにはすでにショートカットの麗人、紫条小萩もいた。


「まさか本当にキミが計画に乗ってくれるとは思わなかったよ」


 師節先輩が今朝の流れを話すと、ありがたいねぇと手放しで喜んでくれた。


「ええ、そうでしょう。昔のあなたならとくにそう思ったのでは?」

「ハハッ。キミにそんな風に邪険に扱われるなんて心外だよ。そう思わないか、桐花くん」

「いいぇ? そう思いませんわ。身から出た錆ですもの、小萩さん」


 あまりこの人にはいい思い出はない。だからちょっと投げやりに扱うとすぐさま師節先輩に泣きつく小萩さん。しかし、師節先輩も俺と小萩さんの関係を知っているせいか、どうでもよさそうだった。


「うわぁーん。桐花にもいじめられたよぉ。なんとかしてくれないか、このコンビを」


 今度は理事長か。

 理事長もあまりテンションが高くなかった。


「無理だな。それと、小萩」

「なんですか?」

「すべて伍赤総花に見破られるとはまだまだだな」


 おっと、珍しいな。この人がいきなり匙を投げるとは。


「それ言わないでぇ! 僕だって、見破られないようにいろいろ回りくどぉく頑張ったんだよ?」

「はいはい」


 小萩さんが一人で騒いでいる中、一人、理事長はなにかを考えているようだった。

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