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小さいときの刷り込みでなかなか離れてくれない幼馴染から離れようとしたら、余計に迫られてます!?  作者: 鶯埜 餡
君知る他知る己知る

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三番勝負

 翌日の授業後、俺らは家庭科室に呼ばれた。


 そういえば授業では使ったことはなかったけれど、そんな教室あったなぁと部屋を見まわす。かなり設備が整っているらしく、かなりいいオーブンや鍋がそろっている。


「じゃあこれからお前たちには三つの料理を作ってもらう。条件は三つ。助っ人は呼ばない、ここにある材料を使うこと、制限時間は六十分間」


 調理台の前に立つ櫻と野苺は二人とも、調理するのにふさわしい格好をしている。目の前にはいろいろ果物や野菜、卵が乗っている。なぜだか肉と魚がないけれど、多分予算の問題だろう、多分。


「それって、なんでも好きな料理を作っていいということですか」


 野苺が興味津々に聞く。この娘、かなり計算しているようで、やってくれそうな予感がした。その一方で、櫻はちょっと凹んでいるというか、いやぁな顔をしている。まあ、櫻は……そうだな。苦手だろうなぁ。


「そういうことだ」

「了解でぇす!」


 薔さんの返事にやったぁと嬉しそうに言う野苺。なにを作ってくれるのか非常に楽しみだ。




 一時間後――――


「……櫻って、料理苦手だったな」

「言わないで」


 案の定、凹んでいた。

 昔、一松の別邸の方で榎木さんと櫻と三人で自炊をしたことがあるけれど、こいつは隙あらば変なものを変な調理法で出そうとしたので、結局俺と榎木さんで作りあげていた。様子を見にきていた茜さんもその惨状を見て、あららと言っている。


「櫻ちゃん、苦手なのね」

「……――――――」


 綺麗に料理を作りあげていた野苺の料理は、まさか即席で作ったとは思えないくらいの飾りつけまでされていた。その一方で櫻のはよく言えば家庭的、悪く言えば見た目がかなり悪かった。


「勝敗は言うまでもないな」


 ああ、本人もわかっているようだ。言わないだけの良心は残っている、はずだ。





 あのあと、食事はそのまま理事長室に運ばれ、屋内練習場に俺らは移動した。

 薔さんも珍しく練習着に着替えている。ここで着替えていないのは……俺と茜さんくらいか。


「次は体力勝負だ」

「っていう名前の模擬戦ですね」

「そうともいう」


 見た目は体力勝負だが、とどのつまりは模擬戦。櫻は体術で、野苺は薙刀で戦うことになるだろう。


「勝負はこの屋内練習場の一階のみ。《花勝負》とは違って、フィールドの制限はない。条件はこれも三つ。制限時間は最大(・・)四十分。三苺は薙刀、一松は体術のみで勝負。当人同士が倒れるまで他の手出しは無用」


 やっぱりそうか。

 そのまま二人は構え、そのまま試合が始まった。あの一松家との勝負のときに見せた粘り強さ、戦いにはならなかった。


「さすがは櫻だな」


 櫻は圧倒的な速さで野苺の薙刀を押さえこみ、そのまま彼女を押し倒した。

 彼女の手捌きはやはり絵になるものだ。試合後、櫻のもとへいくと、なぜかすり寄ってくる。


「どうした?」

「うーん……そうだね。私も勝って嬉しい。でも、彼女も強い。なんていうんだろう。憧れによる強さっていいよね」


 どうしたんだろう。というか、憧れによる強さか。たしかにここに一人、そんな強さを持つ人、茜さんがいたな。


「そうか」

「うん。私もいつかそんな強さを持ちたい」

「そうか」


 櫻の言っている意味がよくわからなかったけれど、彼女がいいと言うならばいいか。次の戦いに向かうべく、着替えにいった。



 最終試験に臨むために生徒会室に戻った二人は、目の前の白い紙を見てなんだろうと無言で推察しあっていた。


「最後は基礎学力、中学校までの内容での勝負だ」


 薔さんの言葉に嘘でしょと真っ青になる櫻。これは『野苺を生徒会に入れるための勝負』だ。櫻が簡単に勝てるものを勝負内容に入れるわけはないだろう。だから、俺はその内容に驚くことはなかったけれど、櫻にとってはショックを受けるのに十分だったようだ。


「へぷっ!?」

「なにか問題でもあるか」


 薔さんも内容を変える気はなさそうだ。お前なら大丈夫だろということなのか、まあせいぜい頑張れよということか。投げやりに言うあたり、性格は悪いよな。


「……いえ、問題ありません」


 シュンとなった櫻だけれど、すぐに切り替えたようだった。


「じゃあ、やるぞ」


 そうして戦いの火ぶたは切られた。二人とも黙って紙に向きあいはじめた。





 そして、数十分後――――


「なんで私が負けるのぉ??」

「……まあ、内容が悪かったなとしかいえない」


 結果は案の定というべきか、櫻のぼろ負けだった。まさか新入生(のいちご)にも負けるとは思っていなかった櫻は、非常にショックを受けている。一方の野苺は余裕だったようで、なんで櫻先輩出来ないんですかぁ? と(わりと真面目に)煽っている。


「ちょぉーっと、それ酷くない?」


 この試合をけしかけた本人でもあるので、さもありなんとばかにりに言ったのだが、どうやら櫻にとっては俺が味方であってほしかったようだ。

 そればかりは申し訳ない、櫻。


「酷くない」


 ちゃっかりとデコピンも食らわせておく。こうやってじゃれるのも悪くはないな。


「お前がもうちょっと勉強できれば、いやしていれば簡単だっただろ?」

「……うーん、そうだけどさぁ」


 とはいえ、ちょっとだけアドバイス(・・・・・)すると非常にいやそうな顔をする。これが櫻なんだと言われればそうだ。いまだに勉強するのは嫌なようだ。



「じゃあ、さっさと諦めな」

「……――――」


 俺の言葉にしゅんとうなだれる櫻。どうやら今の三番勝負での自分の実力をわかったようだ。諦めて野苺を受け入れることにしたようだ。


「っていうことでぇ、私、生徒会会計に就任しましたぁ三苺野苺でぇす。よろしくねぇ、櫻先輩、総花先輩」


 あーあ。

 やっぱりテンション高いな、この娘。嫌いじゃないけれど、自由気まま娘の櫻にときどき絡んでくる茜さんに、テンションアゲアゲのこの娘と個性豊かなこの生徒会。

 果たしてこれから先、どんな展開が待っているんだろうか。





「すっげぇ、嫌そうだな」

「嫌だよ」


 新会計に引継ぎを行った俺たちは、彼女よりあとに生徒会を出た。


 四月上旬の夕方はまだ、薄暗い。

 櫻と二人、影もできていない道を少し早歩きで進む。


「なんでだ?」

「総花をとられるんじゃないかって」


 野苺が生徒会に入ったことがまだ、納得がいかないらしい。すごい不満そうな口調で言われたことに俺は驚く。


「はぁ? そんなこと考えていたのか?」

「え、そんなことって、そんなことじゃないよ、私にとってはすっごい重要なことだよ!?」


 そうか。お前にとっては……いや、なんでもない。それでも安心させるように言う。


「大丈夫だ」

「ほんとに?」


 断言した俺に不思議そうな眼差しで覗きこむ櫻。ああ、大丈夫だ。


「ああ、本当だ。俺は……――――」


 おっと。

 これ以上、言ってはいけない。櫻のためにも、俺のためにも。


「うん? どうしたの、総花?」

「……いや、なんでもない。大丈夫だ」


 頭をゆっくり振って俺は、笑う。

 それが今、彼女に悟られないようにできる精いっぱいのことだった。


「じゃあな」


 ちょうど寮の入り口だった。

 櫻に手を振って、俺は建物の中に入っていった。

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