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小さいときの刷り込みでなかなか離れてくれない幼馴染から離れようとしたら、余計に迫られてます!?  作者: 鶯埜 餡
刻みはじめた残り時間

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白馬の王子様

 遊園地に行く当日、俺は校門で櫻を待っていたのだけれど、彼女の格好を見て、おもわずツッコんでしまった。


「なんでお前そんな恰好なんだよ」


 いや、たしかに前々からお前がしたいって言っていた格好だけれどさ、それでも場所・時間・場面というものがあるだろう。


「うん? だって可愛いじゃん」

「いや……可愛いとかかわいくないとかそういう問題じゃないだろ、それ」


 可愛んだけれどさ。


 そういう問題じゃないだろ。


 遊びにいくのに着物ってチャレンジャーだな。しかも、わりと袖が長いから、絡まりそうな予感しかないんだけれど。

 しかし、櫻はきょとんとしている。

 いいところのお嬢ちゃんであるけれど……ってそういう問題じゃないよな、これって。


「そうかな?」

「そうだ。まあ、お前がそれでいいっていうんなら、それでいいけれど」


 多分、こいつにどれだけ言っても聞かないだろうから、早々に諦めたけれど、多分、いや絶対に遊園地内で絶対に浮く。





 遊園地まで直接行けるバスに乗って、席に座った俺ら。ふと思いたったことを聞く。


「小さいとき、お前って遊園地は連れてきてもらったことあるのか?」


 こいつの幼少期ってあんまり遊びほうけているところを見たことがないんだよな。


「ううん。それどころじゃなかったでしょ、うち」


 櫻は首を横に振る。

 そりゃそっかぁ。コイツの両親は教育熱心(・・・・)だからな。

 一族の掟に反発してまで櫻を首領にしたかった人たちだから、ある意味では真っ当だろうな。

 そういう俺も同じだからな。

 首領の子供というのはそういった具合だろう。それも、嫡子とならば。

 師節家のように男子しか政にかかわれないというところならば別だろうけど、櫻も俺もそういう家庭ではなかった。


「……――ああ、そうか」


 テンションの下がり具合に再び首を振る櫻。

 慰めはいらないんだけれど。


「でもね、最初に一緒に来るのは総花がいいなって思ってたんだ」


 櫻の爆弾発言に耳を疑う俺。そう思ってただ見返していると、同じ言葉を三度繰り返された。どうやら、その言葉は間違っていないようだった。


「そうか」


 そうとしか、俺には答えられなかった。そして、そっと俺のそばに近寄ってくる櫻。膝の上におかれた手を握ってやるとあったかい。このまま少しだけ抱きしめてもいいかと思ったけれど、どこでだれが見ているかわからないからそっと肩に手を添えるだけにしておいた。


「うん」


 その返事は少しだけ嬉しそうな口調だった。







 遊園地に着き、チケットを係の人に提示してから進んでいくと、子供の童謡に出てきそうな世界が広がっていた。日曜日というだけあって、かなり多くの人出があって、新年でもないのに着物を着ている櫻は多くの人の視線を集めていた。

 最初にはティーカップ、次に小さなジェットコースターというようにいきなり激しいものではなく、徐々に慣らしていった。着物姿でかなり長い移動距離を経験したことがあるのか、着物さばきは綺麗で、ほとんど解けそうになることはなかった。


「ねぇ、総花って、高いところ好き?」


 メリーゴーランドの順番を待っているとき、突然、そんなことを尋ねてきた。


「どうだろうな? 標高が高いところっていう意味なら、気にならないな。そもそも薄自体が標高高いから、そこで暮らしてた分、慣れてはいるかな」


 薄の本邸は千五百メートルを超す高山地帯で、生まれて数年はそこで暮らす。だから、低酸素状態という意味では慣れている。

 が、こういったアトラクションでの高さはどうだろうか。


「そっかぁ。私ね、高いところが苦手なんだ」


 そう考えていると、櫻がぼそりと呟く。


「へぇ」

「だから、もし怖がっていたら、ギュってしてくれない?」


 櫻にも苦手なものが勉強とアレ以外であるのだということを知ったことで、ほんの少し嬉しかった。


「……」


 俺の沈黙にダメなの? と覗きこんでくる櫻。そう懇願されたのならば、俺には断れない。

「……わかったよ。しゃあねぇな」

 そう言って、何度目になるか覚えていないが、もう一度、櫻の手をしっかりと握った。



 いろいろなアトラクションに乗って、疲れはてた俺らは帰りもバスでゆっくりと帰る。


「ねえ、ソウって今度、いつ薄に帰る?」


 その道中、櫻がそんなことを尋ねてきた。


「どうだろうなぁ」


 とくに呼ばれることもなければ、そして、親父に万が一のことがなければ、帰る理由はない。そう思っていたけれど、櫻の質問にはなにかがあると気づいた。


「なんか用事でもあるのか?」

「ううん。ただ、一松は三月に臨時会があるし、ほかの家もどうやら集まるっていう噂だからさ、伍赤家もあるのかなってね? ほかの家でもなにかあったのかな?」


 おっと、そんな情報を聞いていなかったな。

 まあ、各家の内部のことは基本ほかの家はかかわらないのが当たり前だから、俺が知らなくても当然か。どこ情報が少し気になったけれど、多分……榎木さんあたりかな。


「そうだったのか。伍赤家(うち)はそんな情報はないな」

「そう。なら、私の思いすごしなんだろうけれど」

「そうだといいだろうな」


 それに越したことはない。だれだって、平和を望むよ。








 寮に着き、別れ間際、櫻に今日のお礼を言う。


「今日はありがとう。楽しかったよ」

「こちらこそ。またいつか、一緒に行こうな」


 櫻も嬉しそうだった。


「うん。今回は観覧車に乗れなかったけども、そのときは一緒に乗ろうね」

「ああ」


 今日は強風のため動いてなかったけれど、いつかまたそのときは。

 約束しよう。

 そう言って、俺は自分の部屋に戻るために建物にはいっていった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 総花が建物に入っていった後、櫻はふうとため息をついた。

 朝、バスの中でそっと手を握られたときは嬉しく、メリーゴーランドでは文字通り白馬の王子様のような彼に憧れた。


「ねえ、総花? 私がなんで今回ソウを一緒に連れていったか気づいている?」


 そう呟くが、当然だれも答えない。彼女もそれを求めていない。


「私もさ、そろそろ覚悟(・・)を決めなきゃいけないんだよね」


 彼の部屋に電気がついたのを見て、少し寂しそうな顔をする。


「一松をとるか、それとも……をとるか。だから、ソウも覚悟決めてよ」

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