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小さいときの刷り込みでなかなか離れてくれない幼馴染から離れようとしたら、余計に迫られてます!?  作者: 鶯埜 餡
刻みはじめた残り時間

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百家繚乱

 その部屋は豪華絢爛というよりも質実剛健と言った方が似合うだろうか。


 もともとは畳敷きの和室だったようで、今は洋室に整えられているものの、当時の面影が残されている。

 机はなく、立派な木製の椅子が正面に一つ鎮座している。そしてその後ろに二つ、それらの椅子に向かって二脚ずつ四家分、計八脚並べられていて、親父と俺が部屋に着いたときにはすでに先ほどどこかへ向かっていった理事長たち以外はそろっていた。


 上座、正面に座る皆藤家から見て右側、海松色の直垂を着ているのは第五位の師節家。ほんわかした先輩の父親と兄君とは思えないほど強面(コワモテ)だ。

 叔父と首領、榎木さんと次期首領がそれぞれ同い年ということから、もしかすると一松と伍赤が不測の事態に陥ったときには、うまく立ち回ってもらいたいなとは勝手に考えている……が、あまり期待はしないでおこう。


 そして師節家の正面に座り、金糸雀(カナリア)色を着用しているのは第四位の紫条(しじょう)家の首領とその娘の次期首領。多五人の首領の中ではもっとも高齢で、来年が首領交代ではなかったか。

 ちなみに紫条家はかつて第三位だった卯建(うだち)家の支流であったものの、四十年前に起こった反乱がもとで本流に成りかわり、五位会議に参入したと聞く。

 そのため土地持ちではなく、伍赤家(うち)よりも古参なのに順位が低いのに納得がいかないらしく、事あるごとに反対意見を言うという現場に出くわしている。


 紫条の隣には緑、木賊色(とくさいろ)の留袖を着た少女、一松櫻が座っている。五位会議における女性の正装は家色の留袖と決められているが、ほかの場所での定めはない。着物以外で違いがあるとすればかなり久しぶりに眼鏡をつけてないような気がする。


 ……気がするというのは、そもそも眼鏡をしだしたのが高校に入ってからだし、当然邪魔になるから戦闘中は外すせいで、眼鏡をした姿自体、あまり印象に残っていないというのが本音ではある。

 とはいえ、ほぼ十か月ぶりに彼女の着物姿を見たけれど、俺とは違ってやっぱり様になっているな。神妙な面持ちでこちらを見ているアイツの後ろには、榎木さんの姿があった。なんだか少し不機嫌そうなのは、先日の俺らとの勝負のせいだろうか。


 先ほど廊下にいたのは榎木さんだったのだろうか。


 現在この色の着物、直垂を着用できるのは榎木さんと、櫻と榎木さんから見てはとこ(・・・)にあたるお兄さんだけだからな。すったもんだで一松家の内情はやばいから、たとえだれかが『宗家』というお墨付きを欲しがったところで、櫻、いやアイツの代理である榎木さんは、それを与えることほとんどないだろう。


 ということを考えるとさっき、あの廊下で見たのは師節の次期首領と榎木さんに絞られるな。



 参加者を見まわしているうちにこの屋敷の主が入ってきた。

 先ほどすれ違ったときと変わらない勿忘草色の着物。皆藤家は唯一、色が定められてないけれど、いっつもこの人はこの色を着用している。そういう理事長の後ろを見ると、茜さんと《十鬼》第二座らしき男性がいる。第三座の薔さんの姿は見えない。


 ……――――茜さん、今日は戦闘スタイル(せいそけいおねえさん)か。


 不意打ち食らった三苺苺との戦いでは曲線が露わになるジャージ姿だったし、先日の榎木さんたちとの《花勝負》では日常スタイル(いろけなおねえさん)だったので、このスタイルを見るのはこちらも久しぶりだった。


 彼女の方を見たとき、目があってウィンクされたのは気のせいだろうか。


「では、これより年賀の儀を始める」


 茜さんにウィンクされた瞬間、理事長から開会の宣言があった。その声に部屋全体が緊張した雰囲気に包まれる。全員の視線が皆藤家首領(りじちょう)に向くが、あの人がそれに動じることはない。


「旧年はどこの家も首領交代の儀式はなく、特別気を張るような事案もなかった。今年も皆のものが安寧に暮らせるようによろしく頼む」


 その言葉にここにいるほとんどが頷く。頷いていないのは茜さんと第二座のお兄さん、そして親父だけだ。そんな様子にお構いなしで、理事長は立ちあがり勢いよく宣言する。


「さて、つまらん話は長々とせずにさっさと御前試合を行うぞ」


 そう言って正面の窓が黒子たちによって開け放たれる。


 ああ、そうだったな。この一年、濃すぎてうっかり忘れそうになっていたけれど、この人こんなノリだったな。

 この皆藤本邸の中庭で今から御前試合が行われる。


 最初に理事長と《十鬼》の第三座から第五座までの三人が模擬戦をし、その後、第一座と第二座が争う。

 そのあとに第五位から順に各家二人か三人が模擬試合を行う。なんのためにこんなことをしなければならないのかと思ってしまったが、これはあくまでも儀式(セレモニー)だったと思いなおした。やることに意味はあっても、やる意味はない。


「どうやら今年は活き(・・)がいい」


 隣で観戦している親父がそう(わら)う。どこか哀れみを含んでいるような気がした。


 薔さんは短刀で理事長の相手をしている。ほかの二人、第四座のお姉さんは棒、第五座のお兄さんはそれよりも短い棒、杖のようなものを武器にしているが、理事長はなにも持っていないということは、あのときとは違って、体術でカタをつけるつもりか。


「だが、あの第三位はまだ戦いなれていないな」


 薔さんのことをそう評する親父に少しだけ同意してしまった。多分、薔さんは憧れだけで《十鬼》に入った。だから『戦いでの強さ』よりも『だれかに認められるための強さ』しか求めていなかったんじゃないかな。


 もちろんそんなことを口にすることはない。でも、あの人をそこそこ知っているからそれは断言できる。

 思いのほか三人、《十鬼》の第三座から第五座までは粘ったようで、なかなか決着がつかなかったけれど、一瞬のすきに攻め込まれ、第四座のお姉さん、薔さん、第五座のお兄さんの順に倒された。


「じゃ、次は茜と夕顔だ」


 三人相手にしたというのに息ひとつ切らしてない理事長。俺にはそれが羨ましかったけれど、多分一生かかってもその域には到達しないだろうな。理事長の声掛けにはいと頷いて庭に降りる二人。

 茜さんはいつも通りの鉄扇で、お相手の夕顔さんは日本刀。おもわず親父が前のめりになっている。

 流氷さんの合図を皮切りに二人がとびかかる。それぞれ体術を組み合わせながら打ちあう姿に目指すべき姿だと認識してしまった。


「綺麗だな」

「はい」


 父親の意見に思いきり同意する。それぐらい二人の戦う姿は綺麗だった。

 試合はさっきの理事長の試合よりも短くして終わった。結果は茜さんの辛勝。夕顔さんの戦い方は間違ってはいなかったし、慣れたもんだったけれど、刀の遣い手としてはかなり隙があった。まあこっちは二本なので、その分の違いがあるとは思うけれど、それでも純粋な刀の遣い手である五條からしたら叩き直したくなるレベルじゃないかな。


「総花、行くぞ」

「はい」


 そんな罰当たりなことを考えていると、父親に呼ばれた。余計なことを考えている間に第五位の師節の試合が終わりそうだった。

 さて、もう行かなければならない時間なのか。

 中学在学中は免除されていたけれど、今年からは正式な次期首領としてこの御前試合に出なければならない。

 中庭に降りるときに二つの視線を感じたけれど、気にしていられなかった。


「次。伍赤家首領、伍赤柚太並びに次期首領、伍赤総花」


 読みあげられたので大きく返事し、中央へ向かい父親と相対する。ともに一礼して、双刀を抜刀する。俺の《湖》は青銀(せいぎん)、父親の《(えん)》は深紅が基調となっている。どちらも芸術になる一級品だ。


「はじめ!!」


 理事長の合図はやけに力がこもっているような気がした。

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