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小さいときの刷り込みでなかなか離れてくれない幼馴染から離れようとしたら、余計に迫られてます!?  作者: 鶯埜 餡
刻みはじめた残り時間

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街中散歩

『常夏魔界』夢野。

『封印高原』夏野。

『漂流離島』雫中(しずくなか)

『学園都市』立睿

『永劫霊峰』(すすき)

『伝承地階』和国(わこく)


 ……――――そして『千里霧境(むきょう)』草蓑。



 武芸百家は土地を持つ家とそうでない家の二種類がある。

 土地を持つ家のうち、一松、傘挿(さんざし)師節(もろぶし)西紀(にしき)、伍赤、五條そして皆藤の本拠、本邸とするところは一般人ならば絶対に行けない場所であり、それぞれに見合った二つ名がつけられている。










 終業式から三日後。


 本当は薄の本邸に寄ってからここに来ようと思ったけど、正装は草蓑に持ってくるからと叔父殿に言われてしまったので、先に草蓑で待つことにした。五位会議が始まるまでには十日ばかり時間があるけれど、しょうがないな。

 その間に薔さんから渡されていた本でも消費しておこうか。そう思って十冊程度持っていくことにしたから、双刀と私服、あとは非常食をまとめたとき、今から数週間の野営でもするのかというのぐらい量になってしまった。

 ちなみに、現在までに読みおえたのはもらった量の六割。伍赤本邸にいたころに比べれば冊数は少なくなっているけれど、この半年前後での一日当たりの冊数は多くなっているんじゃないかな。

 とはいえ、まさか草蓑に来てまで読むことになるとは考えてもいなかった。


「来なきゃいけないのは知ってたけどさ」


 鬱なものは鬱。


 参加必須でなければこんなところになんか来たくもない。それぐらいここには『魔物』が潜んでいそうな気配を感じる。



『千里霧境』の名は伊達ではないからね。

 日々の気温差の平均が十度以上、年間平均湿度六十パーセント以上という非常に霧が発生しやすい条件であり、舗装されてない道や昔ながらの入り組んだ田舎道では一般人が多く迷う。

 文官統制管理下であり、自治体としての機能は存在するものの、管理する首長は皆藤家。この地域全体は武芸百家の敷地内と判断されるので、ほとんどの事件や事故は治外法権扱いされてしまう。


 最寄りの駅で電車を降りた場所から見える高台に建つ武家屋敷。あそここそあと一週間もしたら『魔境』になり、魑魅魍魎(ちみもうりょう)がはびこる館になる。そんな相手達と今後やっていかないといけないのかと今から考えてしまう。

 でも、今日はまだ幸運な方かもしれない。まだ霧が発生していないからな。どんよりとした雲が空を覆っているだけで、進むべき道(・・・・・)を迷わなくて済む。






 昼下がり、駅近くのコンビニで昼食を済ませた俺は無人の駅舎を出て、とくになにもない道を歩く。前に伍赤の別邸に行ったときには感じなかった荷物の重さを感じる。

 荒野に近い道を歩いて十五分ぐらい経ったところで指定されたところにたどり着く。そこはホテルというよりもコテージ、もしくは隠れ家レストランみたいな雰囲気を感じさせる。


「ようこそ、いらっしゃいませ」


 エントランスから入ると支配人らしき女性に頭を軽く下げられる。多分、すでに話は通っているみたいで、余計な詮索はされずにすぐ奥に通された。


 カントリー風の調度というのはこういうものを指すのだろうか。日本家屋とは違った木のぬくもりを感じさせるベッドや戸棚などが置いてあった。伍赤本邸は山の中に作られた日本家屋、伍赤別邸や皆藤別邸は洋館、学園の寮は近代的なビルだから、こういったつくりは俺にとっては目新しいものだった。


「しばらくは一人でいられるな」


 高校入ってからはとくに一人でいる時間が少なかったから、こういった時間はすごく貴重に感じる。まあ櫻や茜さん、薔さんとのやりとりがないっていうのは寂しくも感じるけれど。

 持ってきた荷物を整理したあと、借りた(押しつけられた)一冊の本を開いて、読み進めていく。今日は経済についての評論であり、今までの本とは少し違った内容だった。





 その日の夜はチーズリゾットが主食で、山の中だからか肉料理や野菜料理が多く出され、翌朝もカロリーありそうな食事をとる。

 朝食と夕食はこのホテルで出されるので、昼食をどうにかしなければならないが、せっかくだし体力づくりを兼ねて街中にでも出てみることにした。



 街までは徒歩。

 レンタサイクルもないので仕方なかったが、片道一時間以上歩かなければならないことを考えると、二度目以降来る気にはならなかった。


「いたって普通だな」


 市街地(・・・)と呼ばれるところはいたって普通だった。けれども、どこかこう活気が少ない。もちろん日本三大魔境の一つだから、それは当たり前なのかもしれないけれど、夏野と比べると田舎っぽさを感じてしまう。

 商店街もほとんどがシャッター街になってるし、中央の駅もほとんど人がいない。昨日降りたところの方がまだコンビニがあるだけマシ……なのかもしれない。


 これといった名店とかなにもなさそうなところだったけど、土地だけはある。だれもいない通りをぶらぶらしていたら、お昼になってしまった。歩き疲れてしまったので、通りすがりの定食屋さんに入った。見かけ上はただの高校生だから、傍目からは少々お高くとまってる奴に見えるのかもしれないけれど、ほかに気軽に入れそうなお店がないんだから仕方がない。


「あら、伍赤くんじゃない」

「伍赤じゃないか」


 しかし、柔らかい笑顔のお姉さんと厳つい顔のお兄さんが同時に声をかけてきた。まあ、そうか。この人たち……いや、このお姉さんも五位会議参加組なのか。


「師節先輩、木崎先輩、ご無沙汰してます」


 前の生徒会長である師節桐花先輩と彼女の右腕であった会計の木崎悠斗先輩とともに面識があったが、まさかこの人たちとこんなところで会うとは思わなかった。

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