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小さいときの刷り込みでなかなか離れてくれない幼馴染から離れようとしたら、余計に迫られてます!?  作者: 鶯埜 餡
避けられない宿命の血

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大惨事ってどういう状態?

 通常《花勝負》では五人対五人の団体戦で、ほかの家との勝負という性質上、使用する武器はその家々の流儀に則ったもの。しかし、今回は大将戦のみ二対二での変則戦。こちらにとってみれば十分すぎるぐらいの条件ではあるんだけど。


「なんか気がかりなことでもあるの?」

「ええ」


 茜さんの質問に頷く。


「榎木さんにしてはなんだか力を入れてないような気がして」

「というと?」

「いや、紫鞍さんを連れてきたのは理解できるんですが、それ以外が見覚えがなくて」

「そうねぇ」

「もっとこう、どうしても櫻を連れ戻したいならば、宗家長老あたりを連れてきてもよさそうだなと」

「なるほどぉ」


 俺の推測に考えこむ薔さん。彼にもなにか思うところがあるのだろうか。


「まあだからといって、彼らが勝ってくれればそれでこちらはいいんですが」

「うーん……――」


 俺と薔さんの他愛ない会話をよそに、勝負が始まるようで、初戦、先鋒戦で戦う二人が中央に進みでる。




「あんた誰?」


 私たちの情報に全然引っかからなかったんだけどと一松家側の先鋒はぼやく。俺はその光景を見てあーあと嘆きたくなる。端っこに座っている櫻だけだろう、この有り様を見て表情一つ変えてないのは。


「敵ながらあれじゃあ、彼女もかわいそうだな」

「全くだわね」


 どうやら理事長も茜さんも俺と同意見だったみたいだ。それぐらい、目の前の光景はちょっと惨状というものだった。


「……はぁ。あのさぁ、ボクも無償で請負ってるわけじゃないんだよ? なんでこんなガキひとりのためにボクが駆りだされなきゃなんないんだよ」


 少女、一松梨香の目の前にいる、地面に刺さった大鉈の上に乗っかってるジーパン男、三苺苺がそうぼやく。どうやって刺したのかわからないが、試合会場が屋内練習場じゃなくてよかったと誰しもが思ってるだろう。

 それにしても、皆藤家と同じようにあいつはマルチプレーヤーなのか。

 俺はお家芸である双刀以外使えるのは体術だけ。しかも、それ込みだと戦闘力は非常に落ちる(・・・・・・)。だから、実質的に使えるのは双刀だけだといっていい。

 梨香という少女は二つに結んであった髪を試合直前だというのに、束ねなおす。精神統一方法は人それぞれだから、とくに口をだす気はないが、少し変わった子なんだろうか。


「そろそろ位置につけ」


 試合は五戦とも薔さんがとりしきる。榎木さんが喧嘩を売ったのは理事長であり、茜さんが試合に出るということで中立性がなくなるから、仕方のないことだった。


 二人、一松梨香と三苺苺が薔さんをはさんで両側に立つ。


「はじめっ」


 薔さんの合図で二人がぶつかりあう。一松梨香は素手で三苺苺を殴りかかろうとし、やつはそれをかわす。彼女の攻撃をかわしたあとに今度は攻勢にでる。


「ていっ」


 三苺ならば薙刀術を極めているはずだが、どうやらやつ、三苺苺はそれを使わずに戦うやり方がお好きらしい。俺と茜さんを襲撃したときは素手、櫻と戦ったときは鎖鎌、そして今は数本のペティナイフで応戦している。間合いをとらせないようにしながら投げては拾う(スローアンドコレクト)を繰りかえしてる。


「……なんでっ!?」


 自身の攻撃が最初以外入らない彼女はそう唸っている。それに対してびくともしないで的確に追いつめていくやつは狩人のようだ。

 しかし、あるタイミングでその流れが変わった。それは苺が放ったナイフの一本を梨香がへし折ったときだった。


 よっし!!


 小さく頷いた彼女だったが、苺のほうは動揺をみせない。

 そんなやつを傍目に梨香は一気に間合いを詰め、投げられたナイフを次々とへし折りつつ直接攻撃をしかけるために近づいて、正面から見て左側に勢いよく足払いをかける。


「勝負がついたな」

「……はい」


 最初は勢いよかった三苺苺。

 しかし、一度ナイフをへし折られてから一切、攻撃をしようとしなかった。なにか櫻を狙ったのと関係があるのだろうか。それとも、自分のナイフ投てき術が通用しないことに気づいてやる気をなくしたのか。


 どちらにしても本来ならば懲罰ものだが、不問にするという契約で苺を雇うことになったと不満そうに薔さんが言っていた。それに問えないのは残念だけど、一松の人間、しかも名もない人に負けたという事実には変わらない。心の中でざまぁみろと思っても悪くないよな。




「次もかわいそうだな」

「……全くです」


 理事長が同情している時点で終わりだろう。目の前の光景に頷くしかない。

 目の前で対峙しているのは女同士。

 当初は笹木野さんにお願いする予定だったらしいけれど、どうやら日程があわずに彼女、三苺野苺に頼んだようだ。


 しかし、彼女も苺に負けないくらいのインパクトがある。


「どこの武将ですかね、あれは……」

「さあな」


 彼女は時代錯誤じゃないかといういでたち、紫色の鎧直垂に袴、鉢巻きというものだったのだ。

 いや、直垂自体は五位会議や正式な《花勝負》で男子が身につけるべき正装だから、女性である彼女が身につけたところで、なんら問題ないんだけれど、さすがに籠手や脛巾までつける必要がないだろうと思うが。

 大鉈に乗っていた苺と比べてインパクトは欠けるが、それでもこちら側、理事長、茜さんそして俺は絶句するしかない。



 先ほどと同じように薔さんの合図で対戦がはじまった。

 最初はやや野苺の優勢で試合は動いていく。まあ、遠距離攻撃を仕掛けることができる薙刀を持っている時点で彼女の方が著しく有利ではあるのだが。


「ねぇ総花君」


 試合を観戦していた茜さんがそっとしゃべりかけてきたから、なんでしょうとこちらもそっと問いかけると律義ねぇと苦笑いされた。


「すっごいやな予感するんだけれど」

「奇遇ですねぇ。俺もです」


 多分茜さんと考えていることは同じだろう。でも、やつとの契約の関係上、それをこの場で問いつめることはできない。

 俺たちの不安をよそに試合は進んでいく。


「……――!!」


 開始から十五分。案の定、その予感は的中する。野苺の薙刀の刃が欠け、それに気をとられた彼女の首筋に胡桃の手刀が当てられる。しかし、彼女に悔しいという表情はなく、むしろどこか誇らしげな雰囲気だった。


「勝負あり」


 それに気づいているのか、勝負がついたことを宣言する薔さんの表情は苦々しげだ。


「悔しいわね」

「ええ」


 契約さえなければ、やつらを問いつめることができたのに。茜さんも非常に悔しそうだったのに。

 だったらその悔しさを試合にぶつけてきてやろうじゃないか。

 朝一で筋トレと自主鍛錬はしておいたが、もう一度軽くストレッチをする。


「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい」


 茜さんに声をかけてまっすぐ前に進みでる。

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