めんどくさいったらありゃしない
それからはしばらくの間、茜さんと一緒に行動することになったのだが……――
「ねぇ、なんで茜さんはここに来ることにしたんですか?」
「それって前に話したよね? 私が来たのは保健室で薬品の臭いまみれになってる総花君を見たいからだって」
授業後、茜さんの誘いで学校外のファストフード店に来ていた。周囲からは妙齢の女性が制服姿で年頃の少年を誘惑してる姿にしか見えないよなぁ。だって、そういう視線しか感じないんだもん。
たまにはこういう味も食べたいのよねとフライドポテトをつまみながら悠長に返す茜さん。いや、俺が聞きたいのはそこじゃない。
「あのですね、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、どうして学外のファストフード店に来たのかっていう話です。それに、あなたが学園に来たのは違う理由でしたよね?」
質問の意図と目的をはっきりさせると同時に、ツッコむべきところをツッコむ。この人のペースに巻きこまれたらたぶん、精神的に生きて帰れない。俺の剣幕もどこ吹く風で、茜さんはあら、そうだったかしらとバーガーを頬張る。
「少なくとも張り紙をした犯人は学校の関係者。よっぽどの事情がない限り、寮と校舎を行き来するだけ。だったら、屋内練習場、屋外練習場のどちらかにおびき寄せるくらいで十分なんじゃありませんか?」
俺の問いかけにそうねぇと首を傾げる。いや、全寮制だから、正直学校の敷地外へ出かける手続きが面倒だったんだよ。あんたは教員特権で簡単に出れただろうけどな。
ジト目になった俺に怖いわぁと大げさに肩をすくませる茜さん。しょうがないわねと言って、炭酸飲料を飲み、ナプキンで口元を拭ってからその理由を言いだした。
「あれから、私考えたんだ。で、推論を作ってみた。多分、それが正しければ、犯人は学内の人間じゃない。少なくとも武芸科の人間のやることじゃない。これは理事長も認める公式見解。でも、武芸百家の誰かがやったこと。もちろん、学内にもう一回忍び込ませて、直接戦闘を行うようにしむけてもいいけれど、それだと、多分、相手の思うつぼ」
「思うつぼですか?」
「うん」
疑問に頷く茜さん。
「多分、相手は学内での戦闘行為、そうね、例えば生徒会長の座を狙う者《鬼札》だとしたら?」
茜さんの推測におもわず席を立ってしまった。だとすると――――
「大丈夫。これも憶測でしかないけど、今回はあの子を狙ったものじゃないわ」
「へぇ」
「そう。あなたを狙ったものよ」
それは俺にとって災難以外なにものでもなかった。
「はぁ」
どこにメリットがあるんだ、その推論。俺を狙ったところで、一松みたいに実力主義でもないから次期首領の座が転がり込んでくるなんていうこともないし、むしろ、武芸百家の刑罰の中で最も重い『首領殺し』を適用される。そんなばくち打ちしてまで俺を狙う意図なんだろう。
「もちろん、あちらのほうが警備はしっかりしているし、その道のプロが多いんだから、学内のほうが襲撃を撃退しやすい。でも、こちらのほうは一般人が多いから、狙いくい。理由として考えられることとして、生徒会副会長絡みか、櫻ちゃん絡みか。私が犯人だったら、櫻ちゃん絡みで襲撃したくなるわね」
にっこりして言い切られたが、非常に怖い内容だ。
三十分ぐらいファストフード店で時間をつぶしてから、今度は近くの雑貨屋さんに入った。ユニセックスな雰囲気の品物が揃っていて、どうやら対象は若者むけというところか。茜さんはなぜか色違いのベレー帽を買ってきて、片方を俺の頭にのせた。
「うん、よく似合う」
一人で満足げに頷く茜さん。もうふざけるなとか言う気力が起きず、ただ黙って、なされるがままになっていた。
「さ、じゃあ帰りましょ」
茜さんはウキウキで俺の腕をつかむ。若干、引きずられながら、帰途についた。
「二、三日は、こんな感じでしょうか」
人の喧騒が聞こえてこない静かな住宅街。最初に茜さんたちに襲撃されたのも確かここらへんだったような。
「そうねぇ」
茜さんは考えこむ。しかし、次の瞬間、動きを止め、前をしっかり見た。どうかしたんですか? と聞こうとしてやめた。
「戦闘許可領域内に入ってくれてありがとう、伍赤 総花くん?」
疑問形で感謝された俺は笑いすてる。得物を持ってきてないときに、こうやって襲撃されるなんてな。
目の前にはまるで自分でカットして、失敗したのかというような、ギザギザな前髪の青年。どこかあの変態兄貴と似通っているのは気のせいか。
「いいよ、ねーちゃんも、戦闘に入ってきて」
『彼』は嗤う。
「一松 櫻ちゃん?」
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