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ライバル意識

「どういうこと?」


 茜さんはその『脅迫状』の中身を見た瞬間、ぽかんとした様子になった。


「いやぁ、そのまんまじゃないですか」


 俺はひらひらとその紙を振る。


「『夏野高原で待つ』、ひと昔前の果たし状でもここまでシンプルかつなにも差出人(おのれ)のことを書いてないものはありませんでしたよ」


 前に見させてもらったことのあるそれを思いだしながら嗤う。本当に何も差出人の情報、どうやって決着をつけるのか、そして、誰にそれを見させたいのか、わからないものだった。そのせいで……といっては親父に怒られそうだが、それが教室の出入り口に貼られていたのに気づいた昨日から、授業に集中できていなかった。


「そうねぇ」


 なにかを考えこむ茜さん。なにか策でもあるだろうか。少し考えたあと、パチリとウィンクしながら微笑んだ。



「まあ、とりあえずは理事長に相談してみましょ」





「厄介だな」


 茜さんの提案どおり、理事長にそれを見せにいったら、開口一番、そう面倒くさそうに言う理事長。


「夏野といえば、皆藤の訓練施設がある。そこで『待つ』ということは、奴らもそれなりに皆藤家(うち)に詳しいか、もしくは……――いや、それはないか」


 彼が言うのをやめたのは、おそらく『皆藤家の誰かが仕掛けた』ということだろう。まあ、理事長や茜さん、薔さん以外を知らないし、皆藤家の事情を知らないので、理事長たちに恨みを持ったものの犯行、という可能性も否定できなくはないが、今のところはないと信じていいだろう。


「とりあえず、しばらくは様子見しかあるまい。あとはそうだな、しばらくの間はキミと櫻嬢、それぞれ別行動をとってもらいたい」


 その言葉に驚いたのは俺だけではなかった。むしろ、茜さんのほうが激しく反応していた。


「マジですか」

「どういうことよ、流氷様!? 櫻ちゃんと総花くんを別行動させるって、そのほうが危険じゃない!?」


 茜さんの罵りにもとれるその言葉にも理事長は飄々としている。


「いや、そうとも限らんぞ?」

「え?」

「もし二人を狙ったものならば、櫻嬢と総花くんを夏野で狙う意味はない。むしろ、ここで仕留めるほうが簡単だ。それにもかかわらず、ここには『夏野で待つ』と書かれている。二人が本当の目的ではないのか、もしくはどうしても二人に行かせたいのか。それを判断するためにも二人が狙われなければならない」


 理事長は冷静に指摘していく。少し物騒な単語が聞こえてきたが、聞かなかったことにした。


「どうすればそれを判断できるのか。答えはひとつしかないだろう?」


 その問いかけに茜さんはまだ理解していない、もしくは理解したくないようだったが、俺はなんとなく理解できてしまった。


「別行動をすれば戦力が減る。とはいえども、一緒にいるときと比べて遭遇する機会が増える」


 その推測に頷く理事長。


「そのとおりだ。一より二、キミたちには悪いが囮になってもらう」

「そんな!?」


 彼の言い草に悲鳴を上げる茜さん。


「茜さん、落ちついてください」


 俺は茜さんに落ちついてもらおうと肩を柔らかくたたく。自分が興奮しすぎていたのに気づいたのか、涙目でこちらを伺う彼女はとても《十鬼》の第一座とは思えない。


「大丈夫ですよ。少なくとも櫻は大丈夫です」


 宥めるように言うとほんとぉ? と言ってくる。なんだか、庇護欲をかきたてられるのは俺だけだろうか。


「そこまで言うならば、茜、総花くんの側にいなさい。もちろん、保健室業務をきちんと行うことが必要条件だが」


 理事長の言葉にわかりましたっと勢いよく返事する茜さん。いや、待って。俺の意見は? そう思って、二人を見たが、すでにどういう風に俺を守るとか警護時の格好とか決めはじめている。どうやら俺の意見は必要ないらしい。








「じゃあ、よろしくね、そ・う・はくん?」


 その言葉に俺は回れ右をして、逃げたくなった。


 いや、目の前にいるのは可愛いらしい立睿高校のブレザーに黒ストッキング、女子高校生らしいシルエットの細い腕時計。胸の大きさと戦闘力以外は普通の女子高校生なのだが、その二点があるがゆえに、俺は命の危機を感じている。


「……――なにしてるんですか、茜さんは」


 しかも、うしろからもなんか来た。怖い。しかし、それに怯まない茜さんはなぜか俺にもたれかかる(しだれかかる)ように手を肩にかける。


「いやぁ、ちょっと理事長に頼まれてさぁ。ねぇ、総花くん?」

「はぁ。とりあえずはその格好じゃなくてもいいとは思いますが」

「つーれないなぁー」


 ベロリと手を引きはがして抗議するが、まともに取りあう様子もない。仕方ないので、櫻に状況説明する。


「今朝、脅迫状が貼ってあっただろ? その対策だ。しばらくは俺とお前は別行動だから」

「だから?」


 俺の説明にはあ? という顔をする櫻。うん、気持ちは理解できる。


「まあ、私の意識を高めるため?」


 なんで張本人のあんたが疑問形なんだよ。櫻はへぇと冷たく相槌をうつ。


「私は総花くんの護衛になるから、そのための意識向上用です」


 茜さんはようやくちゃんとした理由を言った。なるほどねぇ。


「だから、櫻ちゃんは心配しなくていいよ」


 茜さんの言葉になにも言わなかったが、片眉だけ上げる櫻。そして、なにも言わずに立ちさる。


「じゃ、総花くんよろしくねっ」


 これ幸いとばかりに再び肩に手をまわす茜さん。少し離れたところからピキッという音が聞こえてきたような気がしたが、気にしないことにした。

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