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君がいない世界

作者: 竹下千代


「巧さん、隣の奥様が坂田屋のどら焼きをくれましたよ」


老女の声に、縁側で新聞を読んでいた老人は、顔を上げ、


「そうか」


と、一言発し、また視線を新聞に戻した。


老女は、ポットから茶を注ぎ、緑色なのか白なのかわからない色をしている湯飲みに、


茶を注いだ。


「あら」


老女は、珍しく華やいだ声を上げた。


「巧さん、茶柱が立ちましたよ」


「そうか」


老女はにこにこしながら、老人のそばへどら焼きと茶を入れた湯飲みを乗せた盆をそっと置いた。


「おい」


「なんですか」


「お前も食わないか」


「あら、いいんですか?」


「どら焼きがでかすぎるんだ」


「あらあら、珍しい」


「さっさと割れ」


「はいはい」


老女は老人の隣に正座をし、どら焼きを半分に割り、片方を皿に戻し、自分は片方をもち、食べ始めた。


「あら、このどらやき、栗が入ってますよ、巧さん」


「お前は昔からやかましい」


「あら、すみませんねえ」


老女はそれでも笑みを浮かべながら、春の日差しに目を細めていた。




「ちょっと、アンタ! またキャバクラ行ったでしょ!?」


マッチ箱を掲げながら、理恵は巧を追求した。


「静かにしろ。子どもたちが起きるだろう」


「まったく……。人が何もできずに夜遅くまで待ってやってんのに……」


「明日は早く職場に出るから、5時には弁当用意しといてくれ」


「はあ!? 買いなさいよ!」


「じゃあ、金くれ」


「1週間前にお小遣いあげたでしょうが!」


「それとは別だ」


「もう……! あんたとなんか結婚しなければよかった!」


「俺もだ。もう寝るからな」


用意された食事は、誰にも食べられずにシンクに捨てられた。



3(高校時代)


「巧ー、一緒に帰ろー」

「おい、未来の嫁が来たぞ、巧」

「不吉なこと言うなよ、いやだよ、あんなブス」

「ちょっと、なんか言った?」

「なにも言ってねえ。こいつがお前のこと可愛いってさ」

「えー、アンタみたいな柔道馬鹿に言われても……」

「なになに?理恵さんは、やっぱり巧君一筋なんですか?」

「「だれがこんなやつ!!」」



4(幼稚園時代)


「はーい、皆さん、今日から、新しいお友達を紹介しまーす。

立川理恵ちゃんです。理恵ちゃん、ご挨拶してください」

「……立川理恵です。よろしくおねがいします」

「「「よろしくおねがいします!!」」」


その時、幼稚園の同じ組にいた佐原巧は、立川理恵に一目ぼれしていた。




5君がいない世界



 その時巧は4歳だった。両親がケンカをしていたので、近くの空き地でシロツメグサを

摘んでいた。

 その時、ふいに予感があった。

 これから、永遠とも思える時間を一緒に過ごす人間が現れると。

 それは、春風のように巧の人生に舞い込んできて、巧を一生離さないことを。


 その予感に、巧は空に向かってにっこり微笑んだ。




<終>


お読みいただきありがとうございます。

待っている方はいないとは思いますが、連載小説の続きは気を長く待ってくださると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もしかしたら、これはすごい作品かもしれない。 何か読んでいて、よくわからない感動がある。 仲が悪そうなのが、逆にいいっていうか……。 すごく面白かったです。
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