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カスレアみかん!  作者: あもら
ウェルカム! ラーグタウン編
5/79

持っている。持っていない。極端なんだよなー。

「登録申し込みが終わりました」


 リブレが四角い箱を抱えて俺たちの元にやってきて、抱えていた物を机に並べた。一つは鎖のついたカードで、俺の名前と何かの記号が書かれている。もう一つはボイルたちが対戦していた時に使っていた道具、『カードブック』のようだ。


「このカードが魔術ギルドのメンバーカードだ。こども会員だから橙色だ。登録完了には道具に血を覚えさせる必要がある。カードブックも同様だ。」


 うげっ。


 どうやら、自分の血を血判のように押し当てる必要があるそうだ。

 横に振り向くと、ボイルが腰の鞄から注射針を取り出していた。更に奥ではカイラが正座をしている。ソファーの横、茶色の木材の床でだ。

 正面ではいつの間にか、リブレの手に短刀のような刃物が握られている。それは沢山枝分かれをしていて、ねじれた曲線が交差している。少なくても、血判を押すために指を傷つける刃物ではない。


「ボイル、お願いします……」


 ボイルは注射針で俺の小指を軽く刺す。

 元の世界でも腕に注射針を刺す機会はあったが、それよりも痛みが強い気がする。痛さを感じやすいのは指先だからなのか、この体だからなのか、俺にはそれを知る術は無い。

 少し涙目になりつつも、俺は自分の血をカードに押し当てる。カードは水が染み込むような質感をしていないのに、血を馴染ませている。血の跡が消えて無くなった時、カードは霧のように消えてしまった。


「消えた! カードを無くしたら再発行してくれるの?」

「いや、無くしていないよ。自分の手にカードが出るように念じてごらん」


 俺はリブレに言われたとおり、自分の手にカードが握られている光景を想像した。すると光も霧もなく、メンバーカードは俺の手に握られていた。そしてカードが消えるように念じると、その想像も現実になった。これなら無くす心配はいらないようだ。

 カードブックも同様に血を与えて、自分の物にする。これもカードと同様に、自分の意思で出したり消したりできるようだ。本を開くと色々なカードが並べられていた。ページをめくると枠の色が違う物もある。


「カードの枠の色は、その属性を表している。6属性の色は見れば分かるだろう。黒は全ての属性で使用できる色だ」


 確かにカードは赤、青、緑、茶、白、紫、黒の7種類の色がある。

 端には属性を表す記号が小さく刻まれている。色だけでなく記号を見る事でも、属性を判断できるようだ。


「6属性全部あるのか……」

「全ての属性に適性がある人は殆どいない」


 ボイルが言葉をこぼして、眉をひそめる。

 少し、彼に話しかけ難い雰囲気を感じて、俺はリブレの方に視線を向ける。


「属性の適性って、どうやって決まるの?」

「才能と性格と環境の3つとされている。どの要素が強いかは個人差があるかな。魔力の量を測ればもう少し分かるかもしれない。試してみるかい?」


 リブレは服のポケットから透明な石を取り出した。

 俺はリブレの提案にうなずいて、その石を手に取った。石はガラスのように透明で、角付近では虹色にも見える。しかし、それ以外には特に何も起こらない。魔法のような事は、何もない。


「うむ」


 リブレは石の反応を見て頷いた。その顔は驚きも憐れみも無く淡々としているが、俺の心の雲行きが怪しくなる。

 ボイルの顔に答えが浮かんでいるようだった。彼の口元はわずかにつり上がっていた。


「魔法が使いたいなら、精霊から加護を受けるしかないな」

「そんなー!」


 異世界に来て魔法が使えると思ったら、俺には才能が無かったのだ。

 でも、リブレはカードゲームで精霊から加護を受ければ魔力が上がると言っていた。まだ救いはある、そう思う事にする。


「この魔力の無さは才能ではない」

「へっ?」


 突然のリブレの言葉に、俺は調子の抜けた声が漏れてしまう。


「全ての属性に適性があり、魔力が無い。これは才能や性格、環境の影響を受ける前の、最初の状態だ。君は最初の状態で今ここに居ると言ってもいい」

「そんな事はあり得るのか?」

「『魔法』という存在から疎遠な環境で育ってきたのなら、あり得るのだろう。その環境がどこであるかは、君が考えてくれ」

「……変な奴だな。お前は」


 ボイルがリブレの言葉に興味を持ち始めたが、質問の答えの一部は曖昧にされてしまう。

 リブレの顔は落ち着いていて、確信はしていないが目星はつけているようだった。一方でボイルは俺の顔を凝視している。自分の素性を探るような視線は良い気がしない。


「カードゲームのチュートリアルの時間だよー!」


 正座していたカイラが飛び跳ねて、ボイルはその大声に耳を塞ぐ。

 カードブックを無事に手に入れた。次はルールを覚える番だ。


「という訳で、私が相手になってあげよう! さあ、こっちに来るのだ!」

「よ、よろしくお願いします……」


 カイラが俺の腕をつかみ、強引に外の広場へと連れて行く。


「俺はミカンの補佐役だな」


 ボイルはため息をついて、俺たちの後ろについて行く。


「カイラ。ミカンはまだ初期デッキだから、君も初期デッキで戦いなさい」

「わ、分かってるよ!」


 リブレはカイラに忠告して、俺たちを送り出す。カイラの動きが一瞬止まった事から、分かっていなかったようだ。



「よっしゃ! 街の地図を借りてきたぞ!」


 一人の少年が建物の奥から歩いてくる。少年は羽根飾りの青年を見つけると、その隣に立ち疑問に思う。


「ミカンはどこにいるのさ?」

「彼女なら『ドリクロ』で対戦しに、カイラに連れ去られたよ」

「ええっ!? あいつもドリクロ始めたのか!?」

「今はカイラとボイルがルールを説明している所だろう」

「お、俺の出番は? 先輩としての出番は!?」


 少年は羽根飾りの青年に詰め寄る。青年は、少年の肩を優しく叩く。


「残念でしたね」

「そんなー!」


 少年はがくりと床に崩れ落ちたが、彼の心情は建物の外の者が知る由も無かった。


黄色は犠牲になったのだ……多色を表す金色が途中で消えた……その犠牲にな……。

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