6 ヤングレッドドラゴン
グラディオという仲間を手に入れてから5日経過。
俺達はリザードマンの巣から離れ、探索をしていた。
仲間が増え、ニトロストーンも大量に確保できたし、もう最初の洞穴に戻る必要はないだろう。この5日間で何度か魔物とも出会った。
リザードマンの巣を離れてから最初に出会ったのは、ウェンウルフという狼の魔物だ。
スピードは速いが他のステータスが貧弱であまり強くなかった。
ただ、必ず群れで襲い掛かってくるので、グラディオの存在は助かった。
他にも《光学迷彩》のスキルを持っていた“エビルカメレオン”や全身が刺々しい“ニードルバグ”などが現れた。
ウェンウルフの肉は美味しかったが、エビルカメレオンの肉はイマイチ、ニードルバグについては食べる気が起きなかった。
だってバッタだぞあれ。
グラディオは「もったいないもったいない」と嘆いていたが断固拒否です。
グラディオの槍捌きは中々のもんだ。
相手を自分の間合いに入れることなく、次々と魔物を屠っていた。
《邪槍》というスキルは特に強力で、一度受けた魔物は『状態:呪い』になり、何もしなくてもジワジワと弱っていくのだ。
ただ、強力なだけに、日に何度も連発はできないらしい。
呪いは聖魔法が使えないと解除できないので、うっかり俺に当たらないように気を付けなければいけない。人間の街には教会があって、聖魔法を使える者が大抵いるんだけど、この姿じゃ街の前で速攻討伐されちまうな。
それにしても、最初は気のせいかと思ったが、洞穴から離れれば離れるほど魔物が強くなっていた。
まるで俺の成長のためのステージと言われても不思議じゃないな。
ああ、エイリューンたんのご加護か・・・。いやまて、ハングリーベアは一歩間違えてたら普通に殺されてたな。
弱肉強食に厳しいエイリューンたんも好き。
まあ、そんなこんなで森を探索しつつ経験値を稼いでいった。
そして今日、ウェンウルフを数頭狩ったところでついに
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リュウLv.20
種族 ドラゴンキッズ(変異種)
体力 250/250
魔力 200/200
攻撃力 200
防御力 200
素早さ 300
称号 【竜を愛する者】【エクスプロージョン】【サイレントキラー】
スキル 《火の息》《鑑定》《爪貫き》
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ヤングレッドドラゴンの進化条件であるレベル20に達した。
やっとか、ここまで来るのになかなか時間がかかった気がするぞ。
他のアホドラゴンがうっかり神竜に進化してエイリューンたんと結婚してました、なんてオチは想像したくない。
進化の場面を俺は実は見たことがない。
恐らくだが、進化しているときは何らかの隙が生じるのだろう。
普通の魔物であればどこかに身を隠して進化するはずだ。
でも周りに隠れられそうなところはないな。グラディオに護衛してもらえば大丈夫か。
「ん?なんだ、どうした?」
俺が歩みを止めて座り込むと、グラディオは何事かとあたりを警戒する。
伝えなくてもやってくれるんだから優秀な奴だ。
では早速・・・
『ドラゴンキッズ(変異種)からヤングレッドドラゴン(変異種)に進化します。』
エイリューンたんの美しい声が響く。耳が幸せ。
お?始まったみたいだ。体の奥が熱くなる。
バキバキと音を鳴らしながら体が肥大していくのがわかる。
いてて、ちょっと痛いな。筋肉痛みたいな感じだ。
「おお!進化か。」
さすがグラディオ、一目でわかるとは。ちゃんと守っててくれよ。
確かに進化中は動けそうにないわこれ。
恐らく数秒~数十秒だろうが、たしかに隙ができるね。
あ、だんだん熱が引いてきたな。体の肥大化も止まったみたいだ。
『個体名“リュウ”は、ドラゴンキッズ(変異種)からヤングレッドドラゴン(変異種)に進化しました。』
『スキル《火の息》が《火炎放射》に進化しました。』
『スキル《爆裂パンチ》を獲得しました。』
『スキル《爆破耐性》を獲得しました。』
『スキル《竜言語》を獲得しました。』
ぎゃああ!エイリューンたんに“リュウ”って呼ばれちゃった!
これもう両想いでいいよね?
お、やっと体が自由に動くようになったな。
鏡がないから全体の見た目は分からないが、なかなかに成長したように思う。
身長は多分180cmくらいだろうか、キッズの頃と比べれば二倍以上の成長だ。視界が高い。
腕が特に太いな。丸太だろこれ。腕力主体の攻撃になりそうだ。
赤黒い鱗はそのまんまだな。グリーンのほうに進化していたら緑色になったのかもしれない。漆黒の爪も、以前より鋭さを増したように見える。《爪貫き》が強力になるな。
ステータスも見てみよう。
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リュウLv.1
種族 ヤングレッドドラゴン(変異種)
体力 480/480
魔力 300/300
攻撃力 360
防御力 300
素早さ 400
称号 【竜を愛する者】【エクスプロージョン】【サイレントキラー】
スキル 《火炎放射》《鑑定》《爪貫き》《爆裂パンチ》《爆破耐性》《竜言語》
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ほうほう、かなりステータスアップしたな。レベル1でこれならこれからに期待できる。
スキルのほうも結構新しくなったな。
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《火炎放射》:魔力を消費して火炎のブレスを吐く。射程は15mほど。
《爆裂パンチ》:爆破属性を纏ったパンチを繰り出せる。
《爆破耐性》:爆破・熱にある程度耐えられる。
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おお、《火の息》がさらに強力になって《火炎放射》か!また火力調節の練習しないとね。
そして《爆裂パンチ》、これはなかなか強力そうだな。たぶん【エクスプロージョン】の称号を持っていたから獲得できたんだろう。
《爆破耐性》は《爆裂パンチ》とセットのスキルなんだと思う。自分の技で手が吹っ飛んだなんて笑えないしね。
「進化が終わったようだな。驚いたぞ、我よりも大きいではないか。」
グラディアが感心したように俺の体をじろじろと見る。
そういや《竜言語》を獲得したみたいだし、もう会話できるはずなんだよな。
声出してみるか。
「ア、ああ、あーーー、お、しゃべれるな。大丈夫?通じてる?」
生まれて初めて「ガウ」以外の声が出せた気がする。いやドラゴン以外が聞いたら今も「ガウ」にしか聞こえないんだろうけどさ。
「おお、我と同じ言葉を喋れるようになったのか!これはいい、ジェスチャーだけでは不便だったからな。」
「ああ、これでやっと伝えられるな。」
「ん?何をだ?」
「グラディオ、お前もうどっかいけ。」
この五日間、ずっと伝えたかったことをやっと口にできた。
グラディオは中々使えるし賢い。でも一緒に魔物と戦えば、どうしたって俺の経験値の取り分が減るのだ。
一刻も早く神竜にならないといけないのに、このハンデはなかなか辛い。
「な、なぜだ!!あんなに一緒に戦ってきたではないか!それにあんな美味い飯・・ゴホンゴホン!」
あんなにって、たった五日だろうに。そういやコイツ飯も食いすぎだ。俺の“料理”が大層気に入ったようで、毎日とんでもない量を食べている。作る側の身にもなりなさい。
「俺は一人で旅をしたいんだ。ここでお別れだ、今ままでありがとうな。」
「ならん!命を救われた恩を返さねばならん!この危険な森に一人で行かせるわけにはいかない!」
たしかに魔物の数は多いな。でも恐らくだが俺より強い魔物はもうこの森にはいないだろう。
「必要ない。お前よりもう俺のほうが強いしね。」
「駄目だ!まだこの森にはヌ「くどい!《火炎放射》!」
ゴオオオオ!
グラディオのすぐ脇を、火炎が通り過ぎる。
紫の鱗がチリチリと焦げている。
「恩なんかどうでもいい。・・・次は当てるぞ。」
「ぐ・・・わかった。さらばだ。」
グラディオは何度も振り返りながら森の奥に消えていった。
共にしたのは短い時間だったが、俺はグラディオのことは嫌いではない。
忠実に動いてくれるし、戦闘でのサポートもよく気を使ってくれる。
何より性格が気さくで一緒にいて楽しかった。
こんな別れ方は正直胸が痛む。
でも仕方ないな。おれの優先順位一位は神竜、つまりエイリューンたんなのだから。
時間がないんだ。俺の旅に仲間は不要だ。
よし、切り替え切り替え!次の進化先を確認してみるか!
――――この時、不穏な気配がリュウに近づいていた。