プロローグ 生まれ変わって神竜目指します!
俺の名前はリュウ、ドラゴンをこよなく愛する男だ。
リュウという名前は、王国の筆頭竜騎士だった親父がつけてくれた名だ。
親父もまたドラゴンを愛した男であり、愛竜と〇〇していたところを母に見られ、そのまま出ていかれた。
「魔物と交わるなんてなんということだ!異常性癖!」と王国全体のさらし者になったが、なぜそこまで怒られるのか俺にはわからない。
だって俺もドラゴンが大好きだったからね。
息子が同志だと知った親父は大喜びで一緒にドラゴンを探す旅に出た。
まあどのみち王国ではもう暮らせなかったしね。一日100回は家に石が投げ込まれてたし。
それからしばらく親父と二人でドラゴンを見つけては眺めたり求愛したりした。ちなみに愛竜は親父に無理やり行為をさせられた後、逃げるように飛んで行った。
俺が15歳くらいの時だったか、親父はたまたま出会った“タイラントドラゴン”という超危険種のメスに一目ぼれし即求婚、そして即食われた。
下半身を貪られながら、親父は今まで見たことないような幸せそうな顔で死んでいった。
「俺はこの子に会うために生まれてきたのだ。」
親父のこの最後のセリフが今でも忘れられない。
死に様は羨ましかったが“タイラントドラゴン”は俺の好みではなかったのでダッシュで逃げた。
それからは暇つぶしに教えてもらった剣術を頼りに冒険者をしながら、俺も“自分の生まれた意味”とさえいえるような好みのドラゴンを探した。結局俺も親父と同じ穴の狢ってわけだ。
かわいいメスドラゴンにちょっかいをかけているオスがいたときは片っ端からボコボコにしていった。もちろん殺しはしないよ?性的感情を持つのはメスだけど、俺はドラゴンという種族全体を愛しているからね。
オスドラゴンばかりを倒して、“ドラゴンスレイヤー“と囃し立てられたこともあるけど、特に興味もなく最高のメスを探し続けた。
あるとき偶々仲良くなった古竜のオスからこんな話を聞いた。
「ドラゴンが愛するのはドラゴンだけだ。」
なんということか、俺が人間のままでは相思相愛になれないという事実が判明した。
それから俺は人間の生をあきらめた。
「来世では絶対ドラゴンに生まれよう。そして最高のメスと番になるんだ」
心に決めた俺は25歳から80歳まで、365日、1日20時間、ひたすら祈りを捧げた。
来世のためを思えばちっとも苦行ではなかった。
そして80歳の春、森の中で俺は息絶えた。
――――目が覚めると、そこは空の上だった。
あたり一面に広がる雲海と美しい日の光に目を細める。
どうやら空に浮かぶ宮殿のようなところに俺は立っているようだ。
自分の体を見てみるとなぜか若返っている、20歳くらいの若さだろうか?
『お目覚めですか?』
後ろから聞こえた鈴の音のような声に振り向くと、そこには女神がいた。
20mを超える巨躯に白銀の鱗、筋肉質ではあるものの、逞しくはなく、しなやかさを感じさせる体のライン。
緩やかなカーブのある黒い角に、愁いを帯びた金眼。
いままでに見たこともない美しさを持つドラゴンのメスだった。
「結婚してください。」
『は?』
もちろん即求婚。親父、あの時の親父の気持ちがようやく分かったよ。おれは彼女になら喜んで食べられよう。
突然の求婚に女神は驚いたように目を見開く。
『私の聞き間違いですかね・・・ようこそ、ここは竜神界、本来“神”を関する竜のみが入れる世界ですが、人間であるあなたの魂がなぜか迷い込んでしまったようです。』
「聞き間違いじゃありません、結婚してください。」
『はえ?!』
どうやら目の前にいる女神のようなドラゴンは本当に“神”らしいが俺には関係ない、俺にはもうこの人(竜)しかいない。
長年続けた祈りが、俺をこの女神の元へと運んでくれたのだろう。感謝感謝だ。
「一目惚れです、どうか俺と番になってください!」
『お、驚きました。ドラゴンに本気で求婚する人間がいるとは・・・コホン、しかしそれはかないません。ドラゴンはドラゴンとしか交わることはありません。』
女神の頬がかすかに赤くなる。ああ、なんて可憐なんだ。
「愛の前にはそんなものは戯言です!結婚してください!」
『ええ・・』
あれ、女神が少し後ずさってしまったぞ。
『し、しかし私は“女神竜”です。私の夫となるドラゴンは“神竜”と決まっているのです。ま、まだこの世では“神竜”は生まれていませんが・・・』
「わかりました、俺が“神竜”になればいいのですね!」
『えぇまあそうですが・・・はい!?人間のあなたが!?』
威厳ある姿の女神が素っ頓狂な声をあげて驚く。そんなギャップもたまらなく愛おしい。
「来世では俺はきっとドラゴンに生まれ変わります!そして“神竜”になった暁には、もう一度あなたに求婚します!!受けてくれますね!?」
俺の体がだんだんと透けていく。きっと本当の死が近づいているのだ。ここにいられるのもあとわずかだろう。
最後の力を振り絞って女神に詰め寄る。
『その時は・・・・・・はい・・・。』
ポッと効果音を出して頬を染めた女神は、顔をそむける。
「ああああああああ!かわいいいい!最後にお名前を聞かせてください!!」
『か!かわいい!?はわわ・・・わ、私の名前はエイリューンです。女神竜エイリューン・・・』
俺の体がとうとう宙に浮き、地上へと吸い込まれていく。
「女神竜エイリューン様!私リュウは、必ずや“神竜”となり!貴方を必ず自分のモノにして見せます!待っていてくださぁーーい!」
さぁーーい・・・
さぁーい・・・・
サァーイ・・・・
と木霊を残して、人間リュウの魂は地上へと戻っていった。
『・・・・あんなに激しい求婚を受けたのは初めてだったわ・・・』
竜神界に浮かぶ宮殿で、女神竜は火照った顔を冷やすのだった。
◇◇◇◇
数日後、地上に一つのドラゴンの卵が産まれた。