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第五章:暗殺指令2

 「・・・・随分と活発に動きますね」


 ベレンゲラはアンドーラの説明に感情を込めず言葉を発した。


 「あの駄犬に嗾けられたのだよ。また奴自身も野心家だから・・・・焦ったのだろう。奴自身も遅れる形になるがオリエンス大陸に行くのが証拠だ」


 しかしとアンドーラは区切った。


 「宰相たる私を襲撃する計画を立てた輩を国外に逃がしたとなれば我が国の面子は丸潰れだ」


 それを阻止するのは一つとベレンゲラは答えを導いたがアンドーラが喋るのを待った。


 「だから私は奴を是が非でも捕らえなくてはならんと考えている。例え“棺”に入ったままでも・・・・な。無論オリエンス大陸に出発したコンキスタドール達も“同じ“だ」


 「・・・・・・・・」


 アンドーラの言葉にベレンゲラは「然る人物」が頭に浮かんだ。


 駄犬と同格か、それ以下の人間だが実力は申し分ない。


 おまけに宮廷の醜い政争とは完全に一線を敷く形で過ごしている第3皇女の信頼も厚いから悪魔と取引でもしたかと思える。


 しかし第3皇女とは違い・・・・その然る人物は野心家だった。


 その証拠に言葉巧みに第3皇女の名を利用し国外に打って出て・・・・シャインス公国を手玉に取っているのだからな。


 もっともコンキスタドール達のように仲間割れが起こったのか、シャインス公国に派遣した奴等と揉めているとも聞いている。


 だが・・・・アンドーラの言葉を借りれば・・・・他人を焦らせるには十分な行動を然る人物はした。


 恐らくコステロ伯爵は然る人物の行動を見て自分の立場が危うくなると焦って第3皇女に接触を図り今回の問題を起こしたと考えて良いだろう。


 もっともコステロ伯爵を焦らせた当の本人は今も国内で何かと動いているのは違う点だ。


 とはいえ・・・・もし、奴が国外に出ようものなら棺に入れてでも出してはならないのは同じ事だがコステロ伯爵を今の時点で評価するなら・・・・・・・・


 「・・・・愚かな男ですね」


 ベレンゲラは魔石に映し出されたコステロ伯爵を氷のように冷たい言葉で一刀両断にした。


 本来なら魔石で映し出された映像を斬るなんて出来ない。


 しかも刃物ではなく言葉で斬るなんて不可能だが・・・・ベレンゲラは不可能を可能にしてみせた。


 そしてアンドーラを真っ直ぐ射抜く勢いで見て答えた。


 「アンドーラ宰相。この件、御引き受けしましょう」


 「そうか・・・・貴殿なら引き受けてくれると思っていたので助かる」


 「御言葉を返すようですが私は貴方を助ける為にコステロ伯爵を斬るのではありません。あの誇大妄想家の魔手から辺境男爵夫人を護る為です」


 誤解なさらないで下さいとベレンゲラは真っ向からアンドーラに言ったが、それをアンドーラは黙って受け止めた。


 そしてコステロ伯爵の現在地などをベレンゲラに教えると席を立った。


 「では、これで失礼する。しかし、また問題があった場合は連絡させてもらう」


 「えぇ、お願いします」


 ベレンゲラの氷のような返事にアンドーラは苦笑しながらも護衛を連れて部屋を出て行ったが、その後をフェルナンドは追いベレンゲラに代わって見送る。


 「・・・・・・・・」


 一人残されたベレンゲラは暫し無言で立っていたがフェルナンドが戻って来ると口を開いた。

 

 「暫し留守にするので私に代わって騎士団を指揮しなさい」


 「御意。団長には無用かもしれませんが・・・・どうか、御気を付けて」


 「気遣い感謝します。それから今日の内に貴方が認めた騎士を10名、従騎士及び従者を100人ほど用意して下さい」


 私は国内の問題を片付けますとベレンゲラは言い、その言葉にフェルナンドは鷹揚に頷いた。

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 ベレンゲラは再び一人となった。


 フェルナンドは直ぐに仕事に取り掛かったからだが、こちらも仕事をする必要がある。


 『コステロ伯爵は国都の郊外に在る桟橋近くの街道宿に居る』

  

 アンドーラの情報は正しい筈だから間違いないだろう。


 今から移動魔法と馬を走らせれば今日の夜中には辿り着ける。


 そこでコステロ伯爵と、コンキスタドール達を処理すれば国内の問題は一先ず終わる。


 後はオリエンス大陸に向かっているコンキスタドール達を処理すれば終わりだ。

  

 もっとも一度の失敗では第3皇子は諦めない筈だが、そこから先はアンドーラの問題とベレンゲラは考えている。

  

 「私は、自分の仕事を片付けるだけ」

  

 改まったようにベレンゲラは声に出したが、それから先は国都に向かう準備に取り掛かった。


 先祖から受け継いだラメラ・アーマーを着て、その上から表地が赤紫で、裏地が黒のマントを纏う。


 そして左腰に黒漆の大刀を吊るし、後ろ腰には30㎝前後の短剣を差した。


 瀕死の者や鎧の上からでも心臓を突き刺せる「慈悲の短剣」である。

 

 もっともベレンゲラの持つ短剣は先祖が創意工夫した短剣なので正式名称は無い。


 そんな短剣をベレンゲラは右手で抜いて刀身に異常が無いか確認した。


 先端は錐のように鋭利だが、厚い刀身は両刃なので首を掻き切る位は造作もない。


 また血抜き用に樋を掻き、鍔の無い柄の後部である柄頭にはリングが取り付けられていて先祖の経験が活かされていた。


 ただ、それだけ長い月日を掛けて使われたからだろうか?


 今まで血を吸ってきたからか・・・・青白い光を妖しく放っていた。


 「・・・・・・・・」


 ベレンゲラは慈悲の短剣を鞘に納めると部屋を出て灯火で辛うじて明るい廊下を歩き出した。


 その表情には何ら感情は見られず能面のような印象を受けるが纏う空気は違う。


 アンドーラが言った異名の通り・・・・まさに氷の騎士だった。

 

 しかし前方から現れた人物を見るなり片膝をついて頭を下げた。


 「・・・・相変わらず動きが早いですね」


 ベレンゲラの頭上に静かなソプラノ声が降り掛かってきたが、ベレンゲラは深く頭を下げて詫びた。


 「・・・・申し訳ありません。騎士団を預かりながら留守にします」

  

 「それは仕方ありません・・・・私と亡夫の間を未だに認めない父ですが、それでも私と息子に便宜を図っているのは事実です」


 それに報いる必要があるとベレンゲラを見下ろす婦人は静かに呟いた。

   

 「ベレンゲラ。気を付けて行って来なさい。私の方は心配いりません」


 第3王子や駄犬が群れをなして来たとしても・・・・・・・・


 「この地には足の指先だろうと入れさせたりはしません。また私の身も彼奴等には指一本だろうと触れさせたりはしません」


 貴女は貴女の仕事を全力で取り組み片付けなさいと婦人は言い、それに対してベレンゲラは頭を下げたまま答えた。


 「有り難き御言葉を・・・・では、出かけて参ります」


 我が騎士団の主人にして辺境男爵夫人ことマリア・デ・スルエタ・イ・カルメン様。


 ベレンゲラはアンドーラの愛娘であるのに今も寡婦として過ごし続ける女主人のフルネームを言い、膝を上げた。


 「気を付けて行って来なさい。我が亡夫・・・・の愛弟子」


 「ハッ・・・・・・・・」


 マリア辺境男爵夫人の言葉にベレンゲラは真っ直ぐ視線をマリア辺境男爵夫人にやって頷いた。


 それに対してマリア辺境男爵夫人も真っ直ぐベレンゲラを見つめ返したが直ぐにベレンゲラはマリア辺境男爵夫人の横を通り過ぎて馬小屋へと向かった。


 馬小屋に行くと既に愛馬の手綱を掴んだ老練の従者アドリアがベレンゲラを迎えた。


 「相変わらず準備が良いですね」


 ベレンゲラは亡父の代から従者として仕え続けているアドリアの迅速な行動を称えるがアドリアは苦笑して答えた。


 「従者として当然の行動です。しかし、その称賛は有り難く受け取らせて頂きます」


 そう言いつつアドリアはベレンゲラが愛馬に跨ると既に描いていた魔法陣の上から離れて手を翳し詠唱を始めた。


 すると魔法陣が光り出したと思いきや・・・・ベレンゲラと、その愛馬の姿は消えた。

 

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