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第四章:暗殺指令

 ベレンゲラはアンドーラ宰相が差し出した書状を読み終えると首を横に振った。


 「第3皇子は、この国始まって以来の”誇大妄想家”ですね」


 「あぁ、私も同意見だ。しかし、それを見せた悪童は・・・・本気だった」


 アンドーラの冷たい口調にベレンゲラは無言となるが、あの駄犬ならやりかねないと思ったのは否定できない。


 それを見抜いたようにアンドーラは語った。


 「貴殿も知っているだろうが第3皇子の側近共は宮廷内の争いで敗れたか、地方貴族の軍閥から派遣された輩だ」


 だから一癖も二癖もあるような連中なのだ。


 「その中でも筆頭なのは・・・・あの駄犬ですか」


 「そう考えて良い。もっとも奴が在籍していた軍閥は・・・・奴を殺そうとしている」


 アンドーラの台詞にベレンゲラは大して興味が無いとばかりに首を横に振る。


 「この国で生きている人間なら幼子でも解る筈です。”昨日の友は今日の敵”を我が国は地で行くのですからね」


 「ふっ・・・・何時も冷静沈着な態度を崩さないのは”氷の騎士”の名に恥じないな?」


 しかし口数が増えたなともアンドーラは茶化すように言った。


 「そうかもしれませんね。ですが・・・・駄犬が元味方に殺されても宜しいのではないでしょうか?」


 寧ろ第皇子の側近でも駄犬が一番目立つなら・・・・貴方には目障りの筈ですとベレンゲラは異名の通りアンドーラに言葉という剣を振り下ろした。


 「確かに・・・・悪童が元味方に殺されるという展開が私には最も望ましい」


 アンドーラはベレンゲラの言葉を否定せずにフェルナンドが差し出した茶の香りを楽しみながら答えた。

 

 「あの悪童は若い頃の私に似ている。ただ、若さと彼奴の性格故かな?良い役者にはなれない」


 少なくとも自分なら元仲間から刺客を放たれるような馬鹿な真似はしないとアンドーラは断言した。


 その発言は決して自惚れではなく経験と実績から来た答えとベレンゲラは知っていたので鷹揚に頷く。


 「確かに・・・・あの駄犬は、宰相閣下ほど洗練さはありませんね。また小事は小事と考えている節があります」


 少なくともアンドーラは「小事は大事」という言葉を知っているから今も宮廷内で生きているとベレンゲラは見ていた。


 しかし、あの駄犬は違う。


 大きな事をやろうという意気込みと行動力などはあるし頭の回転も極めて早いが・・・・粗さと小事を疎かにしている節があった。


 『だから元味方からも命を狙われているのでしょうね・・・・・・・・』

 

 それで死ぬなら自分も愛剣を血で汚さずに済むとベレンゲラは内心で思ったがアンドーラは首を横に振った。


 「貴殿の気持ちも理解できるが事は・・・・そう簡単ではない」


 「どういう事ですか?駄犬が居た軍閥もそこそこの人材は居る筈です」


 あの程度の駄犬を一匹くらい駆逐するのは楽な筈とベレンゲラは指摘したがアンドーラは首を横に振った。


 「彼奴の現立場は第3皇子の第1側近であり・・・・第2皇女の相談役なのだ」


 これを聞いてベレンゲラは納得した。


 「第2皇女は駄犬の古巣と協定を結んだばかり・・・・下手に刺激したくない訳ですか」


 「その通りだ。そして第3皇子も彼奴を失うのは現時点で痛手だから影ながら護っているのだよ」


 だから辺境の軍閥は手を出せないとアンドーラは説明しながら新たな書類をベレンゲラに見せた。


 「この書類は先日、宮廷で手に入れた物だが見てくれ」


 アンドーラが差し出した書類をベレンゲラは見たが眉を顰めた。


 「・・・・この計画書は貴方様の眼には?」


 「いや、来ていなかった。何せ・・・・その書類に書かれている団体は我が国の援助は受けん」


 だから宰相たる自分には届け出を出さないで決定したとアンドーラは語るが苛立っているのか、眼は軽く痙攣していた。


 「・・・・半世紀以上も前に流行った代物を引き摺り出すとは・・・・やはり第3皇子は誇大妄想家ですね」


 「しかも視点が定まっていない。まったく・・・・つくづく馬鹿な王子と私は思うよ」


 あれでは実父である皇帝陛下から「憐れなピエロ」と渾名されても仕方ないとさえアンドーラは酷評した。


 しかしベレンゲラも納得しているのかフェルナンドに書類を見せた。


 書類を読んだフェルナンドは暫し書類を見ていたが首を横に振る事で2人と同じ評価を下した。


 ただし言葉にも出したのが違う。


 「“コンキスタドール”をオリエンス大陸の独立地帯である“大カザン山脈”に派遣して侵略の足場にするなんて馬鹿げた計画です」

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 フェルナンドの言葉にアンドーラは鷹揚に頷いた。


 「貴殿の言う通り・・・・実に馬鹿げているよ。確かに私が幼少期の頃にコンキスタドールの手によって南北大陸は我が国の“保護国”に出来た」


 しかし、それ以後はコンキスタドール達は活躍していない。


 行動はしていたが南北大陸の一件で他の大陸は一層の警戒心を抱いたし、また海を越えるので船が必要だが・・・・その船を用意できないという問題が大きかった。


 「だが、そんな建前の理由より・・・・我が国から遠く離れているのを良い事自分勝手に動いたのを宮廷が重く見たからではないのですか?」


 フェルナンドがアンドーラを揶揄するように言えばアンドーラは肯定するように頷いた。

 

 「あ奴等は目先の利益しか考えておらん。とはいえ動くのが些か遅すぎたのは否めん」


 当初は宮廷から文官と武官を派遣し、その上で正規軍も派遣した上でコンキスタドール達を叩き潰す予定だったとアンドーラは語った。


 「しかし奇しくも先々代皇帝が後継者を指名しないまま崩御されたので、例の如く宮廷の政争も激しさを増した。ここはコンキスタドール達に都合良く働いた」


 「ですが・・・・宮廷の政争が終わり、改めて正規軍が派遣された事でコンキスタドール達は宮廷が出した要求を飲みましたね」 


 それによって南北大陸は本当の意味で帝国の保護国になったとベレンゲラは最後を纏めた。 

 

 「奴等が宮廷の要求を飲んだので我が国には定期的な外貨が入って来て助かっている。些か彼奴の懐に入っているにしても」


 「・・・・・・・・」


 「この点を第3王子は目を付けた。そして・・・・自分が一番乗りする腹なのだよ」


 我が国から古の時代に逃げた奴隷達が築いた国に侵略する事を・・・・・・・・


 「もっともオリエンス大陸には既に刀剣騎士団と、魔導団が行っているがアガリスタ共和国に行っている筈だ」


 「なるほど・・・・あくまで”サルバーナ王国”には入っていないから自分が一番乗り出来ると第3王子は踏んだ訳ですね?」


 あぁ、そうだとアンドーラは感情を込めず答えた。


 「・・・・ここまで幼稚な上に誇大妄想家とは呆れますね。これなら遙かに第1王女や第2王女の方が分別を弁えています」


 ベレンゲラは第3皇子の妄想に辛辣な評価を下すが誰も否定するような言葉は言わなかった。


 ただアンドーラは相槌を打った。


 「確かに・・・・御2人の方が目的が明確である。何より御2人は帝位に興味を持っていない」


 この点を私は好きだとアンドーラは言いながら・・・・漸く訪れた理由を話した。


 もっともベレンゲラは今までの会話から既に答えは見出していたので聞く事に徹した。


 「第3皇子の意を受けたコスキタンドール達は既に船で出発した」


 「・・・・・・・・」


 「だが・・・・そんな奴等より優先的に始末しなければならない輩が居る」


 その輩こそ今件を第3皇子に持ち掛け、実行に移させた輩であるとアンドーラは説明してからベレンゲラに言った。


 「貴殿の手で・・・・この者を殺してくれないか?」


 相手は駄犬ではないとアンドーラは断ってから魔石を取り出すと軽く握って発動させた。

  

 魔石が発動されると一人の男が映し出されたがベレンゲラは知っていた。


 「・・・・帝国軍事士官学校の教頭コステロ伯爵」


 「この人物が第3皇子の為にコンキスタンドール達を集めた。あろう事か・・・・自分の生徒を使ってな」


 「・・・・・・・・」


 ベレンゲラは何も言わなかった。


 それは、この国に生まれ育てば否応なく人間の二面性が激しいと思い知らされるからだ。


 またアンドーラも知っているのか説明を続けた。


 「貴殿は顔見知りだから近付くのは容易の筈だ。そして奴は新たなコンキスタドール達を派遣しようとしている」 

 

 しかし場所は国内とアンドーラは言い、ベレンゲラは合点したように頷いた。


 「貴方を殺す訳ですか」

  

 「そう聞いている。そして返す刃で・・・・この地に居る私の娘を第3皇子に差し出す腹だ」

 

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