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第二章:夜に訪れた客

 「うぅぅぅ・・・・寒い・・・・」


 「あぁ、寒いな。しかし、こういう日に飲む酒は格別だぞ?」


 鉄門の上に築いた見張り台の上でベレンゲラ付きの従者シモンは先輩騎士のアベンから渡された革袋に入った酒を飲んだ。


 かなり度数は高いのだろう。


 見る見る内に身体が内側からポカポカしてきた。


 「はぁ・・・・温かいです」


 「だろ?しかも今夜の酒は亡き辺境男爵が造酒した秘蔵品だ。香りも良くて、味も良いという美酒の中の美酒さ」


 アベンの言葉にシモンは妙に納得できる部分があったのか頷いた。


 ただ、この冷える夜で酒だけを飲んで過ごすには厳しいのか、アベンにベレンゲラの愛剣について尋ねた。


 「ベレンゲラ団長は古の時代から伝わった大刀を愛剣としていますが・・・・あれは亡き父君から送られたのですか?」


 「いいや。あれは遠き先祖---初代騎士団長から今に掛けて受け継がれてきた剣さ」


 「初代騎士団長から・・・・つまり古の時代から」


 シモンは何とも凄い歴史を持った剣と思ったが、アベンは笑いながら修行中のシモンに説明した。


 「ちゃんと手入れさえ怠らなければ武具や防具は形を変えず次の世代に受け継がせる事が出来る。ただ問題なのは使い手の腕さ」


 お前も扱い辛いのは知っているだろと言われてシモンは頷き、次に理由も述べる事でアベンの「一手」を阻止した。


 「あの剣はロングソード等のように我々が使う剣とは違う独自の特徴があるので会得するには長い年月を要しますね」


 「あぁ、その通りだ。こればかりは努力だけでなく才能も必要とされる」


 しかし・・・・・・・・


 「ベレンゲラ団長の実家は違う。先祖から今に掛けて全員が完璧に使いこなしている」


 これは実に貴重な存在であり伊達に先祖から続く騎士の家柄ではないとアベンは断言した。


 「しかも剣を抜く所を今まで見た奴は誰も居ない。あのショウリン家の人間ですらな」


 「ショウリン家の人間ですら?!」


 宮廷剣術指南役の任を今も務め、そして名剣士を多数輩出しているショウリン家すら見えないという事実にシモンは驚いて大きな声を出した。


 だが、直ぐにアベンから軽く叱られた。


 「夜に大声なんて出すなよ。女じゃ・・・・クロスボウを持て」


 アベンの雰囲気が一瞬で変わったのを見てシモンは直ぐにクロスボウを持った。


 対してアベンはロングボウに矢を番えて何時でも引けるようにしながら・・・・暗い闇から近付いて来る灯火を睨み据える。


 その灯火は4つで、車輪と馬の鳴き声から察するに馬車だろう。


 だが・・・・明らかに平民などが乗る馬車ではない。


 魔法器具と魔物の皮や骨をふんだんに使い防御力を格段に向上させた特注品の馬車の音だ。


 「・・・・第3皇子の手下か?なら一発御見舞いしてやるよ」


 アベンの言葉にシモンは自分とベレンゲラが不在だった時に何か遭ったと察した。


 しかし、クロスボウで近付いて来る馬車を狙い撃つ事にだけ集中したが間もなくフェルナンド副団長が来て「開門の準備」を命じたので拍子抜けした。


 「何で開門の準備を?」


 フェルナンドにアベンは理由を問い掛けたが相手には察しがついたのか、確認の意味が強いとシモンは捉えた。


 「あの馬車---キャリッジは・・・・大公家のキャリッジだからだ」


 簡潔にフェルナンドは説明し、それにアベンも納得したがシモンは疑問を口にした。


 「こんな夜に・・・・しかも大公直々に来るんですか?」


 先程の会話で大公が訪れたのは判ったが、それでも再び国都からここまで来るという事には正直に疑問だった。


 何せ国都からこの地まで早馬を飛ばしても数日は掛かる。


 もっとも移動魔法を使えば問題はないがシモンには大公自らが来るのかという疑問を腐食し切れないでいたがフェルナンドはこう答えた。


 「お前は若いから知らないのだろうが大公は必要とあれば自分で出向く。それが自殺行為に見られてもな」


 それくらいの危ない橋を幾度となく渡って来た人物とシモンは説明されるも今一つ納得できない所があった。


 余りにも身分の差があり過ぎて逸話さえ妖怪じみた話があるからだが従者である自分の立場を弁えたのだろう。


 フェルナンドの命令に従い、アベンと共に開門の準備を始めた。


 そしてキャリッジが鉄門の前で停車する頃に開けられるようにした。


 鉄門の前でキャリッジは停まった。


 改めて見ると確かに金が掛っているし、大公家の紋章がドアに飾られていたキャリッジとシモンは思った。


 だがキャリッジの乗馬従者は黒いローブで顔を隠しており容姿などは隠している。


 キャリッジの後ろに居る従者も同じだったがフェルナンドは乗馬従者に声を掛けた。


 「このような夜に訪れた理由は何でしょうか?」


 「貴殿等が所属する騎士団の団長たるベレンゲラ伯爵に大公がお会いしたいので参上した。開門を願う」

 

 「承知した。直ぐ開門する」


 フェルナンドは乗馬従者の説明に了承するとシモンとアベンに鉄門の開門を命じた。


 命じられるままにシモンとアベンは鉄門を開門した。


 するとキャレッジは素早く鉄門を潜り館の中に入り、そのまま館の方へ向かったがフェルナンドはジッとキャレッジを見ていた。


 「どうしたんですか?」


 シモンはフェルナンドの様子に違和感を感じたので問い掛けてみた。


 「・・・・キャレッジを護る護衛の騎士団は何処に居た?」


 この言葉にシモンはハッとした。


 確かに王侯貴族が乗る馬車の類には護衛の騎士団が必ず付く。


 それこそ王族の次に実力を持つ大公家なら300人前後の騎士団が少なくとも5つは付く。


 ところが・・・・・・・・


 「あのキャレッジには、護衛騎士団が誰も・・・・居ませんでしたね」


 シモンの言葉にフェルナンドは無言で頷いた。


 「そうだ。何時もなら大公お抱え護衛騎士団が居る筈だ」


 「“聖血騎士団”と“白十字騎士修道会”ですね・・・・?」


 シモンは何度か見た大公家を護る2つの組織名を挙げた。

  

 それにフェルナンドは頷いたが、その2つの組織が居ない事の疑問をアベンに投げた。


 「・・・・自領を防衛させる為に大人数は残し、自分の護衛は必要最低限にしたって所ですかね?」


 「そう考えて良いだろう」


 「・・・・男の尻ばかり追い掛ける餓鬼に押し負けるとは大公も老いましたかね?」

 

 名前こそ出さないが第3皇子の事を直球で皮肉るアベンをシモンは恐い物知らずと思った。


 もっとも自分達は第3皇子と敵対しているから悪く言うのは些か致し方ない面はある。


 何よりアベンの皮肉は正論だったから否定できない。


 ただ、ここまで直球で皮肉る所は自分には無理とシモンは結論を下した。


 ところがフェルナンドはアベンの皮肉に対して首を横に振った。


 「あの大公は普通の老人とは違う」


 年齢は既に還暦を超えているが足腰はシッカリしているし背筋もピンとしている。


 そして・・・・・・・・


 「今まで宮廷内で”勝者”として生き残ってきた手腕は健在と見て良い」


 ただ今は防戦になっているのは確かとフェルナンドは言った。

 

 「お前も知っているだろうが第3王子の手足は我々のような騎士団ではない」


 かといって教皇庁の加護を受けて出来た騎士修道会でもない。


 「組織から浮いた存在の連中だ」


 「確かに、第3皇子は”使い捨ての兵隊人形”を使いますね」


 「そうだ。しかし、ここ最近は決して単なる使い捨ての駒とは言い難い実力を持つ奴等が出て来た」

 

 だが・・・・・・・・


 「我々の役目は変わらん。大公が何か言おうと気にするな」


 『ハッ・・・・』


 フェルナンドの言葉にシモンはアベンと一緒に頷いた。


 「では夜警を続けろ。私はベレンゲラ団長の所へ行って来る」

 

 フェルナンドは2人に背を向けると足早に館の方へ向かって行き、残された2人は改めて夜警を再開した。


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