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第九章:憐れな道化師

 月桂樹と、その枝に咲いた百合の花を左右から平らげるように双頭の蛇が描かれた紋章が在る描かれた旗の下に設けれた玉座。


 その玉座に座る壮年の男性は今から来る3人目の愚息を想像して嘆息した。


 「やはり・・・・あれは”憐れなピエロ”だな」


 正妃との間に儲けた3人目の男子だが、男は辛辣な評価を変えなかった。


 だが、その辛辣な評価は正妃も同じなのは・・・・やはり自分と同じだからだろうか?


 第2子として先代皇帝の御子として自分は誕生し、人質として政敵の家に養子に出された長子に代わり自身は長子扱いで帝位に着けた。

 

 しかし次男という事もあり周囲の眼は良くなかったし自分も帝位に相応しいとは思えなかった。


 もっとも帝位に相応しいと思えなかったが先代皇帝は自分を跡取りに任命した。


 それは下手に自分の色を出さず、ただ敷かれたレールを辿る形で今の帝位の土台を築き上げたからだろう。


 それを先代皇帝も「良くやった」と褒めてくれた。


 『自分の色を出すにも加減がある。しかし、それをやり過ぎては儂が築いた物が泡末と化す』


 ここを自分はしないと皇帝は踏んだから跡取りに任命したが、この「馬鹿正直な性格」を愛してくれた事も知っている。


 だからこそ自分が帝位を継承した際に「身内には甘い顔をせず厳しく接しつつ・・・・飴を時には与えて手綱を握れ」と教えてくれたのかもしれない。


 身内だからこそ頼れる時もあれば・・・・時に非情な姿勢を見せなくてはならない時があるのは在位10余りで身に染みている。


 とはいえ亡父に比べれば自身の方は子息・子女に困っていないというのが現皇帝たる自分の正直な気持ちだった。


 長子たる第1皇子は知勇兼備で自分の後を受け継げる実力を兼ね備えている。


 第2皇子も多少の「おいた」はしているが補佐役として申し分ない。


 第1、第2皇女に至っては帝位継承に興味を示さず専ら愛した男性に愛を向けている。


 本来なら有力貴族の正妻にしたいが、それをやれば娘達は実力で逆らうだろう。

  

 それなら好きなようにさせるべきだ。


 別に女子だから帝位を継げない訳ではないが、男親としては女性として幸せになって欲しいという率直な気持ちが強い。


 もっとも・・・・第3皇子と、第3皇女に至っては勝手が違う。


 「・・・・あの娘も・・・・姉妹揃って困った男達に恋したものだ」


 皇帝は嘆息した。


 あの皇妃との間に生まれた娘達は3人居る。


 だが、第3皇女は子息・子女の中でも清らかな性格なのは妻と同じ評価だが同時に「夢見がち」な性格とも見ていた。


 だからこそ得体の知れない「異世界から来た男」に良いように使われているのだろうが・・・・・・・・


 『あのつまが手を打つとなれば問題はあるまい』


 自分より数歳年上の妻は既に2人の男と結婚した過去のあるからか、こういった問題には自分より長けている。


 それ故に第3皇女の問題は任せたが第3皇子の件は自分に任せる辺り・・・・・・・・


 「女とは・・・・かくも恐ろしいものか」


 正妃である自分の立場を確保しつつ皇帝たる自分の顔も立つように動く辺りは・・・・・・・・


 まさに女の能力を遺憾なく発揮していると皇帝は思わずにはいられなかった。


 しかし、それはそれで良い。


 『・・・・今回ばかりは許せん』


 以前から第3皇子の所業は目に余ると思っていた。 


 もう直ぐ来る愚息に対し怒りを皇帝は蓄積始めたが、それから間もなく・・・・憐れなピエロは現れた。


 といっても憐れなピエロこと第3皇子は反省の色は見られず寧ろ自身を正当化させる態度を見せている。


 『こういう所は妻に似ているな』


 愚息の態度を内心で呆れつつ臣下の態度を取った愚息に語り掛けた。


 「・・・・アンドーラ宰相を暗殺せんとしたようだな?」


 世間話など不要とばかりに問い掛けると愚息は「何の事ですか?」と問い返してきた。


 「知れた事。貴様が士官学校の教頭であるコステロ伯爵と、その生徒を先導しアンドーラ宰相を暗殺せんとした事は明白だ」


 そして・・・・・・・・


 「オリエンス大陸に私兵を送った事も・・・・な」


 この言葉には第3皇子もピクリと反応したが、直ぐに知らぬ存ぜぬを貫こうとした。


 「あくまで白を切るなら・・・・今日、そなたの部屋の前にコステロ伯爵を始めとした生首が置かれていた理由は何か・・・・答えてみろ」


 意地の悪い問いとも言えるが、この国では相手の真意を探る常套手段だった。


 また相手に罪を「自白」させる面でも常套手段だったのは言うまでもないが・・・・第3皇子は違っていた。


 「いったい何の事ですか?コステロ伯爵を始めとした者達は確かに私と繋がりはありましたが・・・・私は一臣下と接したに過ぎません」


 「・・・・・・・・」


 この言葉に皇帝は憮然とした。


 『ここまで自身の罪を認めぬか・・・・いや、あくまで白を切る姿勢は見上げたものと見るべきか』


 罪を認めれば全てを失うのは何処の国でも変わらない。


 かといって白を切り通せる者が果たして・・・・どれ位いるのか?


 ここを鑑みれば第3声子の態度は見上げたものだが・・・・皇帝は嘆息した。


 それは傍らから現れた老紳士の存在を認めたからである。


 「・・・・そこまで白を切るなら良い。父親として貴様の日頃から反抗的な態度を改めようと試みたが・・・・もう諦めた。アンドーラ宰相。ここからは・・・・そなたが対応しろ」


 暗殺されそうになったのだから遠慮などするなと皇帝は横から現れたアンドーラ宰相に告げた。


 それを見て第3皇子は眼を見張ったが、その眼は余りにも早過ぎる登場に驚いた表情に他ならない。


 もっとも・・・・そんな表情を浮かべるからこそ愚息に対する評価を覆せなかった。


 「やはり・・・・そなたはピエロだな。それこそ舞台を掻き乱すだけしか取り得の無い”憐れなピエロ”だ」


 「父上!私を愚弄しますか?!」


 「アンドーラ宰相、どうする?」


 「ハッ・・・・・・・・」


 皇帝は愚息の怒声を聞き流してアンドーラ宰相に問い掛けた。


 「今回の件は明らかに大逆罪に値しますが・・・・コステロ伯爵達の名誉を私は守りたいと思います」

  

 アンドーラ宰相の言葉に皇帝は一応の納得をした。


 この老紳士の立場から見れば愚息を殺したいと考えている筈だ。


 それは父親たる自分だって同じだが・・・・そうなれば今以上に宮廷内の政争は激しさを増す。


 またコステロ伯爵達の真相まで明るみに出るから民草達の怒りを買うのは明白だ。


 ここをアンドーラ宰相は考えて穏便に済ませると暗に言っているのだろう。

 

 「そうか・・・・しかし、このまま愚息を咎め無しという訳にはいくまい?」


 如何にコステロ伯爵達の名誉を守る為とはいえ今回の騒動を起こした者に咎め無しというのは悪例となる。


 「勿論です。ですから今回の罰として・・・・帝都から遠く離れた場所に謹慎処分が私は妥当と思います」


 また第3皇子達の取り巻きにも少なからず牽制の意味で罰を与えたいとアンドーラ宰相は言った。


 「場所は何処にする?預かり人も考える必要があるぞ」


 「その点は私にお任せ願えませんか?」

 

 腰を折って頼み込むアンドーラ宰相を皇帝は暫し見た。


 『この老紳士なら愚息を殺すにしても宮廷に無駄な流血や混乱を招かないようにするだろう』


 そして言った言葉を反故する事もないと皇帝は知っていたから・・・・・・・・


 「良いだろう。許可する」 

 

 「父上!!」


 アンドーラ宰相の提案を受け入れた皇帝たる実父に第3皇子は抗議の声を上げた。

 

 しかし皇帝は終わったとばかりに席を立ち玉座の間から出て行った。


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