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序章:招かれざる客

どうもドラキュラです。


今回はサルバーナ王国などが在るオリエンス大陸とは対となる大陸の御話です。


といっても後々の設定もあるのでかなりボカシタ感じになっております。


ただ、ハインリッヒを主役にした物語も執筆中なので、その前日譚と捉えて下さると幸いと思います。

 名も無き小麦畑で一人の男装した騎士が立っていた。


 その騎士は鋼鉄製の小札を何枚も革紐で繋ぎ合わせた「ラメラ・アーマー」を着ており、腰には90cm前後の「黒漆大刀拵」の大刀を吊している。

  

 小麦畑に微風が吹いて女の腰まで伸びた銀の髪を真後ろで結い、その長髪を微風に靡かせながら佇んでいるが、その女性騎士に赤とんぼが飛んで来た。


 その刹那・・・・赤とんぼの首が宙を舞い、胴体は失速して地面に落ちた。


 しかし・・・・一匹だけではなく少なくとも十匹以上は女騎士の足下に転がっているから驚きである。


 何せ飛んでいる昆虫の首を器用に切断するなんて並大抵の腕では先ず不可能だ。


 それを女騎士は鞘から大刀を抜く姿すら見せずに今までやってのけたのだから凄い。


 ただ時間は間もなく黄昏から夜になろうとしていると空は教えた。


 「・・・・・・・・」


 女騎士は閉じていた瞳を開けて足下に転がっている赤とんぼの胴体を一匹ずつ持ち上げると綺麗な布で包み、既に掘っておいた穴に埋葬した。


 「・・・・・・・・」


 女騎士は片膝をついて小さな土饅頭に黙祷する事で剣の犠牲にした赤とんぼ達に詫びた。


 この奇妙とも言える様子を見る者が居ると女騎士は察していたのか、目を開けてチラリと背後を見た。


 「何用?」


 やや低いソプラノ声で女騎士が尋ねると背後に立っていた十代の従者と思わしき青年は頭を下げた。


 「稽古の最中に申し訳ありません。客人が来たもので・・・・・・・・」


 「客人とは・・・・どちらの騎士団?」


 「いえ・・・・貴女に買って欲しい情報があると言う“商人”です」


 商人という言葉に女騎士は心当たりがあるのか、従者の青年に背中を見せたまま命じた。

   

 「貴方が私に代わり情報を買いなさい。恐らく私に会わせろと言うでしょうが・・・・こう言いなさい」


 『仲間を生贄にするような“駄犬”に会わない』と・・・・・・・・


 「しかし、向こうは“第3王子”の紹介状を持っていますが・・・・・・・・」


 「なら余計に会いたくないと付け加えなさい。これは我が騎士団がお仕えしている辺境男爵夫人の御意向よ」


 「・・・・・・・・」


 従者の青年は背中を見せたままの主人に何も言えなくなった。


 だが主人の言葉は絶対だ。


 何より主人は持論を曲げる事は余程でないとしない。


 配下の騎士達も同じだし、入ったばかりの自分はそれに従うしかない。


 「では、そのように・・・・・・・・!?」


 「そのように冷たくあしらわないでくれませんか?」


 「・・・・・・・・」


 女騎士は従者の青年を押し退けるように前へ出て来た商人の男を正面から見た。


 本当は見るのさえ嫌だが、騎士の性分とも言えるように・・・・得体の知れない「不気味さ」を備えている駄犬に背中を見せたくなかったのだ。

 

 しかし商人は笑みを浮かべている。


 その笑みは大らかで愛嬌もあって誠実そうな印象もある。


 だが、何処か・・・・心の底が読めない。


 敢えて読ませないようにしていると女騎士は祖国の国柄で思ったが・・・・実際に間違いでないと確信していた。


 「・・・・何用?」


 「突然にもお訪ねして申し訳ありません。ですが、私としては是非とも貴女様に御会いしたいと思い・・・・少々”横道”を通って来ました」


 「従者を私の所へやって、その後を追って来た事なら気にしないで。それ位は悪いと思わない性格でしょ?」


 女騎士の刺々しい台詞に男は微苦笑した。


 「まぁ正直に言えばそうですが・・・・この情報は是非とも大公の愛娘である”あの御婦人”の御耳に・・・・・・・・」


 「前置きは良いから情報だけ言って消えなさい」


 ピシャリと女騎士は話を引き延ばそうとする男に対し静かな一喝を浴びせた。


 言葉は静かだが覇気のある声に男と従者はビクリとしたが女騎士は更に言葉を投げた。


 「私は同じ事を2度も言いたくないの。早く情報を言って消えなさい」


 「は、ははははは・・・・相変わらずの覇気ですね・・・・では、御話します」


 男は目の前の女騎士が古の時代から伝わる大刀を抜かない内とばかりに情報を話し・・・・返答を待った。


 いや、返答が得られずとも自分が目の前の女騎士と会って話をしたという「事実」さえ手に入れば良いとさえ思った。


 何せ目の前の女騎士はこの国で一番の剣士と言われているし、今も命脈を宮廷内で保ち影響力を持つ大公家御抱えの騎士団の騎士団長を務めている。


 ただ仕える主人が違うし「あの件」もあってか・・・・自分を始めとした外部の人間を女騎士側は排除する勢いで関係を断っている。


 しかし、ここで上手くやればと男は思った瞬間・・・・意識が飛んだ。

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 「あの、団長・・・・・・・・」


 従者は白目を剥いて気絶している得体の知れない商人を冷たく見下ろす女騎士に声を掛けた。


 ただ何時も思う事がある。


 『どうやって気絶させたんだ?』


 気絶している商人を如何にして女騎士が気絶させたか見えなかった。


 赤とんぼの首を刎ねる姿も見えなかった。


 だが、これは自分が所属する騎士団の団員が口を揃えて同じ事を言っているのと従者は知っている。


 しかし女騎士は商人など最初から居なかったとばかりに背中を向けている。


 また自分の疑問に答える気もないのか命令してきた。

 

 「その男の懐を探りなさい・・・・きっと魔石があるわ」


 女騎士に命じられるままに従者は気絶している商人の懐を悪いと思いながら探ってみた。


 すると・・・・収音用の魔石が出て来た事に驚き女騎士を見る。


 「・・・・その男は、我が騎士団が仕える辺境男爵夫人を利用する為に来たのよ」


 「で、では第3王子の紹介状は・・・・・・・・」


 「紹介状は偽物でないわ」


 「・・・・で、では、第3王子は・・・・・・・・」


 従者は噂で聞いた第3王子の行動に真実を見出した気持ちになった。


 「貴方がどう捉えたかは知らないけど我が騎士団には“関係ない”話よ。そして・・・・その駄犬にも会ってないもわ」


 この言葉に従者は魔石を直ぐ自分の懐に仕舞った。


 「さぁ帰りましょう・・・・・・・・」


 「は、はいっ」


 従者はさっさと歩き出した女騎士の背中を追い掛けた。


 ただ「崇拝対象」である女騎士の背中が余りにも遠くに見えたのは間違いではないだろう。


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