5*中身
「隠れられるところ、あるかな……」
中には長い机と椅子が並べられていて、奥に一段上がった舞台のようなものがある。あそこで誰かが講演するのだろう。
エルザが奥に進んでいき、私もそれに着いていく。外ではまだ銃撃音や爆音が響いている。
コンッ、と何かが当たった音。
何か落としたかな、と足元を見たときだった。視界の端、後方に黒い物体。
まさに、殺戮兵器。
「走って!」
一瞬の静寂の後、私の声とフォースから撃ち出された数発の銃撃の音が重なる。
エルザは混乱しながらも奥に走る。丁度先に裏口があり、そこへ向かう。
フォースは、腰の高さくらいある冷蔵庫の上に正六面体の頭らしきものをつけている、黒い殺戮兵器だった。
実際に見ると意外と小さく、ただ武器は多く搭載しているらしく重いらしい。だから、あまり速度も出ていない。
そして想像よりも、あまり攻撃してこない。こちらが、攻撃していないからか?
「外出て!」
エルザが裏口から外に飛び出す。
私もそれに続き飛び出し、そしてエルザとは別方向に逃げる。
「えっ、アサ!?」
「私の方が足が早いから撒ける!」
先程からエルザより近い位置にいた私の方を追ってくるだろう、と森の方へ逃げたのだが、二手に別れた私たちを交互に見たフォースは、エルザの方へ向かった。
「なっ、んで!」
エルザが逃げたのは商店街の方向。
あちらにはセカンドが多くいる。感知数が多い方に向かったのか、と気づく。
こっちに来い、と地面の石を拾って当てようとしたとき、後ろから破裂音。
「っ、ひ……!」
本当に背後だった。
背後にいたのは、別のフォース。
そうか、こっちにもう1体フォースがいたから、あのフォースはエルザを……
って、何で破裂……
フォースから少し距離を取りながら森の奥を見ると、そこにいたのは武器を構えこちらに向けているサードだった。
フォースの近くに人間がいるのにも関わらず容赦なく攻撃を仕掛けるサード。当たり前だ、仲間でも何でもないんだから。
「ぎゃあっ!」
変な悲鳴が出る。
サードは騎士のような見た目をしており、フォースよりは人間らしい。ただ、機械。
肩や腕の辺りから多数の銃が出ており、また腰の辺りからは鋼鉄の尾のようなものが2本出ている。
その尾が素早く、フォースに向かって蠢きながら攻撃を繰り出す。どちらかというとフォース側にいる私からすれば、恐怖だ。
フォースはというと、こちらではなくサードを敵として認識しているらしく、全く攻撃してこない。しかしサードの流れ弾が来るのではないかとこちらは全く安心できない。
ちなみに逃げないのは腰が抜けているからだ。
直後、サードの銃弾がフォースに効き、攻撃が止まる。その瞬間を狙い、サードは尾でフォースを掴み、頭と体(と言っていいのかは分からないが)をバキィッと大きな音を立てて分断した。
フォースはそれから少し動いたが、やがて動きを止めた。ピッピッピッ、と電子音を3度鳴らしたかと思えば、跡形もなく消し飛んだ。
自滅するようになっているのか……
……なんて、考えている場合じゃない。
サードがこちらに向かって近づいてくる。
今度はこっちだ、って?セカンドと違ってサードは機械だ。意思はあってもこちらの話は聞いてくれないだろう。
フォースじゃなくて、サードに殺されるのか……
目の前に立ち、こちらを見下ろすサード。エルザ、逃げ切れたかな……
「人間か」
翻訳機が翻訳できる言葉で、そう聞いてきた。
会話、してくれる。
一筋の希望が見えた。
見逃してくれるかもしれない。
「はい、人間です!あの、助けて頂いてありが」
「恩を感じるのなら来い」
お礼を遮ってサードは言い、来いって、と疑問を感じていればあの尾で体を掴まれた。
お腹の辺りに巻き付かれ、まぁもちろん絞めつけられて痛いんだけど。宙に浮かせられる。
「いっ、だっ、いったた!」
「黙れ。戦いが終わったらいいところに売ってやる」
高値はつかないぞ!と心の中で言い返してみる。
さっきエルザだけが、需要になるという話を持ちかけられたのはもちろんエルザがフランス人だからだけではない。
私が美人じゃなくて、そして体が女性らしくない貧相な体型だからだ。
あれ、それよりも……
「なぜ人間は売れるという思考ができるんですか……?」
「機械だからと舐めてるのか」
ギリ、と巻き付く力が強くなり、呻く。
「ちっ、がいます……サードは、人間との会話や戦い以外の思考は基本しないのでは……?人型戦闘機でしょう?」
目がどこかは把握できないが、こちらを見て睨んでいるのは分かる。
そして私は宙に浮かせられたまま、サードは進んでいく。森の奥には向かっていないが、どこに行くのか。
「それに」
さっき、私が話したあとの変化。
「日本語を話してくれています」
私が日本語を話したから、それに合わせたのだろう。翻訳機があるのを知っているのかどうかは知らないが、人間が作った翻訳機だ。限界はある。どうしてもタイムラグが発生してしまう。それを知っていたのか。
どちらにしても、サードがそういう「相手に合わせる」ことができる種だとは思っていなかった。
そして無言のままのサード。
いつのまにか森から外に出ていた。
商店街から少し外れた場所。家か研究所か分からないが、硬そうな物質でできた建物が並んでいる。
そのうちの1つの前に立ち、壁に触れると自動でドアとなり、開いた。
すごい技術だ、とアホみたいな感想を抱いた。
するとドサリと床に落とされ、お尻を床に強打した。
「俺たちは、フォースを作っていない」
突然、サードが話を始めた。
さっきの話とは全く関係のないような、話。
いや、待って。それより……何て言った?
「フォースは……サードに作られたんじゃないんですか?」
驚きを隠せず、そう聞き返す。
サードはこちらを見下ろしながら、自らの身体であるはずの鎧を分解し始めた。
自然と解体されどこかに収納されていく。目の前で行われていることに呆気にとられていたが、鎧から出てきたそれには呆気にとられるどころではない衝撃を受けた。
「……にん、げん……?」
やっと出会えた……!