3*地上での夜
混乱する私たちを落ち着かせ、指示を出したのはゼイルだった。
「調査隊は教会の方から地上へ出ろ。囮だ。家族を持つ者と子供はカタコンベへ。他の者は地上にない資源を持って、隠し通路から地上へ出て逃げろ。セカンドの根城へ向かえ!」
カタコンベとは、地下帝国の奥深くにある、何重もの電波遮断壁に囲まれた洞窟の名前だ。昔は墓所だったらしいが。
私は、家族のない者。子供とはここでは18歳未満のことを指す。私は19歳。大人だ。
そしてエルザも同い年。
「アサ、資源と物質はあっち!早く取りに行くよ!」
皆、それぞれ別々の方向に向かう。これが、最後なのだろうか。
調査隊の1人が、袋に小分けした特殊資源と物質を渡してくれる。水やクッキーなども入っているらしい。そして、女性には強力に改造されてあるスタンガンを渡してくれた。
「地上では、人間の女性が高値で取引されてるから」
今から行くところなのに、と思ったが、彼の泣きそうに笑う顔を見て、そうとも言えなくなった。
護身用。自分の身は自分で守らなければ。
「アサ、出たらどうする?」
「まず身を隠せる場所を探そう。夜をしのいだら、すぐにセカンドの根城に向かう」
私とエルザは、生まれて初めて地上へ出た。
映像では何度も見ていた荒廃したこの世界を、この目で見ることになるとは。
「……こんな時に、言わない方がいいかもしれないけど」
エルザが苦しそうに言葉を発した。
「綺麗、だね」
荒廃し、機械に支配されたこの世界が、綺麗だと。
彼女の言葉を反復し、そして空を見上げた。
「……そうだね、綺麗だし、美しいね」
プロトタイプが生まれる前の映像で見た、美しく広い空と同じだった。
オレンジ色に染まる空は、思ったより広く、思ったより高く、思ったよりも近かった。
「行こ、アサ」
「行こ、エルザ」
荒廃した街並みは夕日を浴び、美しかった。機械はここで毎日暮らして、この美しい世界で戦っているのか。
なんてもったいない。
辺りを見回しながら、早足でビルの間を進む。
少し傾いていても構わない。できるだけ視界を広く持てるビルを探そう。
そう話して、私たちはビルを探している。
少し暗くなってきた頃、ようやく良さげなビルを発見した。
「入るよ」
ここまで、フォースどころかセカンドにもサードにも出会っていない。
すれ違っていてもスルーされていたり、なんて考えると怖いが。
ビルの中に気配はない。
暗い中、目を凝らして階段を上る。
5階くらいまで上がり、ある一室に入る。会議室のような、ただ少し小さめの部屋。
窓から外を覗くと、もう外は暗かった。ただ遠くの方にちらほらと明かりが見える。
「今日はここで寝よう」
「そうだね。エルザはここで待ってて、毛布とかないか見てくる」
「分かった。気を付けて」
毛布なんてなくても大丈夫だが、この階くらいは探索しておきたい。好奇心も、ある。
丁度この階で止まっていたエレベーターという機械のドアをこじ開ける。
知識なら、地下帝国でたくさん学んだ。確かここには、非常事態用の道具が……あった。
ブランケットがある。枚数を数えると、4人分ある。私たちは2人だから、2枚使える。水や食糧、簡易トイレもあった。水などはやはり賞味期限は切れているため持っていかない。
懐中電灯は、どうやら電池がうまく機能していない。ただ、明かりは不用意につければ危ないため、ない方がいいかもしれないな。
20分ほどでさっきの部屋に戻る。
「エルザ、ブランケットあったよ」
「ありがとう!」
2枚渡し、窓際に並んで座る。
「寝ずの見張り、交代でする?」
エルザがそう提案する。
静かな部屋に音が響く。どうしようか、と聞き返してしまう。
もし今日、こういうことがあると分かっていれば昨日寝溜めしていた。
ただ……
「明日、どれだけ動けるかが大事だし、一緒に寝よ。もしここで殺されたら、運が悪かったってことで」
へら、と笑って言うと、エルザも笑った。
ドアの前に机を移動させ、その上に椅子を乗せた。入ってくるときに音が立つように。
「スタンガン、手に持っておこうか」
エルザの提案でそれぞれ片手にスタンガンを持ち、残った手で手を繋いだ。
窓際の壁に寄りかかり、寄り添って寝た。
初めての、地上での夜だった。
特殊な資源と物質って何でしょう……笑
知識がないもので、何も思いつきません。
地下には地上ではとれない鋼鉄な何かとかあればいいなと。そんな希望です。