1*地下帝国で生きる人々
第1話です。
主人公と親友が出てきます。よろしくお願いします。
──人間から作られた改造人間は、ある程度成長が終わってからでなければ完全体にはなれなかった。そのため、25歳程度の男性が選ばれていた。チップを埋め込み、制御機能をなくすことで人間らしからぬ力を得たが、代償はもちろん大きく、短命だった。
プロトタイプは爆破により死滅、セカンドもエネルギー源を奪うことで活動を抑制。短命であることを知っていたため、地下帝国に拘束して放置しておけば勝手に死滅するだろうと人間は考えた。
40歳になる前には死ぬと予測されていたため、帰還の日から15年後。
人間は地下帝国に入った。彼らは、絶望した。そこには何もなかったのだ。誰もいなかったのだ。人体が腐敗した形跡もない。むしろ、人が最近まで生活していた跡が残っていたのだ。
セカンドは生きていた。
世界中に報道されたその日の翌日。プロトタイプを作った元先進国が襲撃され、一夜にして全国民を失った。
襲撃したのは、セカンドの軍団。そして、彼らが作り出したサードだった。
彼らは、人口減少により捨てられた地で生きていた。いつのまにか地下帝国から抜け出していたのだ。
絶望の日々は、またも始まった──
この環境下でうまく作ったなと思うくらい出来たドキュメンタリー映像だ。ほぼ合成だが。
この映像は、1日に一度は必ず集会場で流されるもの。子供の教育のためと、地上に出ないようにするための抑制映像だ。
「調査隊、帰ってきたみたい。セカンドの亜種(自ら意思を持つようにならなかったもの)はほぼ寿命により死滅、でもセカンドの上位種は自らを改造して寿命を延ばしているって」
この地下帝国には、様々な国の人間が集まる。初期に欧州やアフリカの人間が多かったため共通言語として英語が設定されたが、技術者によってすぐに翻訳機が作られたため皆それに頼っている。
今教えてくれたのは、フランス人のエルザ。
「足掻くね……でも上位種はもうすぐ死滅するのかなぁ。あ、サードがまた新しい人型戦闘機作ってるって噂は?」
調査隊、といっても人間ではない。
カメラを備えたドローンのようなものを地上に出すことで地下帝国内から調査をしているのだ。
「フォースでしょ、その情報は入ってない。でも作るのも時間の問題だよね。外にはエネルギー源も資源もたくさんあるんだし」
「もう、手遅れって皆薄々気付いてるよね」
「……皆言わないだけ」
そう。もう手遅れだ。
生き残った人間の数はおよそ20万人。日本で言うと渋谷区の人口ほどだ。
それに比べて、セカンドの上位種がおよそ7万。サードの人数は完璧には把握できていないが、日々増え続けているはずだ。去年は10万だった。
サードの力は圧倒的だ。核が人間ではないため、限界を知らないし、何より寿命で死なない。知能もセカンドの亜種よりも確実に高いだろう。新たなフォースを産み出していてもおかしくない。
それにしても、私たち人間の人口がここまで減ったのには理由がある。
最初の頃は100万人ほどいたのだ。しかし、資源や食糧が足りず、地上へ出ていってしまう人や、調査をしに自ら地上へ行く人、子供は餓死してしまったり、運動不足で高齢者が死んだりと、どんどん人口は減った。
地上に出ていった人は、皆死んだ。調査カメラで死体が映ることも多々あった。
私、宮江朝は来月19歳になる。
ずっとここで暮らしてきた。皆ここでの窮屈な生活を我慢しているし、そして地上からの襲来を恐れている。
「エルザ」
「何、アサ」
「何で奴らはここを襲撃しないんだろう」
力は持たないが、奴らにとっては邪魔な存在だろう。少なからず、珍しい資源もここにあるのだから。
「……今は、必要じゃないのかも」
私たちの命は、機械に握られているのか。
いつ死ぬかは、奴らが決める?
「セカンドの上位種が死ねば、地上には機械しかいない。人間と機械の戦い、だね」
冗談めかして言えば、エルザを小さく笑った。しかしすぐに悲しそうな笑顔になり、地面を見つめた。
「……こわいね」
そうだね、と答えた。
だって私たちは、地下帝国で一生を終えるのだ。地上に一度も出ないまま。