一節【不良少年】
「ハァっ………ハッ………ハァッ……!」
――またこれか。
「グ…ン! し…か…して! ……早く!」
女が俺の手を強く引く。速く走れと急かしたてる。
俺は足元が覚束ず、いつも転ぶ。女は俺を抱きかかえて、また走る。
こんな夢を十年ほど、ずっと見続けている。
「諦め………メ………さん………ってる……!」
内容は頭に入ってこない。音も映像も感触も、全て他人事のように流れて行く。
唯一伝わってくるのは、この女の「思い」だけだ。
「死にたくない」。……いやそれよりも、「死なせたくない」が正しいか。
事実女は、息を切らしても、足が傷付こうとも、なりふり構わず走り続けている。俺のことを抱きかかえながら。
何故か? 理由は分からない。俺の狭く不鮮明な視界には、ただただ森だけが映し出されている。判断材料は皆無だ。
「……っ! あ……が追………る……!」
こんな夢が十年だ。いい加減飽き飽きしてくる。
いつも通り、そろそろ目を覚ます頃合いだろう。
「…や…! …め……! その子………を………………!!」
あぁ、でも。
せめて、この女が誰かだけでも――。
「…………ん」
朝、か。窓から眩しい光が差している。
隣りのベッドを見ると、スコットがまだ眠りこけていた。こいつは夜行性だからな。起こさなきゃ夕方まで寝てるだろう。
特に昼夜の行動性が決まってない俺は、のそのそと起き上がった。
顔を洗って、服を着替えて、最低限の装備をして部屋を出る。いつもの俺だ。
時刻は午前十一時十分。そこら辺ぶらついてから、飯だけ食って戻るとするか。
「ゆっくり寝られたか? グレン・バークス」
部屋の扉から少し歩いた所で、すぐさま面倒な奴に掴まった。ずっと壁を背にして待ち構えていたようだが、相変わらずご苦労なこった。
「別に。いつも通りだ」
「そうか。つまりは、いつも通りのサボりということだな?」
スッ――と、ごく自然のことの様に行く手を阻まれる。
「邪魔くせーんだけど」
「そう言うな。私とお前の仲だろう?」
俺の部屋は、寮の四階の一番端に位置している。
下に降りるためには、寮の中央寄りにある階段か、反対側の端にある非常階段を使うしかない。
そのどちらにも続く一本道を、今目の前にいるこいつに塞がれている。
「今年度が始まって早一ヵ月。お前が授業に顔を出した日はあったか?」
「さぁな」
「ない。一日たりとも、一時間たりともない。ここC.W.A.に在籍していながらだ。これがどういうことか分かるか?」
「知らねぇよ。まだるっこしいな」
こいつ……クローディアは教師だ。普通は授業に出てこない生徒を「心配して」訪ねて来る……というのが真っ当な役割なんだろうが、こいつは違う。
「仕置きが必要だ。構えろ」
「……チッ」
構え。つまり戦闘態勢。こんな狭い所で。
これがこの女の本性だ。問題がある生徒は力で捻じ伏せて言う事を聞かせる。……まぁ、こいつに限らず、C.W.A.じゃどいつもこんなモンだが。
「構えが成ってないぞ」
「俺はこれが構えなンだよ」
体のどこにも力を入れてない自然体。つまりはぼっ立ち。素人目にも分かるほどの無防備さだ。
「そうか……なら遠慮は要らんな!」
クローディアが駆けて来る。こいつはとても女とは思えない身体能力をしている上、C.W.A.の教員として戦闘技術も一流だからな。早い話が「まともにやり合うだけ損」だ。
「なッ――お前――!」
俺はクローディアが肉迫してくるよりも速く、落下防止の柵を飛び越えた。勿論ここが地上何階かは忘れていない。手すりにワイヤーを引っ掛けてある。
背中越しに怒声が聞こえるが、知ったことか。俺は腹が減ったんだよ。
ギャリリリリ!!! と嫌な音が鳴る。これだけはどうにも好きになれない。十人いたら八人が眉をひそめる不快音だぞ。
地上に降りてから寮の方を見上げると、クローディアが舌打ちでもしてそうな顏でワイヤーを回収していた。在庫少ねぇんだぞソレ。また仕入れるからいいけどよ。
キーンコーンカーンコーン、と予冷が鳴る。クローディアがワイヤーで追って来ないのは授業があるからだろう。アイツも一応教師だしな。
「さって……」
面倒なエンカウントも無事スルーできたことだし、とりあえず飯だ飯。ここは飯が美味いことだけが取り柄だからな。
俺は両手をポケットに突っ込み、チンピラの如く歩き出した。さっきの「構え」もそうだが、俺にはこのくらいの振る舞いが性に合ってる。キチッとしたところで見る奴もいなけりゃ、喜ぶ奴もいねぇからな。
「あ~、だりぃ」
食堂までが遠い。無駄に広すぎんだよココは。普通の学校の七倍もの敷地があるし、建物も校舎以外に図書館やらドームやら、果てはコンビニまである始末だ。俺たち生徒が生活してる寮だって一つじゃねぇ、何と十四もありやがる。学園都市も甚だしい。
まぁ、中央政府お抱えの施設なら、このくらいの規模でも今更驚きはしない。世界の中の五つの大陸、その中央に位置する大陸の集権組織と言えば、そのスケールのデカさが分かるだろう。全ての国の統括みたいなモンだ。
「ま、それも良し悪しだがな」
世界を統括する一方で、支配しているとも言えなくもない。目立った悪事は働いていないためか、各国とも不満を言う機会は少ないがな。
「何が良し悪しだって?」
「お前の胸のことだ」
「よし殺す」
バッ! と顔面目掛けて掌底が飛んでくるが、当然避ける。
そのまま無言で三白眼を放ったが、それを何と勘違いしたのか、目の前のこいつは顔を赤くして構えを解いた。何だお前。
「おはようグレン。随分遅いわね」
「遅いと何か悪いのか?」
「アンタには常識ってものをいつか叩き込んであげなきゃいけないわね……」
やれやれ、と右手を額に添えて溜め息を吐くヘッポコ。お前は一体俺の何なんだ。別に馴染みってわけでもないくせに毎度絡んで来やがって。
「何よその迷惑そうな顔は。この私が構ってあげてるんだから感謝しなさいよ」
「へーへー、そりゃもう。腸が煮えくり返るほど感謝申し上げますよ」
「アンタねぇ……!」
こいつの名前はレイナ。レイナ・セルダ。昨年くらいから俺によく絡むようになった……一応はクラスメイトだ。俺と同じか少し明るいくらいの茶髪を二つ括りにした、健康生意気お節介女。ちなみに背は普通くらいだが絶望的に胸が無い。本当に女かどうか疑わしいレベルで無い。
「別に見るなとは言わないけど、その残念なものを見る様な顔はやめて」
「さっきも言ったが良し悪しだ。そこまで気にするもんじゃねぇよ」
「そ、そうっ? アンタがそう言うなら――」
「まぁ俺にとっちゃ「悪しきもの」だがな」
ブンッ! と回し蹴りが飛んで来た。これも当然躱したが、恐らく直撃していれば骨にヒビが入っていた。こいつもあの女教師と同じで、身体能力が女じゃない。
「っとにデリカシーってもんがないわねアンタ! 女の子に普通そんなこと言う!?」
「俺だって「普通の女の子」相手ならそう酷いことはしねーよ」
「私のどこが普通じゃないのよ!」
「全部だろ……」
そもそもここC.W.A.にいる女ってだけで普通じゃない。普通の女が近接格闘術やら戦闘教義やらを知ってるわけねーだろ。
「あっそう! もういい! せっかくアンタのためにこれ作ってきたのに! もう知らない!」
ふんっ! とむくれてはいるが、この場を離れることもせず、何ならその「作ってきたもの」をチラッチラッと見せつけて来る辺り、コイツのおつむの弱さが窺える。
「っはー、めんどくせ」
「……何よ」
俺は近くのベンチに深く腰を下ろし、空を仰いだ。「いつもの俺」が不味かった。「いつもの時間」に、「いつもの場所」をフラついてたのがダメだったんだ。何故ならコイツに出くわしてしまうから。もう少し考えて行動するべきだった。
「……うぅ」
「何してんだ、飯だろ」
「へ……?」
半べそかきそうになってたレイナを手招きする。ちょうど腹は減ってたんだし、こいつも料理の腕だけはそこそこだ。今まで不味いもんを出して来たことはないからな。
「食べてくれるの……?」
「早くしろ。腹減ってんだから」
「え、えへへへへ…………えへ……」
きもい。満場一致で反応がきもい。口元をにへら~とさせている辺りが最高に間抜けだ。
「今日はねっ、ベーコンが上手に焼けたの! あと卵焼き! ブロッコリーもいい感じに蒸して柔らかく――」
「解説はいらん!」
横でごちゃごちゃ話されながら飯が食えるか。味が分からなくなるだろうが。
「んふふふ~、結構がっついてますね~」
「腹が減ってたって言ったろ」
「そうですね~、ふふふ~」
解説はなくなったが、今度はニンマリした顔で俺が食う姿を観察してきやがる。そんなに人の咀嚼風景が好きか。トマトの種飛ばすぞ。
「どう? 美味し?」
「……あぁ」
「よしっ」
何のガッツポーズだそりゃ。訳わからんわもう。
「いよぉ~! ご両人! 今日も熱いっスね~!!」
「…………」
バンッ!!! と現れた輩の額に弾を撃ち込んだ。ここC.W.A.では生徒の帯銃も認められている。当然撃つこともできる。
撃たれた側の間抜けは地面に転がってるが、何だ、あれは「もう数発ぶち込んでもいいよ」の合図か?
「ちょっ、グレンやめなさいよ! 死んだらどうするのよ!」
「死ぬかこんなもんで。芝居はいいから早く立て、ダン」
声をかけると、死体は体を丸めてから、バネのように飛び上がった。無駄な体力消耗が好きだなお前も。
「いやいやいやいや、これ死んでますよ。当たり所が悪かったら即天国っスよ」
「もう一発いっとくか?」
「いやおかしいでしょ! 会話通じてます!?」
何もおかしくないと思うが。俺はお前に天国へ行ってほしい。
「全くもう……ゴム弾だからって脳天はやり過ぎよグレン」
「俺も普通の奴相手ならこんなことはしねぇよ」
本日二人……いや三人目の普通じゃない奴パートⅢ。それがこいつ、同僚のダン・マクラーレンだ。面倒だから一言で片づけるなら脳筋バカ。あと苗字に名前が負けている。
「いやしかしだなグレン、親友でもある俺がありがたく忠告してやるが、白昼堂々そのイチャつき具合はどうかと思うぜ! もはやそれはテロだ! 見てみろ周りの寂しい男たちの卑しい嫉妬の形相を! お前はこのままだといつか刺されて死ぬ!」
こいつは一つ特技をもっていて、拡大解釈から来る大仰な物言いの賜物か、ヘイト稼ぎがとても上手い。今だって俺へと向けられていた敵意を一挙に引きつけるくらいには言動がバカだ。こんな奴に親友呼ばわりされてる俺の苦労も察して欲しい。
「もぉ~! ちがうって! 私とグレンはそういうんじゃないんだからっ!」
そしてこのヘッポコは何故、他人の前だと俺に対する態度が真逆になるんだろう。理解に苦しむ。
「今時恐ろしいくらいのテンプレ台詞を放てるその精神力……感服するぜ」
「お前は一体何しに来たんだよ……」
「決まってるだろ、風紀の乱れを正しに来たんだよ」
スチャッ、と掛けてもいない眼鏡を正すジェスチャーをする馬鹿。ぶっちゃけ言うと物凄くノリが怠い。腹も膨れたしさっさと寮に帰りたい。
「何が風紀の乱れだ、テメーもサボりじゃねぇか」
「あ、バレた? いや~探偵学とかちょっとレベル低すぎて、俺には合わなかったんだよな~」
お前探偵学の筆記で一点も取れたことねーだろ。
「まぁほら? レイナちゃんもわざわざ講義サボってまでグレンに愛妻弁当作ってきてるし? じゃあ親友の俺も心を砕いて会いに来るのが筋ってもんじゃん?」
「あっ、あたしはサボりじゃないわよ! いつもこの時間の講義は空いてるの!」
「空いてる、じゃなくて空けてる、が正しいんじゃないか? 愛しの旦那様のお目覚めの時間だもんな~」
バスッッッ! と今一度脳天を撃ち抜かれるダン。発砲音の違いから、今のは俺じゃないと察してくれると助かる。隣りの猪突猛進女が犯人だ。
「バっ、な、ハァっ!? 何であああたしがそんなッ、てか旦那って誰のことよ誰のバカじゃないの死ね!!!」
つい数分前まで「死んだらどうする」云々の発言をしていた奴の言動がこれだからな。人間不信になってもおかしくないんじゃねーかと思う。
「悪かったって! 頭はやめてくれ頭は!」
そして少し額の皮膚を擦りむいた程度のリアクションで済ませてるダンだが、本来ゴム弾であっても脳天にクリティカルヒットすればまず意識を失う。これは一般人は勿論、鍛えられた傭兵であっても変わらない事実だ。その点ではダンの耐久性、打たれ強さは群を抜いているし、そこは俺も評価していたりする。
「で、わざわざ講義サボってまで俺に会いに来た大親友様は一体何の用だ?」
「お前ほんと性格悪いな……まぁいい。お前もこれ知ってるだろ」
ぴら。ダンは手に丸めて持っていたのであろう一枚のポスターを俺に見せてくる。そこにはデカデカと馬鹿みたいなフォントでこう書かれていた。
《集え、猛者たちよ! 今決戦の火蓋は切られた! 学園No.1は君だ!》
《参加者随時受付中! C.W.A.トーナメント実行委員会》
「どうよ?」
「何がだよ」
「もしや出る気がない!?」
何を愕然としているんだか。当たり前だろうがそんなもん。
「いや男でこれ出ないってマジか!? 本気で言ってんのか!?」
「出て何のメリットがあんだよ……」
「C.W.A.最強の名誉が贈られる。あとトロフィーと賞状」
「くっだらね」
まだCランク任務でもこなしてた方が有益なんじゃねーの。金も入るし。
「私もそういうのはパスかなー、別に最強目指してる訳じゃないし」
「レイナちゃんは女の子だからそうかもしれねーけどよぉ、グレンよぉ」
「しつけーぞダン。俺は出ねぇ。俺の分もお前が頑張ってくれ」
「お、おう……そう言われて悪い気はしねーけどよぉ……ちぇっ」
ダンは明らかに落胆した様子だが、俺には関係ない。そもそもこいつは俺と戦いたかったのか? それともタッグマッチ部門で共闘したかったのか? 普段から喧嘩してんだからお互いの力量なんざ知ってるくせによ。
「まぁ、アレよね。今年もあの人が一番なんじゃないの?」
「まーそうだろうけどよ、俺もグレンもかなり腕上げたし、そろそろ試してみたいって思ってたんだがなぁ」
「諦めろ。せめて賞金でも出ない限り俺はやらん」
学園内部からの信用がゼロな俺は、金策の手段が乏しい。C.W.A.を通して貼り出されるクエストが悉く受けられないからだ。当然っちゃ当然だがな。
んじゃどうしてるかっつーと、C.W.A.を通さない、つまり学園外部のクエストを引っ張って来てる。あまり割も良くないから、生徒は普通手を出さんがな。アンダーグラウンドな側面もあるしで、C.W.A.的にも非推奨だ。
そんな数少ない俺の金策手段に成り得るなら話は別だったんだが――
「ん、賞金? 出るぞ」
「は?」
何でそれを言わない?
「いやそこは別に重要じゃないかと思って」
「馬鹿かお前、そこが一番重要だ」
ダンからポスターを強引に奪い取り、内容に隅々まで目を通す。恐らく目が血走っていたんだろう、隣りのレイナが若干引いていた。
「参加するだけで五千Gil、ベスト16で二万Gil、ベスト8で五万Gil……!?」
何だこの気前の良さは。どんだけ金持ってんだよこの学園。
「そう! ついでに表彰台に上がれば、3位で十万Gil、2位で五十万Gil、優勝すれば何と百万Gilだぜ!」
「――――」
絶句してしまう。そんな大金が得られるなら、出ないなんて選択肢はない……!
「おいダン、受付はどこだ。まだ期限は過ぎてないよな?」
「そうこなくちゃな! 動機は不純だけどよ、この際目をつむってやるぜ!」
俺はベンチから立ち上がり、ダンと共に受付へ向かうことにした。ポスターを確認すると、期限は……今日の正午までじゃねーか! こんなギリギリに持って来やがって!
「今は十一時三十五分……走れば全然間に合うぞ!」
「走らなきゃ間に合わないってことじゃないのソレ!?」
ごちゃごちゃ言いながらもレイナも付いて来ている。お前まで付き合う義理はないんだが、まぁ時間もないし指摘はしないでおく。なんなら足だけなら俺やダンより速いし。
他の生徒が奇異の目を向けて来るのも構わずに、俺たち三人は学園を走り抜けた。段差を飛び越えショートカットし、螺旋階段の手すりを滑り降り、建物から建物へと飛び移った。何て言うんだったかこういうの。パルクールだったか?
「っとに複雑な構造してんなこの学園は! 面白いからイイけどよ!」
「アンタ達ちょっとはルートに気遣いなさいよ! スカート捲れちゃうでしょ!」
「別に無理して付いて来なくていいぞレイナ! お前には関係ないからな!」
「関係ないとか言うなグレンのバカー!!」
何故か罵られた。俺なりに気を遣ったつもりなんだがな。
「げぇっ」
結構な距離を走った所で、ダンが不味いものを見たかのようなリアクションをする。その視線は前方……つまり俺たちの目的地である教学部へと向けられている。
「……クローディア……!」
「クローディア「先生」と呼べ。たわけめ」
目前に立ちふさがったのは本日二度目の黒髪の女教師。素通りできる雰囲気でもなかったので、必然俺たちは立ち止まってしまう。
「――ほぅ、私の授業にも出ずにトーナメントの申請か。大した度胸だなグレン」
チラりと、俺の手にしているポスターを一瞥したクローディアは、それだけで状況を察したようだった。話が速くて助かるね。
「そういうことだ。通らせてもらうぞ」
さも当然のように。何の悪びれもなく。クローディアの横を通り過ぎ――
「通すと思うか? 問題児」
――ることはできなかった。進行方向に漆黒の棍が差し出される。これはクローディアの私物、通称不良更生体罰棍だ。俺も何度かこいつで滅多打ちにされた経験がある。
「おいおい! 教師が生徒のトーナメント参加を妨害するなんてしていいのか!? 学園的には参加は奨励されてることだろ!?」
「あぁ、勿論」
「ならどうして――!」
「学園としてはそうだが、教師としては少し違う。教師はトーナメントがつつがなく進行するように、「ふるいにかける」権利がある」
…………。
「つまり早い話が、素行不良の生徒はトーナメントの参加をお断りさせて貰っている。……なぁ、グレン?」
獲物を狙う鷹のように。クローディアの瞳が鋭く俺を睨む。
素行不良、か。因果応報とは正にこのことなんだろう。
「先程のように逃がしはしない。キッチリ仕置きを受けていけ」
漆黒の棍が俺目掛けて振り下ろされる。
さて、まずはコレを避けるとこからだが――
どうにも俺の反射神経では難しかったらしい。