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存在証明のアポトーシス2~月光は夜闇を照らして~  作者: 古縁なえ
1-大消失<ヒカリ>-
5/17

とある彼女の影響


 雨音さんが乗ってきたバイクを借りて東地区にとんぼ返りをして、自警団の団長の元に雨音さんから聞いた話を持っていった。

 内容を大雑把に纏めると、こうだ。とある集団が西地区を襲撃してきた。住民は西地区を放棄し、避難の為に東地区を目指している。

 報告を受けて、団長さんは最優先で対応を進める。俺達、終活部もその手伝いに参加した。

 この役割は雨音さんが果たすつもりだったらしいけど、雨音さんには避難民と合流して折衝役をして貰った方が良いと言う意見の一致があって、東側の自治組織に所属している月日さんと一緒に来た道を引き返している。


 そして、午後9時頃。東地区には西地区の100名強の住民が到着した。


 ◇   ◇   ◇


 西の避難民に東側が提供した一時居住区は学校そのものだった。敷地内には購買もあり、インフラも充実している。布団や防寒具の類は、東の住人への説明のついでに集められるだけ集めてある。

 あとの割り振りは西側の住人に一任して、団長さんは主要人物を詰め所に招集した。なんで俺まで? と思ったけど、いち早く且つ確実な情報を得られる好機だと思い直して、指摘しないことにする。

 詰め所の中から窓の外を窺うと、雨音さんが先ず折り目正しく頭を下げていた。相手は団長さんだ。


「突然の避難を好意的に受け入れて頂き、ありがとうございます」


「当然の事をしたまでです。何か不満等があれば、この腕章を付けた我々自警団の者に言って貰えれば、可能な限り対応します」


「此方にも何か出来る事があれば教えて下さい。お手伝い出来る事があれば、微力ながら協力させて頂きます」


 団長さんに促されて、雨音さんが詰め所に入ってくる。俺の姿を見つけると、雨音さんの表情が一瞬だけ凍る。

 あの確執は健在だったようだ。お互い干渉しないという訳にも行かず片手を挙げて軽く挨拶をすると、雨音さんはハッとして俺の前まで歩いてきた。俺達の適性距離でぴたりと止まる。


「光火くん……あの、こんばんは」


「ああ、うん。こんばんは」


 たったそれだけで会話が途切れて、すかさず沈黙が挿入された。それで終わりなら終わりでいいのに、雨音さんは立ち去ろうとせずに俯き加減で口元を動かしている。

 言葉に詰まっているらしい。困っている様は見ていて嗜虐心が刺激されなくもないけど、団長さんも訝しげに此方を伺ってきてる。

 言いたいことがあるなら、言ってくれとぶっきらぼうに言いたい。でも、心身ともに疲弊しているであろう相手に、そんな無作法な言葉を掛けるほど俺も鬼じゃなかった。


「お疲れ様。西の連中の様子はどうだ? って、まだ落ち着くには早いよな」


「え? あ、うん。やっぱりいきなりの事だったから、みんな不安にしてる、かな」


「これからの事もあるしな」


「あ、でも、みんな東側の対応には凄く感謝してるの。何しろ、受け入れて貰えない可能性もあったから……その点は、私も含めてひと安心でした」


 雨音さんはそう言って、団長さんにしたように俺にも深く頭を下げる。


「ありがとう、光火くん」


「やめてくれ。俺は話を持って帰っただけだから、別にお礼を言われるような事はしてない」


「ううん」


 首を横に振って、雨音さんは否定する。


「最初に安心をくれたのは光火くんだから」


俺は、その向けられた笑顔を純粋に受け取ることは出来なかった。多分、団長さんも似たような感慨を抱いたに違いない。


「見てくれ、鳥肌が立った」


「ひどい! 真面目に言ったのに、なんでそういう態度を取るかなぁ!」


 そうして、俺は居た堪れない気持ちを誤魔化した。後ろめたいことがあると、真正面からの感謝は痛い。

 西からの避難民を無条件に受け入れる。その決定に対して、自警団ですら一枚岩にはなれていない。

 次に衝撃が与えられるような事があれば、その綻びはひび割れて、きっと毒を放出する。


 そうならないように、俺に出来る事を探してみようと思う。


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