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存在証明のアポトーシス2~月光は夜闇を照らして~  作者: 古縁なえ
1-大消失<ヒカリ>-
14/17

CanCan


 体育館には着々と人が集まっていた。聞き分けのない連中だったり、聞く気のない者達をこれから連行してくる段取りだ。

 情報収集に勤しんでいる神託会の間諜を紛れ込ませないように、入館の際は自警団と西の有志の一組による審査を通らなければいけないし、内部も同じように目を光らせている。

 この後の説明で神託会の目的を説き、それから集団行動を徹底するという力業で内通者の対策もする予定だ。

 しばらくすると、デモ隊の顔ぶれも姿を見せ始める。ステージの正面に居座って、話しくらいは聞いてやろうって副音声がばっちり聞こえてきた。


 遥か高みに居るつもりなんだろうけど、そろそろ自覚してもらおう。

 お前らは底辺だ。だからそろそろ正しい位置に堕ちてこい。


 現実を認めようとしない者や恐慌を起こす者が居たりと一筋縄では行かなかったが、各部署の尽力の甲斐あって、見回り及び体育館周辺の厳重警備の為に配置されている有志連合を除く全ての住人が体育館に集った。

 壇上には団長さんの姿。その後ろには月日さんと雨音さんが控えている。


「まずは、我々の言葉を信じ、集まってくれた事に感謝を述べる。放送にもあった通り、現在この街は危急の事態に陥っている。その経緯を改めて説明させて欲しい」


 西の住民が避難してきた理由。神託会の目的。その脅威が東側にも牙を剥こうとしていると、向こうの内通者から情報を受けたこと。

 そしてつい先程、巡回に出ていた一班が音信不通になったことが話された。


「トオルなるものの言葉を全て鵜呑みにするわけではないが、実際に日本都市西地区が襲撃を受けたのは確かだ。ならば、彼に与えられた情報が真実だと仮定したとしよう。その場合、どうするのが最も賢明か」


 状況を今一度纏める。今度は戦力の話だ。青い光を操るだとか、ファンタジーな話は省かれた。


「降伏は恐らく受け入れられないだろう。我々は、神託会が探している組織に対する釣餌でしかない」


 釣餌で釣餌を釣るという方法もある。情報を売れば安全を保証してやろうなんて取引を持ちかけられても、一切の信用ができない。


「かと言って、神託会の怨讐を抱く組織を探そうにも、我々にも手がかりはなく、よしんば見つけ出せたとしても、神託会相手に合併を申し入れるような組織だ。いいビジョンは描けない」


 むしろ、リベリオンの実態を掴めるような幸運があれば、協調できる可能性がある。


「我々は劣勢に置かれている。一枚岩にすらなれていない烏合の衆だ。抗戦をするにしても、情報も不足していれば、戦う意志のない者も居るだろう。避難をするにしても、当面の生活の不安だけではなく、神託会による追撃の不安を残し続けるだろう。時間が足りない」


 結局はそこに集約される。だから、そこを最優先事項に設定して、方策を導き出した。


「時間が必要だ。それを工面する為に、我々はこの街を放棄するという結論に達した。もうその準備はあらかた終えている」


 不安、憤怒、疑心、同意。館内に無数の声が錯綜する。

 うねうねと入り組んだ感情の迷路を打ち抜かんとばかりに団長さんが声を張り上げた。


「この先の話を聞く場合、以降は全て我々の指示に従って動いてもらう必要がある! しかし安心して欲しい。それは集団行動を徹底するというだけで、労働を強要する事はない!」


 ざわめきは静まらない。けれども、その大音声は誰の耳にも届いているに違いない。


「だがもし、この街に残るという者が居れば、この場から速やかに退出して欲しい!」


 これに、ステージの正面に居座っていたデモ隊の代表格が反応する。


「それは、俺達にただ黙って従えって意味か!?」


「万が一にでも外部に情報が漏れないようにする為に必要な措置だ! 我々の計画通りに事が運べば、生活水準を落とさずに時間の猶予を確保できる!」


「結局、恭順を示せって事じゃない! 情報の開示が先でしょ! 西の連中と結託して何を考えてるのか知らないけど、それが一番いい方法だって保証は皆無じゃない!」


 第二種人類の癇癪は耳に響く。きゃんきゃんって、女性誌じゃないんだから、もう少し人語を話すのに適したトーンにして欲しい。


「そうだそうだ! 独裁的で悪辣な集団に命を預けられるかよー!」


 ここぞとばかり羽を動かして賢そうな鳴き声を上げる鳩の襟首をむんずと掴んで後ろに引っ張る。


「少し黙れ」


「ぐぇ」


 気管が締まれば意思に関係なく静かになる。尻もちをついたそいつは、豆鉄砲を食らったような顔で俺を見上げた。

 抗議に夢中になっていた連中も異常事態に気がついて、俺の方に意識が向く。掴みは上出来だ。俺は、たまゆらの無音を一声で満たす。


「だったら、勝手に避難するなり街に残るなりすればいい。自警団は最初からそういう条件を提示してる」


 本来、こんな段取りは用意されていない。これは俺の独断専行だ。壇上の方々にまで豆鉄砲を食らわせてしまったのは申し訳ないと思うけど、こいつらを手っ取り早く黙らせたい。


「それに、お前たちにとっては好都合だろ? 何せ、自警団に賛同した住民と西側の住民が街を出るって言うんだから、要望通りだ」


 集団は勢いに染まる。こんな下らない遣り取りにかかずらっている場合じゃない。増長した鳩の大群を撃ち落とす。


「街に住民が居るって神託会側に誤認させるには丁度いい囮になる。おまけに不穏因子も減らせるし、まさに一石二鳥だな」


 細工は流々、仕上げを御覧じろ。結果に乞うご期待。


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