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存在証明のアポトーシス2~月光は夜闇を照らして~  作者: 古縁なえ
1-大消失<ヒカリ>-
10/17

必要な遊び


 紆余曲折あったけど、トオルと名乗る人物が本人である確証を得た所で、ようやく新情報とやらを聞く準備が整った。

 依然、説教部屋こと音楽室には戦士たちが残っている。俺はふくちゃんの頼もしい背中に隠れながら、雨音さんに尋ねた。


「俺達も同席してていいのでしょうか?」


「隠し立てするような話じゃないし、良いと思います」


 二人揃って見事に他人行儀だ。そもそもが他人だし、元からこんな感じだったから特に危機感は覚えない。


「それじゃあ、今日はもうあんまり時間が無いんで手短に話すっすよ」


 時間がない云々をお前が言うな。そうアマゾネス達の目が告げている。

 トオルは先程の異端審問会なんてもう忘れたように、意にも介さない。切り替えが早いのか、残念な奴なのか。


「総攻撃の日程が決まったす。2日後っすね。我ら神託会は夜明けと共に、東エリアに侵攻するっす」


 時間がないのは本当だったらしく、トオルは「明日の午前9時頃にまた来るんで、詳しい話はその時にするっすよ」とだけ言い残して教室を後にした。


「ど、どうしよう。今度こそ、やばいよね」


「ヤダっ、私コワイ……!」


「大丈夫、落ち着いて。まだ2日あるって言ってたじゃん! それまでに何か考えて……うぅっ」


 アマゾネス達は顔面を蒼白にして、ぼやいたり、狼狽えたりして乙女感を演出している。

 大丈夫、お前達はただ一人で凡百の兵に勝る戦士だから。3人いれば勝てるから。俺は本気でそう思いながら、遠い目をしていた。


「光火くん。今の話は直ぐにでも団長さんに伝えた方が良い、よね?」


 演出しない人が俺に話しかけてくる。俺以外の所に行って欲しい、なんて考えは俺以外のメンバーを思い出して、間違いだと悟った。

 色々と物申したい部分はあるけど、まず第一に大まかな事情を理解しているのは俺だけだ。ふくちゃんの背中から少しだけ顔を出す。


「そうですね。俺の方から伝えます、ぶるぶる」


「私も行く。会議をするなら、なるべく早い方が良いでしょ?」


「あ、はい。2日後とは限らないし、迅速に対策を講じた方が良いですね」


 俺の台詞に乙女を気取ったアマゾネス達が一斉に眼圧を放ってきた。か弱い乙女は人を目で殺そうとなんてしない。


「そう、だよね……うん、鵜呑みにするわけにはいかないんだよね」


 トオルが味方である保証はない。あるいは俺達を一網打尽にする為に、何度か正確な情報を流して信頼を得てから罠に嵌めるって魂胆かも知れない。

 この2日後という情報が罠だったとしたら、例えば1日早く攻められるだけで、2日後を前提に準備していた場合は大きな打撃を受けることになる。

 雨音さんは現状を理解している。だからこそ、行動するのだろう。

 身を竦ませて居る無駄な時間は、いずれ自らの首を締める事になる。

 先程の俺のように、な。ふ。


「理解して頂けたようで何よりです。でも、雨音さんは来なくていいです」


「どうして? 私が西の皆との間に入る役割をするなら、話し合いの場には同席していた方がいいよね」


 確かに、西にとって都合が悪い仕儀になっても、代表者の一人である『雨音さんが出席していた』という事実があるだけで多少の溜飲を下げられる。そもそも、雨音さん達が意見をする事も出来る。

 経由した分だけ確度を失う情報伝達のミスも最小限に留められる。

 いいコト尽くめだけど、雨音さんは要らない。

 都合のいい道具として使うつもり!? だとか、乙女(仮)達から謂れのない文句が飛んでくる。誰も彼も必死だった。


「疲れてるだろです。今日は俺達に任せて休んで、明日から頑張れください」


 最初の会議で一緒に居た連中も、そこら辺のフォローはしたのだろう。だからこそ、シャワーを浴びる時間があったんだろうし。

 ただアマゾネス達は駄目だ。か弱い乙女になることに一生懸命で、そこら辺の配慮を期待するだけ無駄だ。


「それは光火くんも同じだよね? 大消失の光から、ずっと動いてるって聞いたよ。あと、その話し方やめて」


 だったら離れてくれ。雨音さんは興奮したりすると、物理的な距離を詰めてくるから困る。何が困るって、俺の拳が唸りを上げそうになる衝動を鎮めるのが大変だ。

 ふくちゃんの背中に隠れて、トトまで引き寄せて防壁を作る。


「自警団はそうだけど、俺は寝た。だから体力にはまだ余裕がある。雨音さんは昨晩から一睡もしてないんだろ? そろそろ限界が来る頃だ」


「気持ちは嬉しいけど、私の事なら心配しないで大丈夫。ちゃんと自己管理はしてるつもりだよ」


「いつのまにか俺が心配してる事になってるけど、違うからな。いま無理をされて、いざという時に足手まといなられたら迷惑だって言ってるんだ」


 そう素っ気なく俺が言うと、乙女(仮)達から再び暴言が飛来する。


「こんなにも健気な九葉になんて言い草なの! ほんとサイテー!」


「スリッパ用意する?」


「いいね、皆で叩いちゃおう♪」


 結構余力あるよな、お前ら。

 本当に襲われたりしないよな、俺。ぶるぶる。

 トトが俺を振り返って「下手な照れ隠しをするからそうなるんだぜ?」と愉快そうに笑った。ふくちゃんの背中も震えている。


「お前達の罪が未だ生きていることを忘れるな」と耳元で囁いたら壁の役割を放棄しようとしたので、即座に赦免した。


「自警団の面々にも疲労があるだろうし、詳細は明日って話だから大掛かりな話し合いにはならない筈だ。本番は明日から。事の運びによっては寝れないなんて事もザラにある。だから、休める時に休んでおいてくれ! 以上!」


 俺は2人の壁を上手く使って教室の出口まで移動すると、遮二無二に走った。

 全力疾走で詰め所まで行って団長さんに報告を済ませる。

 俺の予想通り、具体的な話は混乱を避ける意味合いも含めてトオルの情報を聞いてから行われる事になった。

 その結果をトトの口から西の代表者に伝えて貰ってから、部室に戻る。

 俺は社長机の横のパイプ椅子に。トトとふくちゃんは来客用のソファに。それぞれの定位置についた所で、口火を切った。


「じゃあ、そろそろ気になってるだろうし、まずは会議の顛末について共有しておくか」


 ここからは俺達だけの時間だ。

 全てを話し終えると、手持ち無沙汰の時間に調達したのであろう菓子パンを貪っていたふくちゃんが手を上げる。


「それで結局、ミッツはこの問題にどんなスタンスで臨むつもりなんだな」


 それは確認の意味もあったのだろう。


「生きる事以外の思考は、生活するに事欠かない環境じゃないと出来ないだろ」


 今から外部に拠点を築こうったって、その前に余生が終わる。相手にどんな目的があるのかも定かではない以上、追走されたらアウトだ。小規模な勢力では抗うことすら許されない。

 抗戦をしたって同じことが言える訳だけど、人生の最後に理不尽に屈して敗走の二文字を赦すのは、それだけで後悔しそうだ。

 だから、二者択一なんてそもそもない。答えは一つだ。


「戦うよ、俺は。そもそも生きるって、そういう事だろ。それをやめたら、死ぬだけだ」


 お前らはどうする? と問いかける。


「あー、ふくちゃん。部則ってどんなんだっけ?」


「終活の為なら部員同士協力を惜しまない、なんだな」


「だ、そうだぜ? ミッツマンがそうだって言うんなら、間違いないと思うしな」


 そんなトトの言葉に、不意に大上が言っていたトトの心情を思い出す。

 今は関係ないだろ……頭を振って思考から追い出した。


「ふくちゃんはどうなんだ?」


「当然、この街を捨てるなんて選択肢はないんだな。この街を侵そうという不届き者には一切の掌は加えないんだな!」


 ふくちゃんはパンを貪る手を止めて、気炎を滾らせていた。


「オレはこの街が大好きなんだな。具体的に言うと、この街の食糧事情を愛してやまないんだな」


 一部の隙もなく納得してしまった。

 とりあえず、俺達の意思統一は出来た。各個人の意識が同じ方向を向いていて初めて集団は機能する。これはその一歩だ。


 情報に欠けている現段階でも、打てる手は掃いて捨てるほどある。

 200対300の構図。それだけでも不利なのに、東西の総意を立ち向かう方向に導けなければ、そもそもその構図にすらならない。

 意志を束ねるプロパガンダの模索は急務の一つだ。

 現状はそれ以前の問題な訳だけど……俺達だけの力では如何ともしがたいから、結論は明日の会議とやらに委ねよう。


「そういえば、見回りってどうなってるんだ? トオルが嘘を吐いていた場合、もしかしたら今晩中に攻めあがってくる可能性だってあるんだよな」


「今晩に限って言えば、自警団が2グループの交代制で夜通し行うみたいだ。烏合の衆である内に叩くって言うのは戦略の一つだろうけど、情報――特に地理とか動向の確信がなきゃ諸刃の剣。仮にも敵勢力が200人になってるんだ、慎重になる。電撃作戦はないと思う」


 100人相手なら300人で圧倒できても、それが倍になれば地の利で幾らでも覆る差だ。


「それで、俺の頼み事の方の首尾はどうなってるんだ?」


 俺が東西の連絡役に奔走してる間、暇に違いない2人には別件を言いつけておいた。頷きが返ってくる。


「必要量の指定が無かったから、時間の許される限り町中をめぐって集められるだけ集めたんだな。流石に疲れたんだな」


「自警団の目があったから、ここに運び込めたのはそこにあるダンボールのみだが、駄菓子屋の方には倍どころじゃ済まない量を確保してあるぜ」


「戦果は上々って事か」


 トトが示した先にあるダンボールの中身を改める。そして、俺は絶句した。


「ピコピコハンマーがあるんだけど」


 こんなものオーダーした覚えがない。他にもプラスチックで出来た銃だったり、ハリセンだったり、電池を入れれば効果音の鳴る光る剣だったり、クラッカーまである。


「お前らは何か? これからパーティーでもするつもりなのか」


「自警団の目があるって言っただろ。物騒なもんは運び込めねーよ」


「人目を忍べばどうとでもなる話だろ……お」


 ようやくそれっぽいものを発見する。柄に短い刃が付いたナイフだ。

 それを慎重に取り上げる。ずっしり――重くない。


「ミッツマン、ちょっとそれ貸してみ」


 遠い目をしながらそれをトトに渡す。


「ふくちゃん覚悟ー!」


 ナイフの切っ先がふくちゃんの腹部に吸い込まれる。


「その程度のナイフでオレの肉壁を突破できると思っていたのなら、それは大いなる過ちなんだな」


 なにこの茶番。

 一見すると、ふくちゃんの腹部に刃が沈んでいるように映るけど、実際は刃が柄に収納されただけ。これはそう言う玩具だ。


「精巧な見た目なのは認めるけど、どうしてこんなものをわざわざ回収したんだ」


 手元に戻ってきたナイフを弄びながら、げんなりした視線を送る。トトはにひひと愉快そうだ。


「人生何事も遊びがないとつまんないだろ?」


「必要な栄養だけを詰め込んだ不味い栄養食で命を繋ぐなんて御免なんだな」


 必要だけで固めた人生。それがどんなものか想像する。味気ないな。

 この未来には消滅が手ぐすね引いて待っている。抗えない存在の否定。ただ生きる為だけに生きて、消えるだけ。

 無意味だと思う。でも俺には、価値あるものと無いものの境界線がまだ見えていない。俺は未だ生きているだけ。


「その在り方は否定しないけど、大事な場面で遊びは入れないでくれよ」


「解ってるんだな」


「おう。で、俺らはどうして『武器になる物』を集めさせられたんだ? 正面衝突の備えか?」


「備えって言うのは正しい。ただ、来たるべく日に向けて戦力を増強する方面とは違う」


 正面衝突は避けたい気持ちがある。そんな事態に発展すれば、双方に多くの被害が出るのは目に見えている。

 それは、嫌だ。もう混迷の時代は終わっている。そうでなければいけない。


「一つは住民らに武器の蓄えをさせない為」


「ちょっと待て。大抵の輩は愛用のモノは持ってるぜ?」


「だろうな。要するに、俺達が最も武器を持っているっていう状態にしておきたいんだ」


 それは物質に限った話じゃない。情報であったり、人員であったり、あるいは勝率のある打開策でもいい。


「長い物になって巻くって事なんだな?」


「そんな感じ。俺達みたいに派閥だったり勢力を作って勝手に動く連中も出てくるだろうし、黙らせられる要素は持っていた方がいい」


 内輪もめなんてしている時間はない。


「もう一つはその反対。敵に武器の蓄えをさせない為、だ」


「さっきの時点で結構ちんぷんかんぷんなんだが、それはもっとワケワカメなんだぜ」


 この説明だけで中身を悟れるのは、多分この世界で杏樹だけだろうな。でもこの2人であれば、恐らくあるフレーズを付け足すだけで意図が伝わる筈だ。


「はやぶさと3重作戦」


「随分と懐かしい名前が出てきたなっ!」


「なるほどなんだな。だから、主導権に拘ったんだな」


 それは、俺が――になった昔に使った作戦名だった。

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