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存在証明のアポトーシス2~月光は夜闇を照らして~  作者: 古縁なえ
1-大消失<ヒカリ>-
1/17

新しい遊び

挿絵(By みてみん)

――それは、過去の大消失で見た光ととても良く似ていた。


 窓を覆う遮光カーテンも、閉ざされた瞼も、関係なく……いや、そもそも、その圧倒的な光量の前では障害ですらなく、存在すらしていないのだろう。


 光は眠っていた俺の眼球に突き刺さり、意識をサルベージする。衝撃波を伴った爆音が届いて、建物が軋みをあげ、続けざまに大きな振動がやってきた。

 飛び起きて、波打つような床をふらふらとした足取りで窓枠まで歩み寄る。小気味の良い音を立ててカーテンを開く。その先に広がる光景に、俺は戦慄を覚えた。だって、それは。


「大消失……」


 記憶にあるその光景と、今目の前にある光が合致した。

 かつて、民間には秘密裏に、要人だけでも消滅から逃れる為に地球を離れようと、現代の技術を結集して宇宙を長期航行できる巨大な船が幾つも建造された。

 その船が、轟音を響かせて世界中から一斉に飛び立ち、光に飲み込まれる末路を見た時に、初めてその脅威を実感として知覚した。


 人物に関する記憶までも消える対象という消失ロストの性質上、俺達はその光景を見せつけられる瞬間まで、違和感を抱きつつも消滅ロストの存在を噂程度にしか捉えていなかったんだっけ。

 消滅を知らしめた光。目の前に広がる青白い光は、その時の記憶を鮮明に呼び起こさせる。最初ほどの強烈さは無いとは言え、眩しさに目を眇めた。


「あっちの方向にあるのは、セントラルか?」


 セントラルとは、簡単に説明するとこの日本都市の衣食住を支える重要な施設だ。以上。詳細は一介の住民であるところの俺には解らない。ただ、あれがなくなると此処での暮らしが立ちゆかなくなるということだけ把握していればいい。


「もし、あの光が大消失で見たものと同じ機能を持っているなら」


 そこに在る物を全て消す類の性質があるなら、それって結構看過できない状況なんじゃないだろうか?


 眩いばかりの光は収まった。けれども、静寂が帰ってくるのはもう少し先になりそうだ。

 部屋の外からは、焦って状況を確かめようとする者達の賑いが聞こえる。俺も仲間に加わりたい所だけど、雑踏が勢力を増すだけか。


「不要な時に動いて、必要な時に動けないのも馬鹿らしいよな」


 とりあえず、隣部屋の住人の安否だけ確認して寝直す事にしよう。そう決めて、部屋を出る。下の階が特に騒がしいのは、食糧を確保しようとしている連中が施設に押し寄せているからだろうか?


「セントラルの機能が失われたのだとしても、そんなの何の対策にもならないのに」


 生きたい一心での備えが反対側に作用する瞬間が容易に想像できた。一人ごちて、隣部屋の呼び鈴を鳴らす。毎度の事ながら返事が無かった為、合鍵を使用して中に入った。試しに部屋の灯りのスイッチを押した。まもなく点灯。

 問題なく電気は通って――ん? 視界に入ってきた光景に愕然とする。


「み、ミツヒデ?」


「杏樹、お前――大丈夫か!?」


 物が錯乱する居間。倒れ伏す杏樹。その背を覆うように長方形の物体が伸し掛かっていた。


「見てわからないのかしら? タンスの下敷きになる遊びをしているのよ」


「あ、うん、無事ならそれで良い。遊びの邪魔をするのは悪いから、帰る」


「待ちなさい。どう? 久しぶりに一緒に遊ばない?」


 俺にそんな高尚な遊びを嗜む趣味はない。その場で足踏みして足音だけ立てると、杏樹は慌てたように次の言葉を掛けてくる。


「解ったわ。無様に助けを請えば良いのでしょう? 助けて、何処かの骨が折れているかも知れないわ」


「最初から正直に言ってれば良かったんだよ」


「言わなくたって解るでしょう? 言わせたがりだなんて、貴方はいつからそんな鬼畜に成り下がってしまったのかしら」


「骨は折れてるかも知れないけど、心は折れてないみたいだからこのままでも大丈夫だよな」


「っ……狭量な男ね」


 人が外道のような言い草をしてるけど、俺は悪くない。なんだか突然眠くなってきた。目の前に丁度いい長方形のベッドがあるから、ここで少し休もうかな。 

 杏樹はしばらく独力で奮闘していたけど、最後には心も折れてしおらしくお願いしてきた。


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