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恋愛弱者  作者: 中村Q大
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そこに至る話

人生は失速気味である。

テレビや雑誌で恋愛弱者なんて言葉が踊っているが誰の事かと思えばそれは自分であった。

もうすぐ四〇歳になろうというのに自分より若い女性に悩まされっぱなしだ。

初めて女の子を意識したのは高校に入ってからだ。

それまで好きとか嫌いとかなんとなくドラマやマンガで見てはいたが当事者になる事はなかった。

ところが高校のある日、自転車で帰っていると他の高校に進んだ同級生の女子が知らない男と歩いていた。

かわいいと認識していなかった女子に男友達もしくは彼氏が出来たのだ。

見てはいけないものを見た気がしたのともやもやする気持ちを同時にかかえた瞬間だった。

私が生まれた一九七〇年時代、平成の現在と違いもろてを挙げて堂々と交際を宣言している男女は少なかった。

かく言う私は生身の女性と話す機会などまったくなくポパイやオールナイトニッポンからの偏った恋愛知識ばかり増えていき、

高校で知り合った同級生が住む町にエロビデオの自販機があると聞いて皆で四〇分もかけて自転車に乗りそれを目指したものである。

いざ買おうとすると買う勇気も無く店主が姿を現せば散る様に逃げた。

国道の端にあったそのエロビデオの自販機も更地になり、店主であった”海坊主”もどこかに消えてしまった。

人を好きになるのは少女漫画の様な純粋なものではなくて独占欲だったり嫉妬だったり負の要素が強かった。

女性と話す事がなく二四歳迄生きてきたから垢抜けない田舎町の工場に化粧っ気のない四つ年上の女性が入ってきた時には胸が詰まったものだ。

何とか彼女と話がしたくて理由を作っては彼女の元に行き自分を売りつけた。

彼女と話が出来る事が嬉しくて楽しくて、他の奴と話しているのを見れば腹立たしくて気に入らなくて自分だけのものにしたいと思って告白をしたが

いつの間にか彼女は薬科大卒の同僚と同棲しており呆気なく振られた。

呆けるとはこの様な症状を言うのだろうか。

風俗に行って風俗嬢に振られた話を時間延長して聞いてもらい抜いてもらった。

セレンディピティを鑑賞してわめきハッピー・マニアを読んでわめき恋愛なんてものは空想の産物だ妄想だと考えては落ち込んだ。

上手くいかない時は全てが上手くいかないもので仕事も上手くいかなくなるし他人の幸せも喜べなくなる。

仕事を変えて知り合った女性には相手にされず告白すら出来る所まで行かなかった。

このままでは恋愛も結婚も出来ないと思い地元で有名な占い師に見てもらった。

仕事場の先輩夫婦が子供が出来ない事で悩み見てもらった占い師だ。

三五で結婚するなんて言われたが現在に至る。

世間では婚活なんて言葉が踊り街コンとか言うイベントが流行りだした頃だった。

この様なイベントは敷居が高く一度応募してしまえば何度も勧誘があるのかと思ったがそこは風俗と似た様なもので一線を越えなければ上手に利用できる事を知った。

一回行けば二回行くのは抵抗がなくなるのも風俗と一緒だ。

その様なイベントに参加してみても気に入った女性に声もかけれずお金と時間が消えていく事に後から気づく。

普段から自分を売り込めない奴にそんな所で女性に売り込めるはずもなくカップル成立する人達を横目に見ては人種が違うのだと思った。

一緒に参加した同僚は見事カップル成立していた。

口下手な彼がカップル成立したのを見てやっぱり人柄なのかと羨ましく妬む。

去年か一昨年か夏が異常に暑かった年、親がお見合いの話を持って来た。

これを逃せば一生結婚出来ないと迫られた。

親に。

お見合いは大変だった。

どこで会うか落ち合うか店の予約からお礼の品の買出しまで男側の仕切りで行われる、と言われその通り段取りをした。

婚活イベントでそうだった様に話が上手に出来る訳もなくただただ時間が過ぎ話しているのは仲人とお互いの親だけ。

お決まりの後は若い者だけでという事でドライブに行き彼女の本音らしきものを聞く。

なんでも知り合いの仲人の顔を立てお見合い自体には乗り気がないと言われた。

こっちは良い人だったら付き合いたいと思うし親に言われなくても昨今お見合いなんて皆無なものだから一生お見合いなんてものを体験する事もなかろうと勇んでいたがやはりと言うか勇み足だったようである。

そのくせお見合いの話はまとまらず向こうは携帯電話やメールのアドレスの交換をしてくれなかった、その気がないんじゃないかと思った等と話がまとまらなかった原因はこちらにある様な言い方をされあ然とした。

その日ビールは高いから発泡酒でも買おうかとスーパーに行ったら知らない男に声をかけられた。

二〇年ぶりの再会である。

中学を卒業して以来の旧友に会った。

彼は二〇代で高校生時代から交際していた女性とそのまま結婚、二人の子供に恵まれたと噂では聞いた。

それにしても彼の風貌に愕然とした。

顔はシワが深く腹は出てオッサンのアイコンそのものとしか形容出来ない。

自分は若いつもりでいるが世間の目は同級生である彼と同じそれで見ているのかと思うと背筋が寒くなる。

三〇代半ばで子供が二人いるというのは幸せな事だろう。

でもあの腹は嫌だな。

そういえば女性というのはどうして自分の価値観が世間の常識の様な話し方をするのだろう。

以前職場の年下女性同僚が前の彼女とどれくらい続いたの?なんて話を聞いてきた。

さも恋人がいるのが当然と言う様な言い方だ。

彼女は恋愛強者。

恋愛というサバンナを駆るライオン。

まさにカーストテッペンにいる女王様だ。

美人だし仕事できるし人懐こいし旦那は公務員だしどこをとっても死角がない、完璧超人。

言うまでもまく好きになりましたよ。

一つ彼女の弱点は天然で本人は計算していると言うが天然な所がありそこが逆に可愛かったりするのだがその天然によって素人童貞である事を見抜かれたりもした。

正直凄いと思いました。

女性に免疫がない所は見透かされていたのだろう。

目を見て話せていない所、猫背な所、決めつけて話す所、佐々木蔵之助に似ていると思っている所を指摘された上でお前はだから駄目なのだと切々と諭された。

自分に面白い話があるのかと言えばない訳ではない。

学校を卒業してすぐ就職したての頃、東京に居た。

東京は右も左も知らない働き初めの人間には魅力的な町だ。

若さも無邪気さも純粋さも全て寛容であったと思う、表面的には。

自分は何でも出来ると勘違いして仕事の信用を失っていくのだが、それとは別に田舎ではいなかった女性と知り合う事の方が遥かに意味があった。

メーテルとあだ名を付けたその女性はお嬢様学校を卒業したてで取引先の合同チームの一員。

バブル景気の後ろ髪の残り香が漂っていたその頃、仕事終わりは上司のおごりで連日カラオケでむしろカラオケの方が大事な仕事であった。

終電がなくなるまでカラオケをしてそれを言い訳にしてメーテルとふけ込もうと企み部屋に泊めてくれと池袋の駅前でアスファルトに頭を擦り付けた。

安い。安すぎる。牛丼一杯二四〇円より安すぎるプライドだ。

結局上司のアパートに泊めてもらい次の日は朝から渋谷でエヴァンゲリオンの映画の立ち見をした。

立ち見をした映画はこれが最後になる。

映画もシネコンに一掃されたからだ。

切符一枚買って朝から晩まで好きなだけ映画館に潜り込んでいてもばれない時代ではなくなっていったからだ。

うかれていた二〇代はあっと終わり気が付けば二〇代の女の子に心揺さぶられる四〇手前になっていた。

ツーカーもアステルもIDOもJフォンも自動車電話も軒並み駆逐された。

自分も社会から駆逐されるのだろうか。

波に乗れば大丈夫みたいな事をいとうせいこうと糸井重里が言っていた気がするが紹介がないと入会出来ないSNSに紹介が来ない時点で自分は波に乗れていない事を核心する。

これは駄目だ。

好きな人に好きだと伝える事は簡単だ。

好きだと言えばいい。

それは一方向の思いでしかない。

どうせなら好きと言われなくても付き合ってあげる位は言われたい。

早々に結婚した友人が言った。

女の子と付き合いたいなら打率を上げろ、ストライクゾーンを広くしろと。

飛んでくるボールの数を増やさなければバットに当てる確率すら上がらないという理論だ。

素晴らしい。

それじゃあと言って手当たり次第試してみる事にしたがこれがまったく当たらない。

違う知り合いの結婚式二次会で新婦の友人の隣に座った所、席を立たれた。

会社の忘年会で気になる女性の隣に座った所、席を立たれた。

ボールが飛んでこない。

まったくもって心臓をえぐられる気分である。

勝負は時の運だとも言うが勝負するなら勝ちたいと思うのは人の性だと思う。

どうしたらその女性と付き合えるかものに出来るか思案の真っ只中だ。

考えても考えても答えが出る訳はない。

気持ちわるがられていたらどうしよう。

うざいと思われていたらどうしよう。

そんな事ばかりが頭をよぎり居ても立ってもいられない乙女の様な気持ちになる。

裁量権は彼女が握っている。

恋愛弱者である私がそれを振りかざす事はまずないだろう。

彼女が時折見せるはにかんだ笑顔に頭を打ちぬかれている。

早く楽になりたい。

こんな胸につかえた気持ちを持ち続けて生きているのは地獄だ。

早く楽になってしまいたい。

これが岡崎律子だったらきっと何も変わらない人生が続いていくのだろう。

ただ、分かっている事が一つだけある。

今の彼女の中には私がいない事だ。

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