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子供と戯れてみる




その頃、ウェルクは難儀していた。


「なんだこいつ、へんなかっこー。」

「よそもんだ、へんなよそもんだ。」

「ねーねー、どんなところからきたのー。」

彼は数名の子供に纏わりつかれていた。



「・・・・・・。」

ウェルクは辟易した態度で立ち尽くしていた。

時間は少し遡る。





「私、言葉、わかりません。」

ウェルクが最初にコミュニケーションを取ろうとした村人は、遊んでいる子供たちだった。


この世界の文化を一通り推察したウェルクは、今度はこの世界の神について知ろうと考えた。

彼は魔術師。


彼は言う。魔法の起源とは即ち、神の模倣であると。

だから彼はこの世界に伝わる神々の伝承を知ろうと思ったのだ。



しかし、神という概念を異文化の人間に伝えるのは非常に困難を極める。

幾多の宣教師が地元の神々と混同させられ、誤った広がり方をしたという話は枚挙にいとまがない。


神と言うのはそれほどまでに伝達が難しい概念だった。



そこでウェルクは考えた。

余計な知識のない、子供であるならば最もシンプルな漠然とした神の概念を知りうることができるのではないのか、と。


少なくとも、この世界における神と言う言葉さえ引き出せればそれでいいと考えた。

結果的に言えば、それは失敗だった。



「こいつ、言葉わからないってー。」

「うそだー、おとななのに言葉わからないって。」

「ほんとうにわからないのかためしてみようよ。」

と、数人の子供たちは相談を終えて、ウェルクに纏わりつき始めた。




『あんまりうるさいと蹴っ飛ばすよ・・・。』

子供だから半殺しで勘弁してやろうかな、なんて考えていると。



「やっぱりわかんないみたいだぞー。」

「かわいそうだからオレたちがおしえてやろうぜー。」

「そうよそうよ。」

そうして、子供たちの中から一人の少女がおもむろに懐から赤い木の実を取り出した。


「これ、アッカの実っていうの。甘くておいしいの。あげる。」

笑顔で少女が差し出してくる木の実は、乾燥して保存用にされたものであった。



『いらないよそんな粗末な食べ物・・・。』

ウェルクはそう嘯いたが、それが子供たちに通じるわけもなかった。

しぶしぶそれを受け取って乾燥した木の実を見下ろす。



試しに口に運んでみたが、お世辞にも美味しい食材ではなかった。

確かに甘みもある。しかし、妙なえぐみや渋みこそ無いものの、決して常食に堪える代物ではなかった。



『煎ってコーヒーにでもしないと食べようがないね、これ。』

そしてそんな減らず口を叩いた。

それでいて彼は、どこか懐かしさを感じていた。



彼がまだただの子供だった頃、村の外に実っていた美味しくもない木の実で空腹を満たしていた。

それをいつも三人で―――――。




「よそものー、これが石だぞー。」

「このお花はリカンっていうんだよ。」

ウェルクは感傷に浸る暇もなくほかの子供たちに纏わりつかれた。



『・・・・はいはい、わかったわかった、ひとりずつな。』

もうウェルクは当初の目的を諦めることにした。

それからしばらく彼は子供たちに連れまわされることになった。



そして程なくして。



「あ、そろそろ時間だ。」

子供たちが空を見上げてそう言った。


釣られてウェルクも空を見上げると、一瞬大きな揺らぎのようなものを感じた。

そしてほぼ一瞬のうちに、彼方から暗闇が押し寄せてきた。


暗闇は瞬く間に青空を黒く染め上げ、この世界に夜の帳に落とした。



「夜だ!!」

「夜が来た、もう寝なくちゃ!!」

「夜・・? これ、夜、言うですか。」

「そう、夜。」

なるほど、と頷きながらウェルクは深い息を吐いた。




『この世界、丸くない可能性が大きくなったなぁ・・。』

星すら一つもない暗黒の空を見上げ、ウェルクは呟いた。

この調子では宇宙など無い可能性が高く、もしかしたら空の果てには神々が住む世界すらあるかもしれない。



しかし、こう暗くては不便である。


「ええと、明かり明かりっと・・。」

ウェルクは懐から奇妙な四角い物体を取り出した。

これは先ほど、エリンに見せた代物である。

それを軽く振ると、その物体はパッと明るく発行し始めた。


これはウェルクが面白半分で作った特に意味のないマジックアイテムだ。

ただし、これを灯りとして使うにはこの物体が灯りであると知っていなければならない。


どうしてそんな縛りを設けたのか。

簡単に言えば悪ふざけだった。


この灯りは高度な魔術的隠蔽が施されており、必死に術式を解析してその先にあるのはただの光るだけの物体と言う正体に行きつくだけ。


これを適当な魔術師たち渡して、四苦八苦するさまを眺めて嗤うのがウェルクの趣味だった。

他にも透けるドレス、必ず一の目が出るサイコロ、逆にしか置けない十字架などなどを開発しては配り、多くの人間を笑いものにしてきた。


それぞれに魔導の極みとしか言えない技術を施しながら。



この灯りも、一見魔力を燃焼し続けるだけという性質しかないが、その実は一種の永久機関でもある。

それを解析すれば、幾らでも応用が可能になるだろう。

ウェルクは人々を嘲笑いながらも、そうして試しているのだ。


自らの秘術をどこまで真似できるかを。




『この世界にも燃焼に関する法則はあるだろうから、こいつも機能する様だね。

ここまで単純化すればどんな異空間でも使えるとは思ったけれど、まさか異世界でそれを実証する羽目になるとはね。』

「わぁー、なにそれ、光ってる!!」

「なんだこれ、祈りの炎じゃないのに明るいぞ!!」

「うわぁ、ほんとだ、みせてみせてー!!」

当然、それを見た子供たちが我先にと興味津々に迫ってくる。

ウェルクはそれに対し、何を思ったのか。



「それ、あげます。」

ほい、と子供たちに渡した。


「うそー!! くれるの!? ほんとに!!」

「うわーッ、すげー、オレにもみせてよー」

「わたしにもわたしにもー!!」

物珍しさに、子供たちははしゃいで灯りを取ったり取られたりし始めた。

やがてそれも落ち着くと、数人の子供たちは楽しそうに灯りを眺め始めた。



「これ、ほんとうにくれるの?」

「そうです、アッカの実、代わりです。」

なんだかんだ言って、ウェルクの脳内の単語帳はそれなりに充実してきた。


少女がくれた木の実が幾らでも拾ってこれるものであるように、ウェルクにとってその灯りは幾らでも作れるおもちゃに過ぎない。

それにいろいろな単語の知識とで等価だろうと判断したまでだった。


とは言え、それはあらゆる魔術を極めたとされるウェルクが、一番得意な魔術はなんですかと言われれば、永久機関の作成、と答えるくらいそれに精通しているからである。


無限に利用できるエネルギーを極めた彼にとって、その玩具は大海からコップ一杯の海水を汲み上げた程度でしかなかっただけの話である。





「お前たち、そんなところに居たのかい!!」

すると、その時、向こうから村の女たちが駆け寄ってきたのだ。


「あ、お母さん!! 見てみて、この人からこんなの貰ったんだ!!」

「いいから、早くこっちに来なさい!!」

「アンタもだよ、速くこっちにきな!!」

そうして子供たちは母親たちに引きつられていかれた。



「ばいばい!!」

最後に少女が振り返り、手を振っていった。





「ウェルク!! こんなところに居たのか!!!」

そこにようやくエリンがご登場した。


こんな真っ暗な世界で、灯りがあればかなり目立つだろう。

彼女はその光を見てやってきたのだ。



「ここは危ない、遠くにこちらに向かってくる幾つもの松明の光が見えた。

さあ、私と共に村長に屋敷に来るのだ。」

しかし、そんなことをまくし立てられてもウェルクには全く伝わらなかった。



「なんですか、もう一度言ってください。」

「ああ、もう、いいからついて来てくれ!!」

そう言って、エリンはウェルクの腕を引っ張って歩き出す。




「なんですか、教えてください。」

「危険、彼ら、こっち、行きます!!」

エリンは単語を選んで簡潔にそう答えた。



『ああ、あの盗賊どもが仲間を呼んできやがったのか。』

そこでようやくウェルクも何が起こったのか理解した。

盗賊団は舐められたら終わりの集団だ、仲間が殺されたのなら、すぐに仕返しにやってくるだろう。



正直に言うと、関わり合いになるつもりはない。

この村の住人が幾ら殺され、それほどの暴虐に曝されようとも、自分は関係もないし興味も無かった。




『ふむ、でもそうなると、あいつらに顔向けできないかな。』

ウェルクの脳裏には、彼のかつての仲間たちの顔が過ぎった。

共に魔王を倒し、苦楽を共にした、彼が唯一心許した他人だった彼らの顔が。


お人好しで、バカな連中だった。

作戦の遂行の為に仲間を見捨てることになったこともあったが、目の前で苦しんでいる人たちを見て見ぬふりはしなかった。

それに付き合わされる自分は嫌々だったが、決して悪くは無かった。




『偶にはいいか。

旅行に来ている時くらい、魔導師ウェルベルハルクじゃなくて、昔のように、ただのウェルクであるのも。』


それに彼は、どれほど摩耗しても、己が英雄だった誇りを忘れたことは無かった。





『自分が蒔いた種だ、軽く刈り取ってやるとするか。』









こんにちは、ベイカーベイカーです。

と言っても、今回は特に書くことないですね。

それでは、また次回。

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