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王都を見て回った




弟子入り七日目は簡単な計算についてだったが、ウェルクの頭の中の数学はこの時代を千年単位で先を行っている。

その一端を見せただけで彼にはそれの授業は必要ないとアドルフは判断した。


「では予定を変更して、今日は外へ出るぞ。」

アドルフはそう言って余所行き用の外套を羽織った。



「今日は何を教えてくれるのですか?」

「なに、魔法使いの役割を肌で実感した方が良いと思ってな。」

そうしてウェルクが連れてこられた先は、何かの建築現場だ。

一軒家だと思われるが、まだ木材で枠が作られているだけだった。



「よし、こちらだ、そのままそのまま、よーし、そこへ置いてくれ。」

そこに、向こうから木材を空中に浮かして運んでくる大工たちがやってきた。

一人が呪文を唱えながらゆっくりと木材を運び、一人がそれを誘導する形だ。



「よーし、そっちの木材をこっちにくれ!!」

「わかりやしたー。」

魔法使いが木材を持ち上げると、それを空高く浮かび上がらせる。

そうしてあっという間に二階部分の枠組みを作り上げてしまった。



「このように、魔法は王都の都市計画を大きく躍進するのに一役買っている。」

「なるほど。」

誇らしげなアドルフにウェルクは頷いた。

彼はこの王都に着た時から思っていたのだが、文明の発展具合が思ったより進んでいる理由の一つはこれのようだ。

コンクリートも無いのに二階建て以上の建物をこんな風に簡単に立てるのはこの世界の文明では難しい。


だが、この世界は魔法が生活に密接に関わっている。

それがまだまだ浅い人類史における文化の発展に重要な位置を占めているのだろう。

人間の力で運べない物を魔法で代用できるというのはとても大きい。

それだけで人類の行動範囲というものは劇的に広がるからだ。



次にウェルクがアドルフに連れられて訪れたのは、倉庫が並んでいる一画だ。

アドルフは倉庫番の男に話を付けると、彼を伴って中へと入ることを許された。


「こっちは常温で保存できる物を保管してやす。」

中には麻布で包まれた荷物が列挙しており、その運搬を行う魔法使いの姿も散見された。


荷物の山の合間を進むと、奥に大きな木の板が地面に設置されていた。



「そして、こっちが今年の冬越え用に蓄えている食糧になりやすね。」

倉庫番の男は木の板についていた取っ手を持ち上げると、そこには地下への階段が隠されていた。

その中から冷たい空気が漏れだしてくる。



「ここはこの王都の食糧庫でな、不作や厳冬の為に国が備えている備蓄だ。

この奥には魔法使いが数十人単位で維持している氷柱が幾つも存在している。」

「流石にこの中に入るのは国の許可が入りやすので、ご勘弁を。」

「わかっておるわ。外から見るだけと言う約束だ。」

アドルフは倉庫番の男にそう言って、礼に銅貨を数枚握らせた。


倉庫の区画を後にした後も鍛冶場や公衆浴場で火力調整する魔法使いの姿をウェルクは見て回った。



「このように、この王都では魔法使いの存在が無くてはならないのだ。

あの食料の冷蔵を考案したのもアテズデリ帝であり、これにより餓死者の数が大幅に減り……」

その道中もアドルフの講義は続いていた。

そうして王都の街並みを歩いていると、ウェルクは立派な門構えを横目に見つけた。




「師匠、ここは魔法とは関係無いんですか?」

ウェルクは、門の横に刻まれている「王都王立魔法学院」というプレートを指差しそう言った。


「ああ、ここは・・・。」

アドルフは一瞬口籠ったが、すぐに咳払いして門に向き直った。



「ここは我が帝国が誇る王立魔法学院だ。

魔法学院と名が付いているが、何も魔法ばかりを学ぶところではない。

創設された当時はそうであったが、今ではお前に教えたような教養を与え、帝国の未来を担う人材を育成する重要な施設だ。」

「つまり、魔法使いとしての道を選択できる教育機関と言うことですね。」

「概ねその通りだな。

とは言え魔法の才能は人の向き不向きと同じだ。

魔法を学ぶかどうかの選択も可能であり、魔法を会得しなくても大臣になった者もいる権威ある場所だ。

私が教鞭を取っていた時から方針が変わっていないのなら、私が説明した通りの場所だ。」

「なるほどなるほど。

では魔法だけを学びたい時は師匠みたいな個人経営の私塾へ通うわけですね。」

「私個人としては、人としての常識を学ぶ前に魔法を会得するのはお勧めしないがね。

魔法は一歩誤れば簡単に人を傷つける武器となる。その為に魔法を得るなどと以ての外だ。」

アドルフがそう断言した時、門の向こうからこちらを窺う人影があった。



「あッ、アドルフ先生じゃないですか!!

私ですよ、覚えていますか? 先生がここで魔法を教えていた時の生徒です!!」

身なりの良い男が門の向こうからアドルフに興奮気味に声をかけてきた。


「ああ、覚えておるぞ。魔法学院の講師になったと聞いていたが、元気にやっているようだな。」

「はい、今の私が居るのはアドルフ先生のおかげです。

ところで、門の前に誰かいるというので見に来たのですが・・・何か御用ですか?」

「それは・・」

魔法学院の講師の質問に、アドルフは再び口籠った。


「師匠、僕ここの中を見てみたいです。」

「な、なんだって?」

ウェルクの言葉に、アドルフは明らかに狼狽えた。



「お弟子さんですか? 師匠のお弟子さんならいつでも見学に来てくださって構いませんよ。

むしろ自分の母校だと思って気軽に来てください、歓迎しますよ。」

講師の男はにこにこと笑顔で親切にも門の扉を開けてくれた。

その親切に遠慮することなくウェルクは門をくぐる。


「ささ、アドルフ先生もどうぞ。

自分の古巣を見て回るついでに娘さんのお顔を見て行ったらどうですか?」

「そ、そうだな、そうさせて貰おうか。」

自分の嘗ての教え子に背中を押され、アドルフも魔法学院へと足を踏み入れたのだった。







・・・・

・・・・・

・・・・・・




学院はウェルクがこの世界に来て最も大きな建造物であった。

十棟以上の建物で学院はなっており、アドルフが帝国のの将来を担うを言うだけあって、帝国側の気合の入れようが分かると言うものだ。


学院内を歩いていると、白を基調とした服に黒いケープを纏った学生たちとすれ違う。

あれがこの学院での制服のようだ。

この学院を作ったという魔女は黒衣を纏っていたという。

しかし、この世界では黒は控えられる色らしいから、申し訳程度に取り入れられているようだ。



「これがこの学院の創立者でもある魔女像だ。」

一番大きな教練の中庭にたどり着くと、アドルフはその中心に立てられている銅像を指さした。


そこそこ風化しているが、黒衣を纏っていてもその全体的な体のラインは女性であることを窺わせる。

そして何よりウェルクがその像をみて感じたことは、思った以上に若く見えたことだ。



「以外に若いんですね。それとも見栄ですかね。」

「いいや、魔女殿は年を取っても老いることは無かったというのだ。

そのことを妬んだ後年のアテズデリ帝の怒りを買い、火炙りとなって処刑されたとされている。」

「ふーん、稀代の名君も老いには勝てなかったんですね。」

「そうであるな。老いはいかな賢人の眼も曇らせる。」

既に老境に入ったアドルフには感じ入るものがあったのか、その背には哀愁が漂っていた。





「お父さんッ!!」

その時、背後から怒声じみた声音と共に一人の女性がやってきた。



「イルマッ!?」

「どうして今更学院に来たのよ!!」

「それはだな・・。」

アドルフはその女性に詰め寄られ、たじろみ言いよどむ。

そしてウェルクに見られているのを意識してか、咳払いした。



「今日は弟子がこの学院を見て回りたいというから来ただけだ。お前には関係無い。」

「弟子ですって、お父さんの塾から人が居なくなったってことぐらい知っているのよ!!

それに今になって弟子が取れるわけないじゃない!!」

「本当だ、本当なのだ、イルマよ。

彼はウェルク。非常に見どころがある奴だ。」

「ウェルクです。アドルフ師匠の元で学ばせてもらっています。」

「うそ・・・。」

イルマと呼ばれた女性は信じられないモノを見るようにウェルクを見た。


老齢に差し掛かっているアドルフにしては若い娘であった。

とは言え、確実に結婚適齢期は過ぎているだろうが。



「信じられない、プライドばかり高い人だとは思ってたけれど、自分が戦いたくないからって今更弟子を取るなんて!!」

「違う、そうではない、いや、そうではないわけではないのだが・・。」

「ホント、見損なったわ、そんなんだから弟子たちも離れていくのよ!!

いっつも伝統伝統、しきたりしきたり、頭が固くて融通も利かないくせに今更こんな若い子を弟子に取って!!」

イルマの激怒は収まるところを知らず、アドルフにそれを抑える術は無いようだった。



「師匠には先日私から頼み込んで弟子にしてもらいました。

どのような誤解があるのか存じませんが、娘が父親にそのように言うのは感心できませんね。」

見てられなくなったので、ウェルクが助け舟を出した。

一応師匠の娘と言うことで最大限の敬意を払って、だ。


「まさか、あなたお触れのこと知らないの?」

「お触れ?」

ウェルクが首を傾げていると。



「イルマ、聞いてくれ。」

「お、お父さん・・?」

アドルフは娘の両肩を掴んで言った。

彼女も彼の只ならぬ雰囲気に、父の異変を悟った。



「王は、弟子が居ないのなら娘を差し出せと言った。

お触れにはそこまでは書いていなかっただろう。」

「え・・・そんな、嘘よ。」

「嘘ではない。今時弟子のいない宮廷魔法師は私しかおらんかったからな。

王にそのことを言ったらそのようなお言葉が返ってきた。」

イルマはその言葉によほど愕然としたのだろう。放心して足元が崩れ落ちたのだ。


「だがそんなことはこの私が絶対にさせない。

我が一族一門の誇るシュタイン流魔法術の名に懸けてだ!!」

「お父さん・・・。」

「お前にはいつも苦労を掛けた。

だからこそ、この責務をお前にだけは押し付けるわけにはいかないのだ。」

「でも、その子は弟子入りしたばかりなんでしょう?

そんな子が戦えるわけ・・。」

「心配はいらない。この私が教えるのだ。

それに、私は分かるのだ。私は幾人もの魔法使いを育て上げてきたが、こ奴ほどの逸材を見たことが無い。

きっと歴史に残るほどの魔法使いになるはずだ。私の眼に狂いはない。」

その時、初めてイルマは父を恐ろしく思った。

彼の魔法に掛ける情熱は昔から家族を蔑ろにするほどであったが、その先にある物までは知らなかった。



それを見たウェルクは、ああやっぱりこの人に師事してよかった、と思った。

この国に彼以上の魔法使いは居ないと思っていたから弟子入りしたが、アドルフは少なくとも教育者としては一流だった。

なにより見る目がある。

最悪そちらの方向性だけでも良かったが、どうやらこの弟子入りにはもう一悶着あるとウェルクは面白がってそれを見ていた。







こんにちは、ベイカーベイカーです。

正真正銘今年最後の話です。

当初の予定ではこの弟子入り編まで構想が出来ていたので、当初の目的通り短い間隔で投稿できております。

それでは今年ももう短いですが、皆さま、良いお年を。

では、また。

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