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弟子入りしてみた




アドルフ・シュタインの生涯は栄光に満ちていた。



彼は由緒正しきシュタイン流魔法術の後継者として生まれ、その才覚も決して凡庸なものではなかった為、将来も嘱望されて育った。


彼が王都の魔法学院の講師に招かれたのは18歳の時と言う快挙をなし、王宮の宮廷魔法師になったのは27歳という当時最年少でこれまた快挙だった。


王からは覚えもよく、王宮内での魔法の手ほどきに加えて王子王女の教育係も兼任した。



彼の生涯は輝きに満ちていた。

その晩年までは。





彼の年齢が五十を数えた頃だっただろうか。

いかに彼に才覚はあれども、老いには勝てなかったのだ。


次第に精細だったその魔法の力にも衰えが生じた。

新進気鋭の若者たちの台頭により、彼は次第に王宮内に居場所を失ってきた。


教育係だった王子もやがて王になり、その王からも彼は疎まれるようになった。

息子のように接してきた王の拒絶にさしもの彼も驚いた。


そして気付いたのだ。

誰かが王に根も葉もないことを吹き込んでいる、と。



「下らぬ。」

彼は権力には興味は無かったが故に、いつの間にか自分が王宮内でも知らぬうちに無視できない立ち位置に居ることに気付いていなかった。

彼がその生涯で王に助言をしたことなど数十ではきかない。

彼は王の相談役として周囲からは認知されていたのだ。


今の王に不満を持つ者も多く、それ故に王を疎ましく思っている者たちの仕業であった。

そんな連中の権謀術数に、彼はなす術などなかった。



そして何より、彼の知る時代から、世代は移り変わろうとしていた。

ある日、彼は王から呼び出しを受けた。


そうして王の元へはせ参じると、何やら自分以外の宮廷魔法師が集まっていた。

それも、彼が知る限り全員だった。




「これで全員であるな。」

全員集まったのを確認して、王は口を開いた。


「昨今、シゼ王国との戦況が激化しておる。

敵は魔法使いを弓兵の如く並べ、その火力で我が軍は多数の被害が発生しておるのだ。」

王の言葉に、宮廷魔法師たちがざわめく。



「なんと不遜な!!」

「魔法もまた神々から齎された神聖な力であるというのに!!」

「それを戦争の道具に使うとは!!」

宮廷魔法師たちはその話に憤った。

それはアドルフも同じだった。



「余も諸君らと同じ気持ちだ。

だが、魔法使いに対抗するには魔法使いしかあるまい。

そこで我々も魔法使いの部隊を組織し、護国の為に連中と戦うのだ。

勿論、諸君らはその先頭となって第一矢となって貰う。」

王の言葉に、宮廷魔法師たちは冷や水を被せられたかのように静寂に満ちた。



「そこで、今まで曖昧であった宮廷魔法師の基準を厳格にする。

諸君らはひと月後にその腕を競い合い、上位三名を筆頭宮廷魔法師と定める。

筆頭にならなかった者は弟子を率いて戦場を赴くことを義務付ける。」

更に続けた王の言葉に、彼らの心境は通夜の物となったのは言うまでもない。


王はこう言っているのだ。

弟子たちを戦場で殺したくなければ、候補者を打ち破り筆頭宮廷魔法師となって戦場に立て、と。


それはあまりにも残酷な命令だった。



「へ、陛下、一つ尋ねたいことが!!」

命令を受けてぞろぞろと悲痛な面持ちで玉座の間から退出していく中で、アドルフだけが残り王へと言葉を投げかけた。



「なんじゃ、アドルフよ。」

「現在わたくしの門下には弟子はおらず、仮に戦場に立とうともこの老骨には陛下のお役に立てるとは思いませぬ!!」

アドルフは戦争に加担するのは御免だった。

そんなものの為に自分は魔法を磨いてきたのではなかったというのに。




「ふむ、確かにそれもそうだな。」

アドルフの言葉に、王は首肯した。

だが、彼の冷たい視線に晒され、アドルフは王の言葉に安堵を抱けることはなかった。



「確かに今までは宮廷魔法師は名誉職も同然だった。

それゆえ査定も甘く、今は若者の方が数も多い。貴様にはいささか不利と言えよう。

確か、貴様には娘が居たな。ならば、娘を代理とせよ。そしてほかの者にも弟子を代理にすることができると通達すれば、公平か、」

王の言葉に、アドルフは血の気が引く思いだった。


彼の娘は現在魔法学院で教鞭をっている。

争い事などてんで似合わぬ娘だった。


そんな彼女を戦場に出す?

考えるだけで卒倒しそうだった。




アドルフがそれからどうやって家に帰ってきたか、覚えていなかった。

自分はどうすればいいのか、どうすれば娘を戦場に送らずに済むのか。


彼は必死に考えたが、どうにも思いつかなかった。

とにかく弟子になるものを探したが、一人も見つからなかった。

そうやって数日を無為に過ごしていると、奔走する彼は嘲笑の的になった。




「はッ、見ろよ、落ちぶれたシュタイン流が今頃になって弟子探しか。」

「あの老いぼれに戦場に出るのは辛かろう。」

「伝統と由緒だけが取り柄の老骨の時代ではないのだよ。」

と、心ない言葉が投げかけられる。


王の前では皆、建前として魔法を使う敵国に憤っていたが、自分たちは魔法をしっかりと戦いの道具として教えていたのだ。

近年の魔法使いの需要は武力として高まっていることもあり、そのような方針転換をするのは世情としか言えなかった。


アドルフの構えている私塾はそのような使い方を決して認めなかった。

だから彼の元から門下生が離れていくのは当然のことだったのかもしれない。

それが時代の流れだった。





一日中、老骨に鞭打って勧誘して回り、疲れ果てた末に家に戻ろうとして夜が訪れた。

夜の闇が路端に設置されている“祈りの炎”に万遍なく照らされ、夜道は不自由しない。


夜風の冷たさに震えながら、すっかり錆びれた私塾の門構えをくぐったアドルフは、異変を察した。

薄暗い影の中に、誰かが居たのだ。



「誰だ、そこに居るのは。」

アドルフが鋭く声を発する。

すると、影の中の人物はゆっくりと姿を現した。


奇妙な人物だった。

夜を思わせる色ゆえに忌避される黒い衣を纏う、不自然な緑色の髪をした年若い少年だった。





「あなた、魔法、教えてください。」

その少年は開口一番にアドルフにそう言った。



「・・・なん、だって?」

「私の、言葉、わかりませんか?

魔法、教えてください。」

この国の言葉は慣れないのか聞き取りずらいが、それでも彼の言っていることを理解できないほど老いたつもりはなかった。



「なぜ、今になって私に教えを乞おうとするのだ?

魔法を教える私塾は他にいくらでもあるだろうに。」

今日あれだけ駆け回って一人も見つからなかったというのに、帰ってみれば志願者が居るという。

その徒労感ゆえに、アドルフは思わず問うてしまった。

彼が宮廷魔法師であるがゆえに門戸を叩くものは数多くいたが、今ではその全てが立ち去って行った。


アドルフの言葉に、黒衣の少年は首を振った。



「お話、できません。他の人たち。可笑しいです。

ここが一番、古い、と、聞きました。私に、魔法、教えてください。」

彼の言葉はどこか侮蔑に近い何かを感じた。


確かにシュタイン流は古く、由緒正しい流派だ。

数百年前に魔法を齎した魔女に教えを乞うた数人の弟子たちがそれぞれ起こした流派であり、現在まで存続しているのは彼の受け継いだシュタイン流のみだ。


彼の魔法こそが最も源流に近しいものなのは間違いなかった。



その時、アドルフの脳裏に過ぎったのはひとつだった。

こいつを弟子に取れば娘を戦場に送らずに済むのではないのか、ということだ。




「・・・・よかろう。私はお前に魔法を伝授しよう。」

アドルフが悩んだ末に絞り出した答えは、それであった。


嘗て彼は自分に教えを乞う者は厳選してきた。

それは家柄の良い者だったり、才覚溢れる者だったり、魔法学院の成績優秀者だったりであるとか。


そういった者たちこそ、魔法を学ぶのにふさわしいと考えていたからだ。

その結果が現在の衰退である。



だがこの時、アドルフは五十年かけて培ってきたプライドを捨てた。

伝統ある由緒正しい流派の継承者であるとか、宮廷魔術師である誇りであるとか、そんなものを一切合財だ。

全ては娘の命を守る為に、彼はそんな下らないプライドを投げ捨てた。


その選択が、自らの人生を変えてしまうとも知らずに。





「よかったです、うれしいです。」

少年は静かに微笑んでいた。

まるで棚に並んでいる果実の質を値踏みするかのように、静かに見ていた。








こんにちは、ベイカーベイカーです。

思ったより筆が進んだので、投稿します。

流石に今年はこれで終わりだと思いますので、みなさんよいお年を。

ではまた、次回。

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