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異世界からやってきてみた




私は思った。

人生最悪の日というものは事前に予測できないから唐突に訪れるように思えるだけで、気付いた時にはそれは既に始まっていて、逃れる術は無いんだと。


例えばそれは、立ち寄った辺境の村からの依頼で山賊退治を頼まれ、簡単な仕事だと息巻いて連中のところに出向けば奇襲を受けた、とかである。



「くっはははは、馬鹿な女だ。こんな山道を一人で歩くとはなぁ!!」

山賊たちの下卑た笑い声が聞こえる。


声と気配からして確実に十人以上。

勝てなくはない数だ。


しかし、相手には魔法使いが居たらしく、先制攻撃を受けて吹っ飛ばされ、無様に地面に転がった私はその場で組み伏せられたというわけだ。



情けなくて涙が出る。

もし自分を殴れるのなら今すぐにでも殴っているだろう。



「アニキ、こいつどうします?」

「取りあえず、アジトに持ち帰ってから親分にお伺いを立てるんだ。

機嫌が良けりゃ、味見くらいさせてもらえるかもな。」

「そりゃあいいや!!!」

ぎゃはははは、と山賊達から笑い声が上がる。


冷静に反撃の機会を窺うが、そうこうしているうちに武器は奪われ、手足に縄で縛られる。

状況は悪化していくだけだった。



「こいつ、抵抗しないぜ。」

「初めから俺たちに捕まる為に来たんじゃねーのか?」

「違ぇねぇ!!」

げらげらと笑い罵倒してくる山賊たちに私は己の無力を呪った。


しかし、私にできたことと言えば神に祈るくらいだった。



それが神に通じた、とは思いたくはない。

それは唐突に訪れた。



「なぁ、あれはなんだ?」

山賊の一人が言う。

身動きが取れない私に確認するすべはないが、そいつはそれに何かを見つけたらしい。



「こっちに来るぞ!!」

そして悲鳴が上がった


その直後だった。

爆音と共に、付近に何かが墜落した。

目と鼻の先だった。


衝撃で山賊たちが薙ぎ払われる。

私は地面に転がされていたから何とか衝撃を受け流せたが、立っていればそこの山賊たちと同じような目に遭っていただろう。




『あれ、随分と遠くまで来ちゃったみたいだね。』

爆音で耳鳴りがする私の頭に聞こえた声は、そんな間の抜けたような男の声だった。


墜落の衝撃でできた穴から姿を現したのは、奇抜な格好の少年だった。

怪しい邪教徒のようなローブ姿の出で立ちに、つばの広い天辺の尖がった帽子。

自然のものとは思えない緑色の髪をしていた。


それは古典に出てくるような魔法使いのような格好だった。



『魔力の質もまるで違うし、気質も僕の知るものとは違いすぎる。

僕のいた次元から大きくずれた世界に来ちゃったのかな。

これは僕の魔術が正常に機能するかどうかも怪しいなぁ・・。

これは帰るのも相当な骨になりそうだ。』

彼は周囲を見渡しながら、私には理解できない言語を口にする。


彼の視線が私の元へと止まった。



『昼間っから手足を縛られて転がされているなんて、変態的な趣味の持ち主なのかな?』

言っていることは分からなかったが、なんとなく馬鹿にされていることだけは理解できた。



「頼む、そこの魔法使い殿!! 私を助けてくれ!!」

しかし、降って湧いてきたチャンスなのには違いない。

異国の人間なのか言葉が分からないが、この状況を見れば察してくれるはずだ。

私は必死に助けを訴えた。




「おい野郎ども、大丈夫か!!」

しかし、無情にも山賊たちは次々と起き上っていく気配がした。


「おい、てめぇ、なにしやがったかしらねぇが、よくもやってくれたな!!」

彼らの動きは妙に統率が取れていた。

恐らくこの山賊どもは傭兵崩れなのだろう。

魔法使いも居ることから考えれば、納得できることだ。

恐らく戦争も経験しているに違いない。



『何こいつら、盗賊か何かかな?

うーん、共通認識の魔術も通じないみたいだし、この世界に伝わっている伝承も根本的に異なっている可能性も出てきたなぁ。』

「あいつ、なにかぶつぶつと言ってやがるぜ?」

「馬鹿たれ、魔法使いなんだから、呪文の詠唱しているんだろうが!!」

とは言え多勢に無勢、山賊たちの取った行動は至極簡単なものだった。



「やっちまえ!!」

一斉に襲い掛かったのである。


山賊たちの剣や槍が、少年の体に突き刺さる。

私は声にならない悲鳴を上げた。


だが、剣や槍で突き貫かれている少年はまるでそよ風にでも吹かれたように微動だにしなかった。

それどころか、血の一滴すらその体から流れ落ちなかったのだ。



『なるほど、自分に施した魔術まで無力化していない、と。

ちょっと残念だなぁ、この世界でなら僕は死ねるのかと思ったのだけれど。』

その少年は薄笑いすら浮かべていたのだ。


「ば、化け物!!」

「ま、魔法だ!! 魔法で粉々にしちまうんだ!!」

リーダー格がそう叫ぶと、恐怖した山賊たちが呪文を唱え始めた。



『えー、なにその原始的な構築方法・・。

こいつらが雑魚そうなのを差し引いてもこの世界の魔術には期待できないかなぁ。』

あからさまに落胆している様子の少年に、魔法の光が突き刺さる!!


次の瞬間には爆発し、少年の体の半分が失われている筈だった。



「うそ・・。」

私は思わず息を飲む。

なんとその少年は、魔法を片手で受け止めていたのだ。



『術式の制御を奪われることに抵抗力や暗号化も無し、と。

いよいよもって程度が知れてきたけど、まあいいや、これ返すね。』

そして、果実を投げ渡すかのように魔法を投げ返してきたのだ。


当時に、私の背後から悲鳴が山賊の聞こえてきた。

飛び散った血が私の目の前にまで飛んできた。



『よーし、覚えた。

こっちの言語は分からないけれど、丸々コピーすれば同じ結果は得られるだろうし。

とは言え、このままじゃ効率が悪いし、適当に改変しちゃうか。』

と、笑みを浮かべながら少年は山賊たちを指差し。



『座標固定、軌道設定、術種選択、術式起動。』

その指先から、閃光が放たれた。

爆音が轟き、悲鳴が上がる。



「な、なんなんだ、あいつ!!」

「馬鹿な、なんでそんなに短い詠唱で魔法が撃てるんだよぉ!?」

「ヤベェ、あいつヤベェよアニキ!!」

「に、逃げろ、逃げろぉ!!」

山賊たちも勝ち目が無いとみて、一目散に逃げ始める。



『あはははは、僕が詠唱なんて何百年ぶりかなぁ。

それに術式が若干暴走気味で威力が過剰になっている。こんな未熟者しかしない失敗、魔術を学び始めた時以来だよなぁ!!』

私は目を閉じて、必死に聞こえる悲鳴と少年の哄笑から耳を逸らした。

虫けらのように逃げる山賊たちが蹴散らされていく。


やがて、周囲には静寂が訪れた。



『ふん、少し取り逃がしたか。まあいいや、あんな雑魚。』

そして少年は私に向き直った。



『お前、なんていうのさ。』

「え、なに・・?」

『ああ、そうだった。共通認識の魔術が通じないんだった。

不便だなぁ、でも、この不便さも嫌いじゃないなぁ。』

少年は何事かを呟きながら、懐から奇妙な四角い物体を取り出して、それを指さし私に押し付けてきた。



「な、なんだそれは!?」

『なるほど、さっきの反応や盗賊どもの言葉からして、“それはなんだ”ってこっちではそういうのか。』

少年は奇妙な物体を懐にしまうと、今度は私を指さしこう言った。


「なんだそれは。」

と。



「あ・・・・言葉が分からないのか。」

ようやく私はこの状況というものを察することができた。

つまり彼は、私に名前を訪ねているのだ。



「エリン、・・エ、リ、ン、だ。」

私は胸に手を当ててそう答えた。

彼はなるほどなるほど、と何度も頷く。



「ウェルベルハルク。」

「うぇ、うぇるべらべるっく?」

自らを指差し胸を張って彼はそう言ったが、私はその奇妙な発音の言葉を正確には発せなかった。


「・・・・ウェルク」

彼はあからさまに眉を顰めながら、そう訂正しなおした。



「そうか、貴方はウェルクと言うのか。」

名前というものがわかると、目の前の未知の人間に対する恐怖感というものが薄らいでいく。

単純かと思われるだろうが、彼は命の恩人なのだ。



「すまない、どうかこの縄を解いてほしい。」

私は縛られた両手を示した。

だが、彼はなぜか少し考えるように首を捻った。


ニュアンスが伝わらなかったのか、言葉が通じないことに小さな苛立ちを感じていると。



「なにをしている・・・?」

少年は盗賊が持っていただのだろう盾を死体から取り上げると、私の前に突き出した。


「え?」

私がその意味を測りかねていると。



「なんだそれ。」

彼は盾を指さしそう言った。


「盾、だが・・それは。」

「盾ッ、エリン、盾。」

盾という言葉がわかると、彼はそう言いながら私と盾を交互に指さし始めた。


「え・・・?」

私が彼の意図するところをわかりかねていると、彼の方も焦れたのか、適当な枝木を拾ってくると地面に簡素な絵を描き始めた。

線の体と円の頭部だけで構成された人間は二人、片方は盾を手にしており、片方は彼の被っているような特徴的な帽子をかぶっていた。



「・・・・つまり、私を護衛として雇いたいということか?」

私はようやく彼の意図を悟った。


そして彼は盾を地面に突き刺して立てかけると、その上に座って私を見下ろした。

返事を待つ姿勢のようだが、その嗜虐的な笑みから断ればこの場に私を放置するくらい当然のようにするのだろう。


私には、選択の余地などなかった。

私は何度も彼に頷いて見せた。



その後、彼がその辺に落ちている剣を拾って縄を切ってくれたことでようやく私は自由の身となれたのだった。




私はこの時知らなかったのだ。


この日、空から降ってきた彼が、この世界にどのような影響を与えるかなどと。

私は、歴史の転換期を目撃したのだ。











ちょっと息抜きにこんなの書いてみました。

シリーズものですが、主人公が違う作品に出ているというだけで特に関係性があるわけではないので、初見の方でも手軽に読んでいただけます。

作風こそ変えませんが、投稿感覚を短くしてモチベーションを維持し、文章量を少なくし、描写もライトにして今までの作品の設定をほぼ投げ打って書いていこうと思います。

ほかのシリーズを読んでいる方も頭をからっぽにして読んでいただけると思います。

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