溢れる想い
何も言わずただただ平伏するアリエッタの姿を眺め、ふと前回と今回の違いを思い出す。
勿論同じケースってだけで違いは色々あるのだが、1連の流れで俺の知らない部分がある。
それは、単純に3日3晩も寝ずにぶっ通しで補助させられて、終わったらさっさと寝ちまったことだ。
思い返せば、俺が起きた時貴方が寝ている間大変だったんだから! って声高らかに言われたんだっけな。テメーの事はテメーでやるのがスジだろ!! って返したらモゴモゴ口の中で呟いて、最後にごめんなさいって謝ってきたけど。
その後なんか俺は自由にしてたけど、あいつはやたら皆に引っ張りだこ状態になってて、人気者じゃんって言った時なんかは助けてよとか言ってたなぁ。
あいつ結局苦労してるんだなぁ。南無。
ふむ、思い当たったは良いけど、細かいところがさっぱりだし、とりあえず聞いてみるか。
「おい、頭を上げてくれないか?
後、俺達に分かるように説明してくれ」
言いながらエリーに視線を向ければ、アリエッタの事なんて眼中にないようで、ひたすら幸せそうに俺の胸に顔を突っ込んでスンスン匂いを嗅いでは頭をこすりつけるのを繰り返している。……いや、ちょっとその行動はどうなんだ? 俺は君の将来が急に不安になってきたよ。
なんてエリーを見た後視線を戻せば、変わらず無言で平伏状態。
まじなんだよコレ? あー、あれか? 俺じゃぁダメってか?
ともかく、エリーに頼んでみるか。
「なぁ、エリー」
「うん、お兄ちゃんいい匂いがするー」
いや、そんな満面の笑みで語尾に音符が付きそうな感じでそんな事言われても、正直反応に困るのだが。
取り敢えず頭撫でちゃれ。
「あぅ」
ふむ、幸せそうにしてるな。
まー、あれだね、この年代の子ってほんと自由だからな。こっちがちゃんとペース作ってやらないとって事だな。
「よしよーし。そんじゃぁ俺のお願い聞いてくれるか?」
上手く意識を引けたかなと撫でるのを止めれば名残惜しそうに腕に視線を向けたので、後半は少し慌てて早口になってしまう。
早口になったとは言え、別に噛んだりはしなかったのでちゃんと聞き取れたようで、激しく縦に首を振る。
「うん、何でも聞くよ!」
「じゃぁ、アリエッタに何で平伏してるのか聞いてくれないか?」
「分かった!」
素直に元気よく返事を返してくれるエリー。いやー、本当に癒されるなぁ。
「お姉ちゃん、何で頭下げてるのー?」
「はっ、我らが王の御前にての礼儀でございます。
質問に答える為とは言え、お許しが出る前に言葉を口にした無礼お許し下さい」
うわ、なんか面倒くさい。と聞きながら思っていると、アリエッタが言い終えた直後エリーが不満そうに言葉を放つ。
「えー、礼儀ってちゃんと人の目は見て話さなきゃいけないんだよ。
お姉ちゃん変!」
変って言い切られてビクッと震えるアリエッタ。
ってか、何がそこまでの行動を取らせるかねぇ? うん。前回俺が起きた時滅茶苦茶対応変わったなぁとか思ったけど、あれで相当頑張った後だったんだろうな。
「あー、とりあえず会話してくれ。……ってこのお姉ちゃんに言ってくれ」
「うん、お姉ちゃん会話しよう」
どうしたものかと考えつつ、アリエッタの出方をうかがう。
「は、ご許可頂きありがとうございます」
……平伏は変わらんのか。あー、じゃぁ。って、面倒くさすぎるわ!
「おい、俺の言う事聞けよ。エリーが俺の言う事聞いてくれるのくらい分かっちゃいるんだろ?
つーかさ、マジでちんぷんかんぷんなんだよ。急に態度だけ豹変させるとかエリーに失礼だとは思わないのか?」
ムカツキが言葉に出てしまい、どこか責める口調になってしまった。
やー、手が出てない分まだマシかな。俺も大人になったもんだ。うんうん。
「……分かった」
そう告げるとすっと立ち上がり、エリーと俺を順に見つめ頭を下げる。
「本当に……本当にすまなかった。それと。本当にありがとう」
……あ、あれ? 流石にこの反応は完全に想定外なんだけど。
エリーもキョトンとしてるし。
意図を聞きたくて頭を上げるのを待つ。少しの間を取った後、アリエッタはゆっくりと頭を上げた。
「その金色の瞳、間違いなくエルフの王の証。
我々の数世代に1人しか生まれてこない、一族に繁栄をもたらす特別な存在。
が、白髪のエルフ全てがと言うのなら話は違う。里単位でも100年に1人程度は生まれているから。
その全てが実は王たる資質を持っていたと考えれば、成人を超えたエルフは全て頭を下げざるを得ないんだよ」
あえて感情が漏れないようにしているのだろう、淡々と独白を始めたアリエッタを黙って見つめる。
「ただでさえ助け合うべき仲間に酷い事をしてきたというのに、それが敬うべき王だったなんて……元々謝って許されるべき問題ではないが、それでも頭を下げずにいれるエルフは間違いなくどこか狂ってるか、身を削ってでも手を差し伸べて来た者達だけだろうな。
ただ、狂っている者達はともかく、手を差し伸べ続けた同胞達と同じ言葉を私達も言える」
すぅっと焦点が俺に合うとともに、その両眼から涙が溢れ出す。
「本当に……本当に同胞を救ってくれてありがとう。我らの王を助けてくれてありがとう。
……私達に報いる機会を教えてくれてありがとう」
既に彼女の視界は涙でさぞ歪んでいる事だろう。
ふむ、しかし、これはどうしたもんかねぇ。
正直出来る事をやったまででここまで過剰な反応返されると困惑しかしないのだけど。
いや、確かに物凄い苦労とか葛藤とかあったんだろうなぁくらいには察せるけどさ、ぶっちゃけ初対面の相手に泣かれたところでどうしようもないって。
エリーを見てみたら同じく困惑しているようで、しきりに俺とアリエッタと交互に顔を向けてるし。
「まっ、あれだな。皆幸せになって良かったで良いじゃねーか。
もし今後白髪のエルフが生まれてきても対応できるようになったんだしな」
俺の言葉に笑みを浮かべて涙を拭うアリエッタ。
が、次の言葉には少しムカついてしまう。
「あぁ、我らの命を掛ければなんと――」
「お前マジで馬鹿だろ? 俺がいるし、エリーだって今すぐは無理だが大人になれば1人で充分対応出来るようになるぞ。
折角皆幸せだっつってんのにわざわざ犠牲者出そうとするかねぇ。
何度も繰り返すが、皆幸せになるんだって」
遮って告げた俺のセリフに目を瞬かせ。ふぅっと穏やかにアリエッタは微笑んだ。
うむ、いい顔ごちそうさまっと。
「さーて、用も終わった事だし戻るか。
シンディも待ちくたびれてるだろうし」
「うん、戻ろう戻ろう」
胸の中で抱きついてくるエリーの頭を再び撫で、早速執事服に――。
「あ」
思わず声に出た。ってか、ずっと静かだったし俺気付けよなぁ。
あー、一応最初に魔力出した時殺さないように結界張ったお陰で死んでこそないものの、あれ完全に気を失ってやがるなぁ。
うん……こちらに非があるし、彼が色々粗相している事はずっと黙っていてあげよう。
なんか、ホント……ごめんな。




