私のお兄ちゃん・私のご主人様 (※別視点)
私は生まれてはいけない存在だったんだ。
そう思い込むまでさほど時間はかからず、何時もキツそうにしているお父さんお母さんを見ているだけで何時も悲しくなった。
最初はよく分からなかったけど、里の皆が不幸を呼ぶ子だと口々に言ってたのは事実だと思う。しきりにお父さんお母さんに私を手放すように言ってて、手放せば元のように元気になれるって言っていたから。
それでも、お父さんもお母さんも愛する我が子は手放せないって言ってくれていたけど、最初にお母さんが倒れ、お父さんもほどなく倒れてしまった。
2人が倒れた後、私はすぐ里の皆に引き離されたのだけど、それでお父さんお母さんが元気になるなら構わなかった。
生まれてきてごめんなさい。お願いだから早く元気になってね。そう思えば、お前さんはこれから売りに出す、二度と両親と会えないと言われても、体が震えるほど寂しく思っても我慢できた。
それからの生活は同じ日々を繰り返すだけになった。
でも不満はなかった。ある一定以上近づいてしまえば、その人の元気を奪ってしまう私が檻に入れられるのも、鎖で縛られるのも当然だと思ったから。
それでも、ちゃんと1日2食ご飯は出たし、酷い事は何もされた事はなかった。
ただ、ずっとずっと……寂しかった。
本当は人と喋りたかった、触れ合いたかった……お父さんお母さんに会いに行きたかった。
でも、檻の中で生きている内に、徐々に何も考えなくて済むようになった。
ぼーっとしているだけで1日が終わるようになった頃、その人は現れた。
最初はお願いだから早くどこかに行って欲しいって思った。
話し掛けてくれて物凄く嬉しかったんだけど、でも、徐々に辛そうな表情になっていくのなんてもう見たくなかったから。
でも、お兄ちゃんは違った。
私を助けてくれるって手を引いいてくれたし、事実私がそばにいても全然辛そうにならなかったから。
お兄ちゃんは私の運命の人だ。きっとそうに違いない。
私が苦しい時に来てくれて、私が望むものを与えてくれたから。
ずっと膝の上で頭を撫でていたお兄ちゃん。なのに、そうやって幸せに浸りつつ考え事をしていたらその撫でる手を止めちゃう。
思わずお兄ちゃんも実はキツかったのかなって不安になって振り返ると、なんだか上の空な表情でムッとしてしまう。
と、すぐに撫でるのを再開してくれたので、笑顔になってしまう。
えへへへ、なんか知らない女の人も付いて来て、実は少し不満だったんだけど、女の人も辛そうな顔にならないし。うん、私は本当に幸せだ。
これからもずっと一緒にいようね、お兄ちゃん!
シンイチロウ=タカミヤ。
彼については闘士付きになる事を義務付けられた私達の間ですら噂になるほどに悪名高い人だった。
無論、私達の間で噂になったのは彼が奴隷闘士となってからだけど、曰く今まで常人が考えつく全ての悪事以上の悪事を行い尽くし、奴隷闘士になっての初戦でも裏から手を回して無傷で勝ったと言うのだ。
彼がランクⅡ以上になってお付きを得れる権利を手にするのは早いと思われた。
が、それがどうしたと言うのだろう。闘士になろうとする人物達も1癖も2癖もある者ばかりである。
普通に伽と身の回りの世話をするだけで済む者の方が少数派な事実から、誰を選んだところで大して変わりがないとしか思えない。
無論、大切に扱ってくれる人はいるのだから、それを夢見てしまう気持ちもわかるし、奴隷闘士となる以上更にそう言う人である可能性が低いとも判断出来る。
でも、正直私にはどうでも良かった。いや、本当は全くどうでも良くないのだけど、2度選ばれ手痛い目にあってしまえば、他の闘士にも希望を見出す事は出来なかったのだ。
所詮金額の上乗せがあるからと闘士付きになると確約されて売られた身だ。そもそもが運などある筈もない。いや、そもそもあの両親の元に生まれたのが運の尽きだったのだろう。
それでも、心を壊されるほどまではいかなかったのは悪運だけはあるようだ。
心を破壊されるまで行く子も沢山いるから。体さえ無事なら闘技場自体と結んだ規約に反しないし、それに、ランクⅥ以上の者に選ばれた者は命の保証すらないのだし、そのレベルの相手には拒否権も全くない。
寧ろ闘士付きの予定のない子ですら狙われたら終わりである。商売上不利益しかならないが、化物の怒りを買うよりはと最低限の利益が出る程度に金を取った後生贄に捧げられるのだから。
いつの間にかここで4年が経ち、16になったその日に彼はやって来た。
なんとランク飛ばしでⅢになったらしいが、奴隷闘士となってまで影響力を持つ力とは一体どんなものか。
ならばそれに掛けてみるのも一興か。元々希望者がいなければ立候補するつもりだったし、しなくとも2度も手つきされているのは私だけで強制で選ばれるのも分かっていたらか進んで立候補したのだけど、なんと私以外にも2人立候補者がいたらしい。
なるほど、少しは頭が回るようだ。上手く彼に取り入って自分を買い取ってもらおうと言う魂胆か。噂通りなら簡単な話じゃないだろうが、それでも上手くやれる自信はあるのだろう。私よりも遥かに容姿の良いその2人なら、少なくとも私より可能性はあるに違いない。
ところが、件の彼は噂どころの人物って訳ではなかったようだ。
3人まとめて買うと言うところまでは良かったのだが、白髪のエルフまで欲したのだから。
この相手は噂以上に狂った人物だ。
私以外の2人もそう思ったのだろう、私と言う生贄も居る事だしあっと言う間に辞退していった。
ふふふ、賭けに出てみればこの結果だ。何にしろこの男には私が付けられたのだろうし、運命からは逃れられないようだ。
それからは……正直に言おう。噂と違うにも程があると。
どこの世界の悪人が、わざわざ高級なベッドを付き人と言う名の奴隷に与えると言うのだろう。
どこの世界の悪人が、騙す為でもなく、目を合わせて己の奴隷と喋ると言うのだろう。
どこの世界の悪人が、わざわざ人の体の心配をすると言うのだろう。
どこの世界の悪人が、自分と同じものを同じ席で付き人達と同時に取るというのだろう。
どこの世界の悪人が……あんな優しい瞳で子供をあやすと言うのだろう。
とことん運の悪い私の事だ、まだ100%信用したと言う訳でも出来る事でもないが、少なくとも彼の言う通り今後の彼の言動で判断しようと思う。
いや、100%信用はずっと出来ないかもしれない。何せこの国で最も多い茶色の髪に茶色の瞳で、特別優れた容姿でも体つきでもない私を魅力的だと言うのだから。
正直……その、そんな事を言われたのは初めてで、間違いなく私で遊んでいるのだろう。うん、悪人ではないのだろうけど、意地悪な人なんだ。そう思わないと恥ずかしくて顔も合わせれない。
ぶっちゃけると、彼が実は悪人だろうともう後のない私には選ぶ選択肢が非常に限られているのだけど、思わず希望を持ってしまうのは避けられなかった。




