白の意味
白と言う色は特別な色だ。唯一の例外を除いて癒しと祝福を司るとても大切な色として親しまれているし、最大派閥の教会の色としても有名だ。
で、その唯一の例外と言うやつがエルフの白髪だ。エルフの白髪持ちは不幸の代名詞として世に名を馳せてしまっているから。
過去の悲しい出来事の数々を思えば、思わずそう思ってしまうのも頷けるし、世に広がっている特に大きな出来事に関しては本当に全てが悪い方向に働いてしまったのだろう。
ただ、昔立ち寄ったエルフの里で出会った白髪のエルフに関しては、その本人の事情のみ聞いてある疑問が浮かんだのが最初だ。
まるで不幸を引き寄せているかのように話していたのだが、それは違うんじゃないかと思い、実際その現場を見た時に確信を得れた。何故なら、彼もしくは彼女らと同じ現象を引き起こす生物を俺は知っていたから。
とは言え、対処法が最初から思い浮かんだ訳じゃない。
いや、あの時は若かったと言うか子供だったかと言うか、偶々試した行き当たりばったりの方法が上手く行ったのだが、ああ、懐かしいな。皆元気にしてるかな? ここから出れる身分になったら1度会いに行ってみるのも良いかもしれない。
幼いエリーも種族の違う人間に囲まれるよりストレスなく過ごせるかもしれないし、何よりあの里はエルフには特に過ごしやすい環境らしいからな。
とまぁ、実家にいた頃よろしく床に布団を引いて寝ようとしたのだが、エリーが一緒に寝たいとぐずりって一緒に寝たせいかつい昔に思いを馳せてしまったようだ。
エリーも例に漏れず近しい人にほど影響を与えてしまっていたのだろう、ずっと一緒にいても俺がケロリとしてる事に気付いた後はべったりだもんな。
単純に愛に飢えた代替えか、初めて一緒にいて大丈夫な相手に刷り込みみたいな影響を受けたのだろう。それでも、好意を向けられて嫌な気はしないがな。
問題はあちらさんだ。
俺の服をしっかり握って眠りについたエリーを微笑ましく見た後、無理矢理命令してベッドに寝かせたシンディーへ視線を向ける。
「ったく、警戒しすぎだって……」
小さく口の中で吐き捨て、仕方ないなと思いながら断腸の思いでエリーの手を外す。
ちょっと待っててな、分からず屋に注意してくるからさ。
起こさないよう気配を殺して近づき、じっと天井を見ているシンディに溜息を付きながら言葉を掛ける。
「おい、ちゃんと寝ないと明日がキツいぞ」
ビクっと全身を震わせたところを見るに、驚かせてしまったようだ。まぁ気配を殺したまま突然話しかければそうなるわな。
とは言えエリーを起こす訳にはいかないし、すまないとしか言い様がないが。
幸いな事に叫び声を上げなかったシンディーだが、数回深呼吸をした後俺を見つめる。
「……では、さっさとすれば良いじゃないですか……」
投げやりな口調。ってか、抱かないっつってんのにそれすら納得してないってか?
いや、口で言われただけで納得出来るものじゃねーだろうが、納得してもらわない事にはこちらも困るんだがなぁ。
俺には無理矢理女の子を抱く趣味は無いし、それにクマを作った女の子を見たい訳じゃない。やっぱり笑顔が1番だよ。
「はぁ、頼むから無理矢理にでも寝てくれ。
そりゃぁ俺を信用する材料なんて今はないだろうが、これから世話してもらうのに支障が出る事はしないってでも思えば十分だろ?」
「寧ろ早くして貰った方がスムーズに行きます。初めてではないですし」
いや、そういう問題じゃないんだが。って初めてじゃないのか。これは俺は初めてだからどうしようじゃなくて!
むぅ、やっぱり女の子の扱い方って分からん。
「はぁ、まぁ確かにその綺麗な栗色の髪も、可愛らしい顔つきも女らしい体つきも物凄い魅力的だが。何度も言ってるようにお互い気持ちが伴ってからじゃないとしないって。
そこに初めてとかそうじゃないとか関係ないだろ? って、何故そう目を丸くする?」
何かまずい事でも口走ったのかと内心で冷や汗をかきつつ、目を広げて驚きをあらわにしている少女を見つめる。
「……いえ、その。はい、ね、寝ます」
あ、毛布を被ってしまった。
うーむ、この反応は……どう言う事だ?
あーもー、よく分からんが結果オーライで良いか。
「ああ、おやすみ」
「お、おやすみなさい」
どことなく上ずった声だが返事が返って来てホッと胸を撫で下ろす。
うん、一緒に生活する以上これから頑張って好感度稼がないとな。
俺の推測じゃぁ今日寝てくれたのは何かしら失言した俺に呆れての可能性が一番高いし。早めに挽回しなきゃな。
ともかく、無事ちゃんと寝る体勢に入ってくれたシンディーに安堵しつつ、布団にエリーを起こさないように潜り込んで俺も眠りへと落ちていった。
……いい匂いがする。
そう思って目を覚ませばまだ辺りがうっすらと明るくなってきた程度。まだ太陽が昇りきってもいない早い時間だと知れる。
殺気等に反応して起きた訳ではないから、イマイチ頭の回転が鈍いなか状況を把握しようとキョロキョロと匂いの元を探してみる。
「むぅ……、お兄ちゃん」
あっ、起こしてしまったようだ。目を擦りながら抱きついてくるエリーを抱きとめる。
「おう、おはよう」
「んー。おはよう。
……いい匂いがするよ。ご飯?」
あどけないエリーに癒されつつ、多分なとだけ返して再び匂いの元を探す。
それはほどなく見つかり、シンディーがこちらに背を向けてテーブルに何かを準備していた。
それが丁度終わったのか、振り返ったシンディーと目が合う。
「あぁ、もう起きられたのですね。おはようございます。
モーニングティーの準備が整いましたのでこちらにどうぞ」
気のせいかもしれないが、昨日より幾分が雰囲気が柔らかくなったような気がする。
「あぁ、おはよう。
ってか、マジで早いな。俺そんな指示出してたっけ?」
不思議に思い問いかければ、しっかりとした口調で戻ってくる。
「いえ、差し出がましいかと思いましたが私の独断です。
ご主人様がいつ起きるか分からなかったので早くから準備させて頂きました。
もし遅く起きる方なら、再度作り直せば良いだけですから」
おぉー、スゲー。流石訓練してきただけあるんだな。
感動に胸を震わせつつ、エリーを抱きかかえて立ち上がる。
「そうか、気が利くな。ありがとう」
「いえ、こちらこそ勝手な事をしてしまい申し訳ございませんでした」
……いや、礼を言ってるのに深く頭を下げられてもなぁ。
まぁ、今後一緒に生活するに伴って色々変わる事に期待しよう。
「いやいや、感謝しかないから。
そんじゃぁ皆で頂きますか。エリー、お茶だぞー」
「ほんと! 私も一緒でいいの!?」
驚いたように胸の中で叫ぶエリー。うん、もう少しボリューム落としてね。
シンディーも驚いていたが、エリーに先を越されたようで黙ってこちらを見ている。
「勿論だ。ってか、俺は食事とか大勢で食べるのが好きだからそれに従ってもらう。
シンディーもそれでいいか?」
胸の中で喜ぶエリーの頭を撫でながら問いかければ、困惑したような素振りを見せたものの、吹っ切れたように溜息を吐いて口を開く。
「はい、かしこまりました」
うおっ、笑顔メッチャ可愛い! っと一瞬見とれている内に元の無表情に戻ってしまう。
うむ、やっぱり女の子の笑顔って最高だな。今後も是非笑顔でいて貰える様に頑張ろう。
そう思いつつ、3人で仲良くモーニングティーを頂くのだった。




