表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/36

今回のお相手

「主役は遅れて登場って訳か?」


 特例とか何とかで魔力封じの腕輪を付けたまま戦う事になった訳だが、寧ろ丁度良かったのでこうして大人しく闘技場へと来たまでは良かった。

 だが、晒し者状態で結構な時間を待たされ、流石にあんまりな対応に怒りより呆れが先に来てしまう。

 予想だが、待たせてイライラを募らせる目的もあったのだろうが、あまりに幼稚な手法にため息しか出ない。

 それでも多少は怒りを覚えているから、全くの無意味ではないのだろう。ただ、なんにしろ無意味な訳だが。


「まっ、相手次第だったら予定変更せざるを得ないけどな」


 ポツリと呟く。

 万に一つ、いや、それ以下の可能性だろうが、カエデと言う名前を聞いた瞬間に思い出した相手がいるのだ。

 その思い出した相手が今日の対戦相手なら……俺は逃げ出す訳には行かなくなっちまうからな。

 まっ、どうしてもその名前を消せないのは俺が会いたいと思う気持ちが強すぎるのが原因だろうし、杞憂に過ぎないだろうが。


 と、やけに大きな歓声が上がり、ようやく相手が登場する事を知れる。

 同時に、まさか一番可能性が薄いと思っていた事態になるとはと、苦笑を浮かべてしまった。


「シン兄! やっと追いついたよ!」


「待てと言ったろうこのバカ娘。と言うかよく里の皆が許したな」


 にこやかにこちらに来るのは昔のように髪を2つ結びにした予想より小柄な少女。

 記憶の彼女と比べれば確かに大きくなっているのだろうが、彼女が成長した以上に俺が縦に伸びてしまっているみたいだ。

 だからと言って問題はないのだがね。


「ふんっだ。皆待てってうるさかったけど黙らせて来たに決まっているじゃない。

 女は度胸よ」


「あー、お前外見こそ可愛く綺麗になったが中身はそのまんまなんだなぁ。

 寧ろ安心してしまったわ」


 慎ましい胸を張る見慣れた衣装を纏った顔馴染みに、昔を思い出しながら告げれば赤くなってうつむいてしまう。

 どうしたんだ?


「むー、シン兄は相変わらず天然のタラシと見た!

 それ発揮していいの私にだけなのに酷い!」


「おいこら、意味分からんぞ」


 昔ながらの暴走っぷりが微笑ましくて笑みを浮かべてしまう。

 が、気に入る訳もなく癇癪はどんどん加速していく。


「いけずぅ! と言うか、絶対私と気付いてなかったでしょ?

 ほんと酷い! 仮にも――」


「そりゃぁ気付いてないと言うより、皆が許すわけないとは思っていたが。

 それでも、俺はお前に会いたかったし、もしかするとお前かもとは思っていたぞ。

 現に驚きゃしなかっただろう」


 遮って悪いとは思ったが、長くなりそうだった為半ば無理矢理セリフを奪う。

 と、聴き終えれば真っ赤になって口をパクパクさせるだけになる楓。

 しばらく待っているとうつむいて近づいてくる。


「私も会いたかったよ、お兄」


 可愛らしく言ってくれる楓の頭を思わず撫でてやりたくなる。

 が、その前に――。


「ミリア、予定変更だ。全力の奴頼む!」


「了解だよー」


 声を張り上げれば気の抜けた声が返って来て、同時に強力な魔力壁が幾重にも展開される。

 当然お客に危険が及ばぬようにと、お客を逃がさぬ為だ。


 ミリアの登場と同時に静まり返る会場。

 魔力壁を張られても誰も動かず声も発しなかったのは、ついでにミリアが気も放出したせいだろう。

 正直魔力壁だけで十分だったのだけど、ありがたく思ったので親指を立てておく。

 俺達の頭上にいたミリアはそれにピースサインで答える。って白か。


「欲情したかい?」


「見ちゃったのは悪いと思うが、しねーよ!」


 からかうような口調にツッコミを入れ、さぁ準備出来たと視線を戻せば膨れる楓の姿が。


「シン兄のスケベ! 見ていいのは私の下着と裸だけだよ!」


「そのとんでも発言にお兄ちゃんビックリだぞ!

 そもそも、成人前の生娘が下品な事あまり言わない」


 俺の注意もどこ吹く風で、変わらず唇を尖らせて睨まれ続ける。

 うーむ、昔より素直じゃなくなったなぁ。前はあんなに素直だったのに。

 思わず苦笑いが浮かぶが、そのまま口を開く。


「さて、俺としても早速やりあいたいところだが、もう少し待ってろな。

 色々面倒くさい事先に終わらせるからさ」


 言えば目をランランと輝かせ頷く楓。

 はは、現金な所は変わってないか。いや、うちの一族ならば血には抗えないよな。


「さーて、そんじゃぁこの邪魔くさいもんぶっ壊させて貰うぞ!」


 壊れないように等一切気を使わずに魔力を流し込めば、放出量も許容量も軽く凌駕された魔力封じの腕輪が崩れ落ちる。

 うん、やっぱり何もない方が遥かに良いや。

 それに、会場中が息を飲んだのも面白かったし。


「と言う事で、色々理解して貰ったと思うが。ミリアと違って俺の欲求は1つ。

 俺をハメた奴ら全員奴隷闘士にしろ。対応間違えたらどうなるか分かっているよな?」


 どうせやるならとことんだよなと、可能な限り低い声を響かせる。

 ……こう言う悪乗りがすぎて悪名が轟いた気もしないでもないが……今は忘れておこう。


「やー、これで僕と同じく自由の身だね!

 ああ、これから僕は彼と行動を共にするからよろしく。

 なんか僕を利用していたみたいだけど、利用料は請求しないであげる」


 楽しそうに言うミリアに顔面蒼白になるのは、最も豪華な席に座っていた奴ら。

 間違いなく王族なんだろうな。ミリアの登場の少し前に出てきてたし、多分直前まで楓とでも話していたのだろう。


「えー、これも付いてくんのー?

 折角会えたのにー」


「まぁまぁ、こうやって被害が出ないようにしてくれているんだし」


「別に出てもいいよ! シン兄に会えるから気分良くてだいぶ我慢してきたけど、もう最悪だったんだから!

 いっそこの国ごと消しちゃえば良いと思うよ!」


 ああ、そうだ、勢いでやらかすタイプでもあったな楓は。

 よく誉ばかり有名になったもんだ。ってか、やっぱり美少女だからか? 世の中理不尽だよなぁ。


「それだと色々後が面倒だろ?」


「むー、そりゃぁそうだけど。

 ……分かった。気にしない事にする」


 不承不承ながらも縦に頷いてくれた楓の頭を撫でてやる。

 って、ああ、折角終わるまでくらいは我慢しようと思ってたのに。自重自重っと。

 ……頼むからそんな切望する目で見ないでくれ。


「後でな。あーとーでー。

 今はやるべき事があるだろ?」


 にっこり笑みを浮かべ、構えを取る。

 と、すぐに満面の笑みを浮かべて同じ構えを取る楓。


「さぁ、それじゃぁ思いっきりやりますか、その為のミリアなんだし」


「そうなんだ、じゃぁこの女の同行許すよ!」


「なんか僕としちゃぁ当て馬にされたみたいで、物凄い不満な展開だなー」


 見上げれば、器用にスカートの中を見れない角度で宙に浮くミリアの姿が。

 器用な奴だな。制御くらいは同レベルで出来る自信はあるが、流石に見えるか見えないかの角度を調整するとか出来る気がしないし、出来るようになろうとも思わん。

 まぁ男だからかもしれないが。


「何よ、これ以上ない展開でしょ? 私達の戦いを見れるとか光栄に思いなさいな」


「は? 戦い?」


「ああ、ごめん。予定変更でコイツとやりあってから逃亡するから、結界継続よろしくな」


「まぁ、そりゃぁ構わないけど……」


 困惑気味なミリアに、このままじゃまずいだろうと思って忠告しておこうと思う。


「先に言っとく、滅茶苦茶しんどいだろうけど、ちゃんと後で労うから」


「じゃぁ私も言っとく。無理と思ったら自分だけ守りなさいな」


「うわ、なんかカチンと来た。シン君のお願い通り最後まで被害を食い止めちゃるもんね」


 俺の言葉でもやる気を見せたミリアだったが、楓の言葉で完全に目の色を変える。

 あー、なんか女同士通じる物があるんだろうな。

 とは言え、とりあえず保険と言うか、身内だけには用心させておかなきゃな。

 ミリアの力を疑いたくはないが、ある程度以上は把握していない以上完全に信用するのは無理だしな。


「エリー、丁度良い機会だし、お前もミリアの魔力壁に同調して強度上げといてくれ」


「分かったお兄ちゃん!

 後色々説明してもらうからね!」


 魔力を通じて話しているから大声を出さなくとも良いというのに、何故か大声を発するエリー。

 と、こちらも何故かジト目になる楓。


「……私も色々説明してもらうからね。お兄ちゃん」


「お、おう」


 なんだろう、背中に悪寒が走ってしまった。

 負けるとは思わないから別の理由なのだろうけど……いや、ビリビリとプレッシャーは感じているし、やはりそれが理由だろう。


「さて、御託は終わり。

 新宮家新宮守護宗家が3女楓、いざ尋常に参る」


 抑えきれない様子の楓に、しかし自分も堪えきれない故に妙な親近感を抱いてしまう。

 綺麗な口上に懐かしさを覚えつつ、数年ぶりに自らも口上を口に上げる。


「新宮家中之宮守護高宮家が嫡男新一郎、いざ尋常に参る」


 次の瞬間拳と拳とがぶつかり合い、魔力と気の混合のエネルギーの爆発が周りを包む。

 ああ、この感覚だ。なんだ、下手すれば最初の1擊でカタが付くかと思っていたが、楓も中々どうして。これは真の意味で楽しくなりそうだ。


「さっさと息の根を止めてやるからな!」


 喜びのまま吠えた声は、さて爆音の中どれだけの相手に聞こえただろう。

 少なくとも口元を上げた楓には伝わったようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ