情報収集
あの後国落としと会おうとしたのだが、彼女は王宮でもてなされているようでそれも叶わなかった。
とは言え当然だよな。単騎で国を壊滅させられるような実力を持った相手を野放しになんて出来る訳もない。
話も通じない相手なら逃げの1手だろうが、国落としは少なくとも話は出来る筈の相手だからな。
となれば、どうあがいても決闘を回避するのは不可能で、ならば情報をきっちり集めておくに越した事はないだろう。
皆で協力して色々聞き込みを行ったのだが……うん、俺セルリックからしか話聞けなかったよ。
なんだかアレスの試合は俺が何かやってはいけない事をやった。とか言う事になってしまっていて、普段はそんなに噂に流されない者もろくに話を聞いてくれない始末だったからな。
いや、ホーリンの時からそのきらいはあったから、止めになった感じかもしれない。
うーむ、俺自身の周りは非常に快適だからつい忘れがちになるが、周りの反応を見るに本当にいつ俺達に手を出すか分からないし、いい加減頃合でもあるのかもしれないな。
となれば、近々皆の気持ちを聞いておくべきだろうな。
無駄骨の聞き込みを諦め悪く続けつつ、ただ心の中ではそんな事を思うのだった。
「さて、エリーも寝静まったし得た情報を教えてくれないか?
正直俺は誰からもロクな情報は得てないから……そうだな、シンディー頼む」
単に目に付いた最初の相手がシンディーだったので、そのまま意見を求める。
テーブルを囲んでいる面々ではなく、お茶をついで回っていた自分にお鉢が来るとは思わなかったのだろう、一瞬目を見開いて驚きの表情を晒した後無表情に戻って頭を下げた。
「かしこまりました。
私が聞いた話では、彼女は国を壊滅させて国落としと呼ばれてはいますが、他にも同等以上の逸話をいくつも持っていました。
上位竜を単騎で殲滅したと言う話。ねぐらを山中に隠し持つ山賊団を面倒だからと山ごと消滅させたと言う話。様々な毒を仕込まれたと気付きながらわざと口にしてみせ、しかも全く効果がなかったと言う話。複数の魔族を相手取り撃破したと言う話。
どれもが常識をあまりに逸している話ばかりで、盛られた話もあるでしょう。が、ギルドの報告書として報告提出された話もありますので、何にしろ規格外なのは間違いないでしょう。
まだ少女と言える年でSSランクなのに、同ランクの年古序列に五月蝿い人間すら黙らせているだけあると言えますね。
それ以上のクラスは過半数の国に認めらなければならないと言う決まりさえ無いなら、実力的には十分なっていて不思議はないと愚考致します」
言い終えると再び頭を下げるシンディー。
直後ファニーが頭を下げ後を続ける。
「シンディーさんのおっしゃる通りまるで神からの加護を受けた存在のような実力も持っていらっしゃるようなのですが、その人格まで英雄や勇者と呼ぶにふわさしい物を兼ね備えていらっしゃるようなのです。
と言うのも、基本的に彼女は変な気を起こして近づいたりせねば、悪人にしかその力を使わないようで、救われた人等を中心に人気も非常に高いようです。
ギルドでは多少扱いに困っていたようですが、好意的な意見が多く寄せられた為行き過ぎた行為をすると注意をする程度の対応だったそうです。
概ねギルドにとってもプラスになる事をしていたのが大きかったのも要因でしょうね」
話を聞けば聞くほど羨ましく思ってしまう。
俺だって人助けに悪人成敗やギルドに貢献してきた筈なのだけど、悪名ばかり貰うどころか他所のギルドに行ってくれないか? なんて絶縁宣言まで頂戴した事がある。
……いやまぁ、ギルドと裏で繋がってた奴らを最初の方で連続でぶちのめした所為とは分かっちゃいるが、それでもやるせない。
「まるで神に加護を授けられた英雄や勇者のようね。
無論、世界の危機に瀕していない今そのような存在は生まれる理由がないと分かってはいるのだけど、ランクⅦの彼女といい常識がここまで通じないと加護持ちですと言われた方が納得出来そうよ」
どこか悔しそうに言うのはアリエッタ。
彼女だって本心ではこんな事を言いたくはないのだろうけど、ランクⅥまで上り詰めた実力を持ってしても言わずにいられないと言う訳か。
と言うかランクⅦ持ってる奴も相当に規格外なのか。そう言えば彼女の為に作られた特別なランクで、彼女が望まない限り試合も出来ないんだっけか。
っと、今考える事じゃないな。いかんいかん。
「死んでも負ける事は許されないからな」
ポツリと俺を睨みながら零したのはホーリンで、思わず苦笑いを零してしまう。
「まぁ、やるからにゃぁ勝つつもりだし、少なくとも死ぬつもりもサラサラないからな」
そう答えるものの、実際やってみない事には俺も分からない。
話を聞いてる分にはぶっ飛んでる様に感じなくもないのだが、俺だって似たような事噂になってないだけでやってるしな。
とくれば、そこまで気負う必要もねーだろう。
「くっ、竜の巣へ突っ込んでいって無傷で帰って来たとか悪魔召喚の儀で召喚された上位悪魔を魔界へ追い返した等が本当ならご主人様も規格外のレベルは変わらないと言うのに」
「ああ、それ本当だぞ?」
「はっ?」
アレスが何やら悔しそうに言ったので事実を告げてやれば、ポッカーンと間抜けな顔を晒す。
「ちょっ、いくらなんでもそれはないでしょう? 言いたくはないけど上位悪魔を相手に生き残った人間なんて長い私の生でも聞いた事がないわ」
使い物にならなくなったアレスの代わりに聞いてきたのはキャサリンだった。
皆も驚いた顔をしているが、そんなに驚く事でもあるまいに。一応其の辺は噂されてるんだから……こんな大口を叩いてるぜって完全デマ扱いだったけど。
「まぁ、ここに居るから仕方ないだろう?」
ニヤッとわざとらしく強気で答えてみる。
と、アリエッタが納得気に数回頷いて口を開いた。
「そう言えばご主人は気と魔力とを同時に扱えるのだったな。
あの魔力と気でと考えれば、不可能ではないのかもしれない。
何と言う事! 子種を頂くのにこれほど相応しい相手はいないじゃないの」
待て! 最後の叫びで全部台無しだから!!
ほら、全員唖然としてアリエッタを見つめているじゃないか!
ああー、折角真面目だった雰囲気がなんか間抜けな感じに。いや、良いんだけどさ。
「な、なぁご主人。
きょ、今日こそは良いだろ?」
お前は盛りの付いたゴブリンか? 鼻息荒いし目を輝かせ過ぎだ。
「にゅー、もう朝ー? 暗いよー?」
どうやらアリエッタの大声でエリーが起きたようで、皆にじっと見られたか慌ててエリーの寝る寝室へと駆けていくアリエッタ。
「……なぁキャサリン。エルフの――」
「違います! 確かにアリエッタ様の様な方もいらっしゃいますが、あれは例外です!
他の種族だって強いオスに惹かれるメスは沢山いるじゃないですか。何かおかしいですか?
それにアリエッタ様には……」
最後の方は小さすぎて聞こえなかったものの、アリエッタは少数派なのは伝わってきた。
まぁ実際強い異性に惹かれるのは割とある事だし、それが顕著なだけだろう。好意自体はそう言うのと別に持ってくれてるみたいだし……俺だって興味あるんだしいずれはね。
「つーか、なんか俺達らしい感じになったな」
思わず口から漏れた言葉に皆が俺に振り向く。
ちょっと予想外だったけど、まぁ良いやと続ける。
「いや、まぁ俺らは俺らでこのまま日常満喫しようぜ。
変に気負っても相手が変わる事も弱る事もないんだし。それに俺だって規格外って分かったんだ。心配だろうけど俺を信じて待ってて欲しい」
シンディーとファニーが言い終えるとすかさず頷いてくれる。
ホーリンは別に雪辱の機会されあればとかブツブツ言ってるけど、まぁスルーでいいだろう。
アレスとキャサリンも遅れて頷いてくれ、ちゃんと信頼に応えねばと自分を叱咤する。
まぁ実際は戦ってみないと分からないんだし、準備を怠ったり間抜けな真似は論外として本当に気負う必要はないからな。
元々俺はそんなでもなかったけど、皆がそれこそ余裕がない感じで釣られていた面はあるし、これはこれで肩の力も抜けたし良かったのだろう。
「皆、ありがとうな」
ただ、心配が嬉しくて聞こえないように小さく口の中だけで呟く。
さて、それじゃぁ頑張りますかね。




