付き人
連れてこられたのは闘技場の隣の大きな屋敷。
どうやらここでは人身売買が行われているようで、そのツテで闘士の付き人をまかなっているようだ。
人身売買について色々思うところがあるのだが、国から許可を得て商売をやっている奴らについては文句はない。
ぶっちゃけ地方では子供が多すぎて生きていけなくなるなんてよくある話だし、まともなところはちゃんと教育して生きる術を与える訳だから、寧ろ良い事だと思う。それに、チャンスを与えて貰ってそれを拾えず捨てられるなら、それは自業自得だ。
「ようこそいらっしゃいました、ワタクシ、メルベーンと申します。
本日はどのような人物をお求めでしょうか?」
優雅に1礼しつつ問いかけてくる、貫禄のあるおっさん。
上品に服を着こなしているし、服も悪趣味でなく落ち着いた雰囲気で統一されていて、流石上役もしくはオーナーだなと思う。
俺が昔潰した悪徳な奴らとはまとっている空気からして違うのも好印象だ。
「はい、この度こちらのシンイチロウ=タカミヤ様が目出度くランクⅢになりましたので、そのお付きを探しに来ました」
同じく優雅に答えるここまで俺を連れてきてくれた執事服の男。
西方の礼儀作法は俺の地元の礼儀作法とは異なるが、それぞれに趣があるしきちんと礼を尽くしているのを感じれるのは素晴らしいな。
巣に入らば掟に従えとも言うし、これまでの生活でこちらの礼儀もある程度は学んでいるので俺もそれに習おう。
「初めまして。高宮家が嫡男新一郎と申します。
私の噂は色々お耳にしていらっしゃるでしょうが、今後よしなにして頂ければ幸いです」
言い終えるとともに頭を下げる。
少しばかり間を置いて頭を上げれば、ポカンとした2人の表情に出会う。
……いやいや、俺の噂どんだけ酷いんだよ。ある程度自覚はあったけど、こりゃぁ想像以上かな。
思わず苦笑いを浮かべると、それに反応するかのように表情を取り繕う2人。
まぁ先入観は中々取れないものだし、本当の意味で俺を知ってもらうのは不可能かもしれないな。とは言え、闘技場で暫く生活せねばならない以上2人との付き合いも長いものになるだろうし、今後の言動で信頼を勝ち取るしかないだろう。
ともかく、少なくとも多少なり違う印象は与えれただろうしよしとしとこう……。逆に表面は取り繕えるのかって深読みされたかもしれないが、ある程度は割り切るしかねーよなぁ。
応接室に通され、割と広いスペースがあるその部屋で希望を聞かれた後しばらく3人で雑談を交える。
と、従業員らしき男がメルベーンに耳打ちする。頷いてそれに応えた彼は、満面の笑みを浮かべて扉の方へ右腕を上げた。
「ささ、準備が整ったようです。
今回シンイチロウ殿がご希望された、ご自分の年齢に近い者と言う条件に一致する者達はこの者達になります」
喋るに合わせ3人の女の子達が部屋に入ってくる。
うん、血色も良いし服もそれなりの質っぽいメイド服を着ている。何より表情に怯えがない点からやはりこの店は信用出来る店っぽいな。
まぁ、単に今回はそう言う商品を出さなかった可能性もあるし。どんな契約を結ぶかでもまたある程度判断出来るだろう。
「先ず最初にご紹介させて頂きますのは、こちらの――」
「いや、その必要はないです」
いきなり話の腰を折られたからだろう、困惑するメルベーンに俺は自分の意思を告げる。
「3人とも問題なければ私の付き人として採用させて頂きましょう。
無論、私の出した条件が気に食わなければ断って頂いても……あ!」
しまった、忘れてたって。思わず大きな声でちゃったじゃないか。
「えっと、そう言えば採用出来る人数に決まりはありましたっけ?」
そんな俺の問いに答えてくれたのは執事服だった。
「いえ、3人程度なら問題ないですよ。
ですが、採用ですか」
「ん? なんかおかしいか? 確かこの国の人身売買のパターンは把握していたつもりだが、この子らはどう見ても犯罪売りじゃないだろ」
意外そうに言う執事服にそう言えば、納得いったのか表情を変え進言してくる。
「なるほど、契約のパターンと勘違いなさっていたようですね。
闘士のお付きは闘士から支払うのではなく、闘技場からの融資によってまかなわさせて頂いております。
なので、ここに来た時点で彼女たちの希望は全て達せられておりますし、支払い等も既に終えておりますよ」
なるほど、闘技場専用の売買って訳か。詳しい事は分からないがそう言う事なら……って、なんか女の子達の表情が妙だな。なんか物凄い困惑してるようだ。
「ほっほっほっ、英雄色を好むとは誠ですなぁ。いやはやシンイチロウ殿も例に漏れずのご様子で」
うおっ、なんかメルベーンの様子が急に変わったんだが。
えっと、あれ? なんか俺まずったか?
「まぁ、女性は好きですよ」
うん、ともかくこれは言っとかないとな。よく状況が分かってないが、また趣向を勘違いされちゃかなわん。
「素晴らしい。ならば犯罪売りの者も見ていかれますか?」
んんん? 手をすり合わせて言ってくるメルベーンって、なんか以前倒した悪徳商人とかと若干似てる気が……うーむ、とは言えあいつらのようなゲスな匂いはしないし……ああ、人外とも呼べるような輩を相手にしてるんだ、最初は色々気を使っていたのだろうな。
で、俺も単なる女好きと見たから扱いやすしと思った訳だ。商売人だし、商売っ気を出したって事だろう。
納得すると同時に、やはりまっとうな売人は違うなとも実感する。
まだ法でも守られてる普通の者と違い、全く法で守られていない犯罪売りの面々もこうやって守るとは。
感心しながら俺はメルベーンの案内に付いて行くのだった。




