日常に忍び寄る影
ランクⅤの相手を倒したからと言ってランクが上がる事もなく。
いや、正確にはⅤでもそれなりの実力者だったアレスを倒したなら上げても良いのではないかと言う話になったらしいのだが、ノーコンテストとなった試合で上げるのは難しいと言う結論に至り結局ランクはⅣのままだ。
まぁ、それは全く問題なかったので軽く了承すると、ホッと胸を撫で下ろしたセルリックが印象的だった。
いや、給料が増えるに越した事はないけど、ⅢからⅣになっただけで増えちゃいるからな。
部屋が大きくなり人数も増えたから、また割とギリギリの生活にはなりそうだけど。
「エリー様、どうぞこちらのお菓子もお召し上がり下さい」
「よろしければこちらの方もどうぞ」
アレスとその付き人のキャサリンに両脇を挟まれた俺と膝の上に乗るエリー。恒例のお茶の時間にそれぞれにお菓子も配られているのだが、嬉々としてアレス達はエリーにお菓子を渡している。
エリーは純粋に喜んで受け取った。
「ありがとー、キャシーお姉ちゃん。アレス」
エリーの言葉に破顔する2人。いやぁ、エリーの瞳の色を見るやいなや平服だったもんな。
アリエッタが任せてくれと間を取り持ってくれたが……それでもずっと甲斐甲斐しく世話してくれている。
無論、よくお兄ちゃんの方が良いとつれなく俺の元へ来るのだが、俺が部屋を出ていたり他の面々と何かやっている時はエリーも2人に遊んでもらったりしているようだ。
徐々に2人とも仲良くなってきているから、良い傾向だと思おう。
それにしても、やっぱりエルフにとって特別なんだろうな。アリエッタも結構甲斐甲斐しくあれやこれや世話を焼いていたけど、2人はその比じゃないし。そのアリエッタからすら構いすぎだぞと言われている始末だし。
そう言えば、アリエッタに対しては丁寧な言葉をアレス達は使ってるのだけど、理由を聞いてなかったな。
となれば、アレスがアリエッタを欲したのも少し事情が変わるかもしれない。
……まぁ暇がある時でいいっか。
「はい、お兄ちゃんあーん」
「おう、あーん」
ある程度食べて満足したエリーは、お菓子を俺の口に持ってくる。
なんか女の幸せを感じるのとか言って俺に食べさせるのがマイブームのようだ。お兄ちゃんはお兄ちゃんだけだよとアレスは呼び捨てにするくらいだし、本当に愛されてるな俺。
まぁ、アレスは呼び捨てにされて寧ろ感激してたけど……理由聞いて若干落ち込んでいたな。
考え事をしたり、皆と談笑したりと穏やかなお茶の時間を過ごしていたら、すごい勢いでセルリックが俺の部屋に入ってくる。
「し、シンイチロウ様! 貴方いったい国落としのカエデ様とどんな面識があるのです?」
入ってくるやいなやそんな事を言ってくる……が、全く心当たりがない。
「いや、国落としとか知らないぞ?
噂には聞いているが、なんか国1つを1人で壊滅させたんだっけ?
そいつがどうかしたのか?」
「どうもこうも、やっと追いついただのさっさと出せだのおっしゃって大変な騒ぎになったのですよ。
幸いランクⅦの闘士の女王ハーミット様が収めて下さいましたが、シンイチロウ様と合わせろの一点張りでして。
決闘なら会えるだろうと、決闘の申し入れがあります。
彼女と面識があるのですか?」
急展開過ぎて意味が分からない。
「世界で数人しか居ないランクSS様に会った事もなければ恨み買うような真似をした覚えなんてないんだがなぁ。
正義感の強い奴か? まぁいいや、どうせ断れないんだろうし受けるぞ。
だから落ち着けって、割と支離滅裂だからさ」
本当はエリー以外の皆にも落ち着けと言いたい。
国落としと言うか、1人で小国とは言え国を壊滅させる化物に決闘を挑まれていると聞けば心穏やかでいられる方が少ないだろうけど、俺自身は別に慌てちゃいないんだからさ。
エリーは単純によく分かってないのかポカンとしているだけだけど。
「はっ、これは申し訳ございません。
とにかく、カエデ様と決闘して頂きますのでお覚悟下さい」
「了解」
そうそう、別に友達とかじゃないんだし事務的な連絡だけで十分さ。
は良いんだけど、セルリックが去ってもずっと物言いたそうに見つめるだけの皆。
最初に口を開いたのはエリーだった。
「お兄ちゃん、また決闘?」
「そうみたいだな。なんか今度こそ借金増えないと良いのだけど……前回と違って相手から申し込んでくれたみたいだし、大丈夫かな」
心配そうに聞いてきたエリーに、実際聞きたい事は違うのだろうと分かりつつそう答える。
いや、俺的にはこっちの心配が1番だからな。
無論、エリーは少し頬を膨らまかせてギュッと抱きついてきた。
「お兄ちゃん。もう怪我しないでね」
懇願するような口調に思わず笑みが溢れてしまう。
「ああ、任せろ。大怪我なんて俺だってもうしたくないからな」
軽い調子で返せば、エリーは笑ってくれる。
まぁ他の面々は物言いたそうな顔から変化していない。
多分だが、折角エリーの気持ちが向上しているのにわざわざその邪魔をする必要もないので、取りあえずは言葉を飲み込んでいるようだ。
うあー、こりゃぁエリーが寝た後が大変だろうな。
結局誰も何も言わないまま数日が過ぎ。
と言うか、無理して日常を装ってますって感じが半端なさすぎて、余計肩がこるわ!
「さて、勘違いしているようだから言っておくが、俺負ける気はないからな」
エリーが寝てから皆を集め、そう断言する。
「……勿論だ、例え国と1人で戦える化物だったとしても私に勝ったんだ、負けるなよ……」
ホーリンの言葉もいつもの勢いがない。
他の皆はすぐには発言せず、俺の顔を見据えたままだ。
「いや、ご主人がどれだけ強いかは知っているつもりだが……国落としの実力が未知数なのがな。
正直1人で国を相手取れるなんて化物、私なら数分持てば良い方だろうからな」
アリエッタが淡々とした口調で口を開く。
わざと感情が出ないようにしているのだろうな。
「規格外なのには違いないが……別に決闘と言う方法を取っているだけで、何も必ずしも戦うと言う訳じゃないだろう?
会いたいと言ってるだけなんだし。まぁ最悪戦う事になっても何とかするさ」
俺のその言葉に希望を見出したのか、ファニーが呟き始める。
「そう……ですよね。単に会いたい可能性だってありますもんね」
「それを願う……のが1番ですね」
シンディーがそれに続く。アレスとキャサリンは付き合いが短い事もあり沈黙を守るようだ。
「まっ、結局は相手の心次第なんだし。今から気に病みすぎても仕方ないさ。
心明るくは無理だろうが、とりあえず横に置いておこうぜ」
俺の発言に苦笑いを浮かべてくれる皆。
ったく、本当にいったいなんだと言うのだろう?
お陰でランクⅣの試合がまた伸びてしまう事になる。
まっ、何にしろなるようにしかならないか。
ぎゃー、予約登録ミスってました。遅れてすみません。




