下僕ゲット
盛り上がる会場からアレスを抱き抱えて離脱する。
ってか、急がないと呼吸もかなり弱まってしまっているな。
本当は自分の傷から治したいところなのだが、そうも言っていられないので控え室に着くやいなや床に横にし早速闘気を練る。
ホーリンの怪我を癒した時のように感知させ、ある程度気力も譲り事なきを得た事を確認すると、ドッと今まで以上に疲れや痛みを実感してしまう。
あー、やべ。これ俺自分の治療どころじゃないかもしれん。
「シンイチロウ様! ああ、ここにいらしたのですね?」
控え室にやって来たセルリックと他数人。
何やら悲痛な顔をしている奴やニヤニヤ楽しそうに笑っている奴。無表情だったり厳しい表情だったりと様々だ。
「ああ、正直限界だから少し休ませてく――」
「その必要はない。すぐに楽にしてやろう」
悲痛な顔をしていた奴。アレスと同じエルフの女の子が表情を消し腰に差していた剣を抜く。
へー、エルフじゃ珍しい魔法より接近戦に特化したタイプか? いや、両方得意ってパターンが濃厚そうだな。
もし斬りかかって来たら死にたくないし返り討ちにする算段を脳内で立てていると、エルフ少女を止める白衣を来た男。
「まぁまぁ、恋人が死にそうで焦る気持ちも分かるけどぉ、先走り過ぎじゃぁなかろうかぁ?
君が諦めているなら別に彼を見るつもりはないよぉ」
変に語尾を伸ばすそのいかつい男……白衣ってか服が張り裂けそうな位ピッチピチなんだが、もう少し大きいサイズを着れば良いのに。
と言うか、その無駄な筋肉はなんだよ? 医者って言うのは治療師と違って手先の器用さはともかく他はそこまで重要じゃないだろう?
色々疑問に思うものの、とりあえず聞く気力もないので保留にする。
「諦めてなど! そうだ! そもそもこんな奴相手にしている暇なんて!!」
「うーん、うるさいなぁ。あれ? フェリット?」
大声で喚き散らすエルフ少女の声で起こされたようで、まだ十分回復しきれなくてまるで寝起きのように起きたアレス。
どうやら俺の想像以上にタフだったようだ。もしかすると手遅れになるかもと急いで回復したけど、そこまで急ぐ必要はなかったかもしれない。
のんきに考える俺をよそに、部屋が静まり返る。
ってか、シュールだなぁ。血まみれ満身創痍の俺が勝者で今や無傷のアレスが敗者だもんな。
「ああああああ、アレス! 貴方怪我とかは? 胸は陥没してたし手足もあらぬ方向に曲がってたのに大丈夫なの?」
「ふぇ? いや……うん、大丈夫」
手を開いて閉じ、そのまま胸をさすりつつ答えるアレス。
へへん、俺が完全に治してやったんだぜ! とか調子が良いなら言ったかもしれないが、結構意識を保っているのも辛くなってきたので黙っておく。
つーか、アリエッタ辺り早く来てくれないかなぁ。軽く魔法掛けて死なないようにだけして欲しいのだけど。
俺でもこのまま寝落ちはヤバイかもしれない。
「何がどうなっている?」
「さぁ、分かりません」
セルリックに問いかける上等な服を着込んだナイスミドルなおっさん。
多分上司かオーナーの1人かとかそんなとこだろう。
「どれどれぇ。私が診察してみましょうぅ」
怪しい手つきをしながらアレスに近づく白衣の男。
うん、触診とか言うのだっけか。なんだろう、上手い言葉が見つからないが……頑張れ。
引き攣る表情で白衣の男に全身を撫で回されているアレス。
見世物としては十分笑えるから良いが、もし俺も見るとか言われたら冗談じゃないので笑い事じゃないかもと不安に襲われてしまう。
「そうそう、そこの奴隷闘士。お前一体何をしたんだ?」
セルリックを横に控えさえ、この中で一番偉そうなナイスミドルのおっさんが問いかけてくる。
うー、喋る体力も温存していたいのだが、そうも言ってられなさそうだな。
「いえ、別に闘気を爆発させてぶん殴っただけです」
俺の言葉に考え込むおっさん。
と、白衣の男が無駄に高いテンションで口を開いた。
「素晴らしい!! 全くの無傷ですよ!! これ以上ない程完璧に治してありますね。
うむむむ、医者の端くれとして是非この所業をしたお方に師事したい!!」
なんか褒めてくれているっぽかったのだけど、答えれる余裕あまりないし、それに元気だったとしても何となく答えたくないと思ったのでスルーする事にした。
「……と言う事は、部屋付きどもも開放するって訳ですね。
ああ、残念だ」
何やら不吉な事を言うのはしばらくニヤニヤと笑っていた男だ。
一見すると特徴のない男のようだが、アレスが無事だと分かってからは不機嫌そうにしていた。
うん、間違いなく拷問係とかだろう。って事はあれか、殺しの規則破りの処罰に来てたって事なんだろうな。
「発言良いですか?」
確実に自分でも自覚できるほど堅い口調でおっさんに問いかける。
「む、よかろう。言い給え」
「では遠慮なく。
俺は勝者ですよね? とりあえずあの下僕連れてさっさと部屋に戻って休みたいのですが良いですか?」
勿論他に色々言いたい事は山ほどあった。
だけど、今するべき事じゃない。これで分からないなら暴れるぞと言う意味を込めて気を放つ。
威嚇だけだが、その場にいる全員が体をこわばらせた事を確認する。
理解したならさっさとどけや。
「う、うむ、勿論だとも。
ああ、君の部屋付きもすぐに戻るから心配しないでくれたまえ」
流石と言うべきか。多分闘士を会議等に呼んだりもして免疫もあるおかげもあるのかもしれないが、いち早く気を戻したおっさんが若干どもりながらも正解を口にしてきた。
ならばこれ以上ここには用はない。
立ち上がると意識が飛びそうになってしまうが、激痛のお陰で事なきを得る。
……これは本格的に危ないかもしれないな。
「とりあえず下僕は部屋で俺が来るまで待機」
それだけ告げて控え室を後にした。
部屋に帰り着くや否や皆に拘束されてベッドに横にされる。
そして、何がなんだから分からないうちに魔力で回復させられて、とりあえずは危機を脱した訳なのだけど……いや、寧ろもっとデカい危機がやって来た。
「……お願いしたはずよね。勝ったとか負けたとかより、あんな事されたら心臓止まりそうになるじゃない」
「いや、本当に悪かった」
思わず結果良かったんだからいいじゃんと言いかけ、泣き出しそうなアリエッタの表情に何とか飲み込む事に成功する。
うん、これはもう素直に謝る以外どうしようもないな。
「お兄ちゃん、もう痛くない? 大丈夫? 死んじゃダメ!!」
半ば泣きながら慟哭するように聞いてくるエリー、その必死さが伝わってきて最早何も言えなくなる。
ホーリンも何か言いたそうにこちらを睨んでいるが、その口を開く事はなかった。
「ご主人様、2度とこのような事がないようにお願いします」
シンディーも目尻に涙を浮かべているし、うわぁ、罪悪感が半端ない。
「私からも……お願いします」
泣きはらしたのか、ファニーもエリーと変わらない位真っ赤な目をしていた。
いや、でも魔力封じの腕輪壊さずに何とかするにはあれしかなかったんだよと心の中でだけ言い訳しておこう。
「……分かった。2度とこんな真似はしないよ」
俺だってやりたくてやった訳ではないから、言い訳とは別に素直に約束する。
少しは安心した表情を浮かべてくれる皆を見て、ほんと気を付けようと改めて思う。




