訓練?
キッチンにて手際の良いシンディーの手つきに思わず見惚れてしまう。
準備や天順から1つ1つ教えて貰っているのだがとても丁寧だし。と言うか、お茶淹れるのってほんと奥が深いんだなぁ。いつも美味しく飲んでいるけど、流石にここまで手間暇掛かっているとは思わなかった。
「おねーちゃん、混ぜるのこのくらいー?」
「うん、エリーちゃん上手」
隣では和気藹々とエリーにお菓子作りをファニーが教えている。
和むねぇ。良いねぇ。
……、それに比べてと内心で溜息を吐きながらテーブルに座る2人を見る。
「……痛い」
「そりゃぁ指を刺せば痛いよ、武器はあんなに上手く扱えると言うのに裁縫はなんでそんなにダメなの?」
最早呆れも見えてきたアリエッタの表情。だいぶ根気よく教えていたのだけど、ホーリンの不器用さはエリーを超えるらしい。
いや、別にエリーが不器用と言う訳ではないのだけど、年齢的にまだまだ器用に手先を扱えないだろうからな。年相応ってとこだろう。
つまり、ホーリンは幼女より不器用って事か。色々仕事を覚えようとか言い出してみたけど……どうか恨まれませんように。
「さて、これだけ沸騰すれば十分な温度でしょうか」
シンディーの声に振り向けば、真剣な表情でポットを見つめるシンディーが視界に入る。
うん、真剣に教えてくれているのに気を紛らわせてごめんなさい。
よし、もっと集中しよう。
「限界まで温度を高めるのだったっけ」
「ええ。無論このお茶の葉ならばですが。
他の葉の場合は最初にご主人様が言われた通り少し泡立つ位がベストだったりもしますし、以前作るのを見せて貰った時はそう言う種類の葉を使用されたのでしょう。
温度によって風味が変わる特殊な葉もありますし、そういうものだったのかもしれませんね」
シンディーの言葉にただただ感心する。
勉強熱心なのも、そもそも好きだからこそなんだろうな。
火を落としポットのお湯をお茶の葉を入れた別のポットに注ぐと再び泡立つ。
へー、限界まで温めた水を入れるとこんな現象が起きるのか。
「うん、大丈夫そうですね。今見て頂いた現象が起きるかどうかを目安にすると分かり易いですね。
このまま単純に香りのみを楽しむ場合はポットの蓋を締めずに放置すれば良いです。
今回は風味等も楽しむので、ポットの蓋を10分ほど閉じて蒸らします。
この葉も少し特殊で、3分の時と8分の時それぞれ蓋を上げて蒸気を逃すとより風味が増すのですが、その場合はかなり甘味が強くなります。
最もバランスが取れていると言われているのが5分の時1度だけ開ける場合で、渋みと旨みと甘味どれもが主張せず混じり合うと言う感じでしょうか。
また、早め目に開ける場合は渋みが、遅めに開ける場合は甘味が増します。
1度も開けない場合は渋みが強くなりますが、風味によって中和され寝起きの眠気覚まし等に丁度良い感じでしょうか。
風味がかなり強いですので、他に果実やミルク等を混ぜる場合は蓋を閉じたままで作るのが1番良いと思います」
「って事は、毎回状況に合わせて作ってくれているって事か。
いや、それどころか出す相手によって変えてるだろう」
流暢に説明してくれたシンディーに、確信を持って俺は告げる。
質問の形すら取らなかったからか、一瞬驚きからか目を見開くシンディー。
「お気付きだったのですか?」
「そりゃぁあんまり上等な舌じゃないけど、多少の味の違いくらいは分かるさ。
最近特にまるで俺の好みを知っているかのような味になってきてるし。ポットだって無駄にあったからやろうと思えば1人1人に合わせて作るのも出来なくはないからな。5個しかないから今はやりくりしてるのだろうけど」
言いながら、普通にスゲーなぁと思う。
少なくとも俺なら真似出来ない。それ以前に説明して貰ったのに長かったせいでどれがなんだか不安なくらいだ。……自分の頭の残念さに悲しくなってきたぜ。
「数少ない特技ですから」
「いやいや、他だってびっくりするくらい丁寧にやってくれるじゃないか。
いつも本当にありがとう。感謝しているよ」
謙遜するシンディーに本心を投げかける。
ってか、俺達がこんなに不自由ない生活できているのって完全にシンディーのおかげだからな。
家事全般そつなくこなせるどころか、教えるのも上手いときたもんだ。ファニーが既に1人でも仕事をこなせるのを見ていれば嫌でも分かる。
無論、ファニーの頑張りもあってこそだし、要は2人ともとても頑張り屋さんって事だな。
「あぅ、あ、ありがとうございます」
はうぁ! 何この可愛い生物。
普段大きな反応を見せないシンディーが、しばらく固まった後急にキョロキョロしだし、しどろもどろにお礼なんて言ってきたのだけど!
照れている事が分かるけど、固まってる時にいつもと同じくあんまり反応ないなぁと思ってただけにギャップが半端ない。
「ご、ご主人様!?」
気付けば抱き締めて頭を撫でていた。
おう、まさか無意識でこんな行動をするとは、シンディー侮りがたし。
「あー、シンディーお姉ちゃんズルい!
私も混ざるー!」
「あ、エリーちゃん待って!」
頬を膨らまかせて突撃しくるエリーに、慌てて止めようとするファニー。
が、暴走猫のごときエリーを言葉の制止だけで止められる訳もなく、真っ白な手で抱きついてくる。
あー、なるほどそう言う事。
「もう、お手て洗ってからじゃないとご主人様もシンディーさんも汚れちゃったよ」
ファニーにしては珍しくちょっと厳しい口調。
言われてようやく気づいたか、シュンと頭を下げるエリー。
「ごめんなさい」
「うん、次から気を付けようね」
本当の姉妹のようなやりとりに、自然と笑みが浮かんでくる。
いやー、仲良き事は素晴らしき事だね。
「……ご主人様、いつまで抱き締めていらっしゃるおつもりで?」
胸の中から絶対零度の声が俺を刺す。
うわっ、しまった! 2人を見て和んでる場合じゃなくなってしまった。
「わ、悪い。その、シンディーがあまりに可愛くてさ」
慌てて開放し、しどろもどろに弁解をはかる。
「……いえ、別に良いのですが、時と場合を考えて下さいね」
うわぁー、後ろを向いてこっちを見てくれない。
いや、その、わざとじゃないんだ。だから機嫌直して?
うー、本当俺に女心は分かんない。
「了解しました」
思わず敬語が出てしまった俺。
あー、折角いい雰囲気だったに、次からはもっと気をつけなきゃな。
折角真面目に教えているのに突然抱きつくつか、考えなくとも不快だろうし。
「そうそう!! やれば出来るじゃない!」
突然大声が聞こえて思わず振り返れば、嬉しそうにホーリンの頭を撫でるアリエッタの姿が飛び込んでくる。
ホーリンもまんざらそうでなさそうに撫でられているが。うん、とりあえず手の治療しようか?
君が手に持っている元は白かった布が今や血まみれですやん。物凄い苦労の末だろうから今喜び合っているのを邪魔はしないけど、落ち着いたら続けそうな雰囲気だろうと割って入って治療に入り、なし崩しにお茶の時間に入ろう。
そう思っていると足に衝撃を受け、見ればエリーが抱きついていた。
ふむ、今度は手を洗ってちゃんと拭いた後だな。偶に慌てすぎて拭かずに抱きつく事もあるけど、ちゃんと徐々に成長していってるのだなぁ。
ふと頭によぎるは先日の魔力訓練と称した何か。
うん、確実に今日の方がそれぞれの訓練になった気がする。
まぁ、なんだかんだ和やかな1日になったし、このままアレスとの決闘までのんびりまったりで良いかもしんない。




