訓練
アレスの都合で試合までぽっかり予定が開いてしまったので、丁度長い時間が取れるからとエリーを訓練させる事にする。
本来ならもっと早めに教えるべきだったのかもしれないが、魔力に慣れさせるため循環させる方法だけ教えたと言うのに、かなり自由に魔力で遊んでいるから無理に教える必要を感じなかったのが大きな理由だ。
「そんな訳で、まったり遊びながらもっと魔力に慣れていこうな」
「はーい」
元気よく両腕を上げて返事するエリー。うん、愛らしいなぁ。
っと、和んでる場合じゃない。
「さて、それじゃぁ先ずは体の中じゃなく外側に出してみよう。
先ずはこんな感じで指先で何か形を作ってみようか」
小妖精の姿を象ってみたり、花の形を作ってみたりと目の前で魔力を操作する。
それをキラキラとした目で見たエリーは、人差し指を立てうむむむと可愛らしくうなり出す。
直後俺と同じように魔力で様々な形を象っていく……いや、普通そうスムーズに出来ないんだがなぁ。俺も割と苦労したのに、まぁ良いか。
「そうそう、良い感じ良い感じ。
ん? アリエッタ。何か言いたそうだけど?」
「いや、あまりに常識外れ過ぎて……王の証があれば皆こんなに魔力の扱いに長けるのか? エルフの常識に照らし合わせても異常と言っていいレベルだぞ」
その言葉で思い出すはエルフの森で出会った白髪だったあいつの事。
いや、あいつは物凄い時間かかってたぞ? 寧ろ、それだけ魔力があれば仕方ないでしょうとか周りに言われてたくらいだし。
うむ、エリーはやっぱり出来る子だな。
「いや、俺の知り合いは全然ダメだったから、エリーが特別優秀なのだろうな。
もしくは子供だからかもしれない。
偉いぞエリー」
アピールするようにこちらに魔力で出来た愛らしい羽虫を飛ばしてきたので、頭を撫でてあげる。
……いや、今普通にスルーしちゃったけど、もう体から切り離してもコントロール出来るのかよ。マジで天才だな。このスピードは実家で魔力操作は歴代でもトップクラスって言われた幼馴染と変わらないレベルだし。
うん、俺3日位掛かったから少し嫉妬してしまうわ。
「えへへへ、褒められちゃったー」
魔力体の羽虫を自分の中に戻し、両手で頬を抑えて照れるエリー。
うん、そうやって魔力体自分の中に戻すの超高等技術なんだけどな。そんなナチュラルに何でもない事のようにされると、正直やるせない気持ちでいっぱいになるよ。
アリエッタの方へと視線を向ければ、どこか遠くを見ていた。
激しく気持ちはわかるが、早く現実に帰ってこいよ。
「おう、エリーは技術は完璧だな。
後は知識を覚えていこう」
「はーい」
今度は元気よく右手を上げて返事をしてくる。うん、やっぱりどれだけ危ないか全く分かってはないんだろうな。
これは出来過ぎるからこその弊害だろう。痛い思いすれば自ずと覚える事全部すっ飛ばしちゃったからな。
「先ずは、その状態がどれだけ危険かと言うと。
その魔力で覆っている右手で誰かに触れると、もれなく吹っ飛ぶくらい危険だからな」
ぎょっとした表情になって、慌てて魔力を体に戻すエリー。
うん、俺に当たりそうだったもんな。って、涙目になっちゃった!
「ご、ごめんなさぁい。嫌いにならないで!」
必死の形相で抱きつき、震える声でうったえるエリー。
いや、その、なんだ。これは結果オーライか? とりあえず、怒る必要がなくなったからよしとしとこうか。
「大丈夫。だけど気をつけてな。流石にエリーにぶっ飛ばされると俺も悲しいから」
「うん、絶対お兄ちゃんにはしない!
皆にもしない!」
必死に言うエリーに、今はこのくらいで良いかと思う。
実感が伴うまで微調整は物凄い難しいだろうし、それはおいおいだろうからな。
「よしよし、使う場合は悪い奴とか嫌いな奴限定だ」
「うん、約束する!」
こちらが笑顔を作ればようやく安心したか、ホッと笑みを零したエリー。
毎日教えていくなら、初日はこのくらいで十分だろうか。訓練所とかちゃんとした場所じゃないと実践できない事も沢山あるし。
「それじゃぁ、常に体の薄皮1枚下に魔力を巡らせる訓練をしよう。
これさえあれば、いきなり攻撃されても安心だからな」
「はーい」
「どうしよう、私の常識が何1つ通じない」
ポロリと漏らすアリエッタ。
おお、やっと復帰したか。って、目に力が全くないけどどうした?
「常識が何かは分からんが、お前だってこのくらい出来るだろう?
それに、エリーが自衛出来るならそれに越した事はなかろうに」
「最早自衛ってレベルじゃないが。まぁ言うとおりだな。
しかし……私はそれが出来るようになるまでどのくらいの時間を要したと思っている? ははは、天狗になっていた自分をぶん殴りたい」
あ、なんか雰囲気がおかしい。
よし、スルーしよう。
「ほら、アリエッタも出来るみたいだから頑張ろうな」
「うん、出来たよ!」
……どうしよう、俺も現実逃避したくなってきた。
ああ、散々頭おかしいとか他に出来る奴いねーよとか色々と言ったけど、他に出来る人ここにいたよ。まさかお前が正しかったとは思わなかったなぁ。
つい幼馴染の事を思い返す俺に小首を傾げたエリーは、褒めてとばかりに頭を摺り寄せてきたのでとりあえず撫でておく。
ともかく、エリーを傷つけたいのなら最低でもミスリル以上の武器に闘気か魔力を纏わせねば無理な状態に出来たんだ。本来アレスとの戦いまでに出来るようになってくれと思ってた事が出来るようになってくれたんだし。
そう、これできっと良いんだよな。はは、ははははは。
「うーん、難しいです」
「私も全く出来ません」
申し訳なさそうな笑みを浮かべるファニーに、どこか悔しそうに言うシンディー。
そうそう、これが普通だよな!
エリーはとりあえずアリエッタに預けて2人に魔力操作を教えて始めたのだが、先ず己の魔力を感知させるのにそれなりに時間が掛かり、ようやくさわりの魔力を引き出すイメージをして貰っているのだが、高かった日が殆ど沈んだ今でもまだこのレベルで、エリーがどれだけおかしいのか再認識出来た。
ほんと優秀も過ぎると気持ち悪いとはよく言ったもんだ。
いや、気持ち悪いとか怖いとか嫌いとか思う事はないが、中途半端なレベルの奴がエリーを見てしまうと恐怖を抱いてしまうか、下手すれば畏れを抱いてしまいそうだ。
「まぁ2人は魔力も少ないし、エリーが特別なだけだかららな。
出来るに越した事はないだろうけど、あまり煮詰まりすぎないように」
「わかりました」
素直に頷くファニーとは対照的に、完全に渋々といった感じで頷くシンディー。
思わず苦笑を浮かべてしまう。
「俺からすれば、いつも家事の腕を上げてくれる方が遥かに嬉しいし。ちゃんと守るから心配するな。
エリーは無駄に魔力が多いし、下手すると周りに迷惑かけかねないから制御法を教えなければならないって事情もあるしな。
ほら、1日魔力操作の訓練ばっかりやってたら何にも出来ないだろ?
俺としちゃぁ訓練よりも2人と喋ったりお茶したりしたい」
納得するかは横に置き、本心を伝えると明らかに様子が変わる2人。
ファニーは若干頬を赤くさせながら笑顔に、シンディーはなんか表現出来ない難しい顔に変わる。
って、シンディー何でそんな顔になったん? そんなおかしな事言ってないだろ?
「はい、ご主人様ともっと仲良くなりたいです」
……うわぁ、絶対今俺ニヤニヤしてるぜ。
うん、ファニーほんと可愛いなぁ。でも、滅茶苦茶恥ずかしい。
「分かりました。とりあえずお茶を淹れてきます。
その後食事の準備をしますから、少々お待ち下さい」
パッと頭を下げ、言うだけ言ったらさっさと台所へと向かうシンディー。
ありゃ、変な気を使わせたかな? いや、確かに腹は減ってるけど。
と、何故かクスクス笑うファニー。
訳が分からないと見ていると、私もシンディーさんと準備してきますねと言われる。
……まぁいいっか。
いやー、それにしても平和な1日だったわ。
「おい、これで良いのか?」
「……いや、全然巡りきれてないから。確かに若干巡らせるの上手くなってきたけど、早々簡単にいかないものだって。
だから、負けず嫌いは分かるけど無理しすぎるなよ」
「うるさい! ……くそっ、まだまだか」
……ホーリン。エリーを睨まないでくれ。今気付いて怯えてアリエッタに抱きついてるから。
はぁ、本当に筋金入りの負けず嫌いな事で。
まだまだ強い事言えない段階だから注意すら出来ないし、暴れる訳でもないしやりたいようにやらせるしかないか。
……、今日の治療もまだ出来てないのに、俺いつ眠れるんだろう? 気になるならついでだし教えるよとか言うんじゃなかった、とほほほほ。




