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聞いてない!

「おめでとうございます。これでランクⅣへと上がります」


 セルリックから告げられ、ようやっとお給料が上がる事へ期待が溢れる。

 そうだ、借金は完済できたのかな?


「おう、これで借金も完済なんだよな?」


 問いかければ、しっかりと頷かれ安堵に胸の撫で下ろす。

 よし、これで甲斐性なしとはもう言わせない。

 皆にプレゼント買ってあげたくとも全く余裕なかったからな。ただ、何が好みかとか聞く時間は十分あったし、サプライズもしやすいから良いけど。


「で、実際次からどのくらい貰えるんだ?」


「はい、次回は決闘なので会場使用料全額負担ですね。買っても負けても借金です」


 ……え? いや、え? 何そのシステム聞いてないんだが。


「お、思わずフリーズしちまったが、いや、全額負担とかいくらだよ? しかも買っても負けてもって、説明してくれないか?」


 やっと。やぁぁぁぁぁあああああっと皆に着飾って貰えるとか思ってただけにダメージがデカい。

 くそっ、動揺丸出しじゃないか。


「ああ、お聞きにならないので知っているかと思っておりました。

 決闘は個人同士が勝手に会場を使う訳で、その使用料を頂くのはご理解頂けますか?」


「ああ、まぁそれは納得出来るな」


 そりゃぁ運営側の都合に無理言って開けて貰ったようなもんだからな、まぁ言われてみれば当たり前だなと思う。


「ありがとうございます。

 他にもその日に闘技場側が得られる収入、同じく同時間帯に出る予定だった闘士達への報酬の支払い等がございますが、こちらはお客様を入れれば補填出来るかとは思われます。

 幸い貴方様もアレス様も有名ですので、運営側の収入への保証は問題ないですし、黒字になると思いますが。

 ただ、決闘は基本ランクⅥの方が戦う時間帯になりますので、そちらの保証がどう考えても真っ赤っかです」


「いや、そんな事聞いてないぞ、時間帯とかそしたら変えたのに」


 いや、もう決まった事だから受け入れざるを得ないけど、流石に文句の1つ位言いたいぞ。

 と、尚も申し訳なさそうにしながらセルリックが続ける。


「いえ、時間帯の変更は認められておりません。決闘ばかりされてもこちらも困りますので。

 その対処だと思って下さい。

 それに、だからこそアリエッタ様の時もホーリン様の時も決闘の申し込みをその理由で躊躇なさる場合が多かったですから」


 なるほど、俺の場合既に決闘の受理がお互いの間でなされていたから説明なかったんだな。

 いや、しろよ!


「いやいや、いくら俺とアレスが決闘の申し込みをお互いに済ませていたからって、説明くらいはしてくれよ」


「ああ、それも格下の方から格上の方になさる場合は、全て自己責任と説明しない方針を貫かさせて頂いております。

 勿論、こうやって聞かれる分にはお答え出来ますが。

 なお、会場を借りる負担は格下からの場合ですので、全てシンイチロウ様負担になりますね。

 既に予約だけでまかなえるほどですから、こちらはあまり関係ないでしょうけど。闘士側への報酬は当然決闘の結果が報酬となりますから真っ赤っかなのは確定ですね。

 言え、下僕とされるそうで、アレス様の蓄え次第かもしれませんが」


 ず、頭痛がしてきた。くっそー、ろくに知らない事を先走るもんじゃないって事だな。

 アレスの蓄えか……情けないが少し期待しておこう。

 アリエッタの時もホーリンの時も決闘の申し込みがなかったのもある意味納得した……まて、でも借金してでもって奴も居そうなんだが。

 事実アレスも掟って奴さえなければしてきたって言ってた筈だし。


「聞かせて欲しいんだが、アリエッタやホーリンの時、それでも決闘が申し込まれるのが皆無って事はないんじゃねーのか?」


「それは簡単な答えがございます。

 何故かランクⅦの方がもし申し込むなら全員その方が相手になると、決闘を申込もうとなさってた方々に宣言されたもので。

 いえ、あの方の行動理念はこちら側としてもさっぱりですので、詳しい説明は容赦願います」


 ほんとなんじゃそら? だよ。


「……分かった。調べなかった俺も悪いんだし。今回は色々飲み込んでおく。

 でだ、実際どのくらいの借金なんだ?」


「ええ、ランクⅣの報酬の場合ランクⅥの報酬を完済するには――」


 悲鳴が出なかった事を褒めて欲しい……。

 おかしいだろ! 何でⅣの間Ⅲの時と同じく本来の1割しか貰えないんだよ!!





「ふん、知らなかったのか。いい気味だ」


 気まずそうに皆に告げた俺に、ホーリンが嬉しそうに言う。

 うう、このまま甲斐性なし呼ばわりされるのは続きそうだな。


「でも、お給料自体は増えるのですよね? だったら大丈夫ですよ」


 おう、ファニーの優しい言葉に笑顔が素晴らしい。


「そうですね、今までよりも結局は増えるのですから問題はないかと」


 冷静に言うシンディーにも嬉しさを感じる。


「私お兄ちゃんと入れれば別に何でもいいよ」


 きゅっと抱きついてくるエリー。勿論抱き上げてあげる。


「まぁ、贅沢さえ慎めば外に出れば十分高給取りと変わらぬ程のお金を持ってくる訳だがな。

 ご主人が素手で戦えなかったらだいぶ危なかったが……いや、要らぬ心配か」


 アリエッタのフォローもありがたい。

 まぁ、このランクまで来るとだいぶ人も減ってくるからな。

 報酬だってかなり大きいし、その分試合の間隔が広くなるけど。Ⅳですら急に2週に1度になるしな。

 それでも、Ⅲの時より倍より少し増えるって言うんだからありがたい限りだ。

 ただ、負けてすぐにⅢに戻る奴も多いらしいが。

 ランクⅡ辺りから加速的に次のランクの洗礼が高くなるというし。

 そう考えれば、なんだかんだランクⅤで戦えているアレスは十分強者なのだろう。

 あんな言動だから、つい俺は愛すべきバカとしか見れなかったけど。


「ありがとう皆、俺頑張るよ!

 後ホーリン、すぐに甲斐性なしだなんて、ああああああ。ごめん指さしちゃった、わ、わざとじゃないんだ!」


 ガタガタ震えだしたホーリンに慌てて頭を下げる。

 し、失敗したぁ。まだまだ治療始めてからそこまで回復してないと言うのにやっちまった。

 つい憎まれ口とか聞いてくるから、回復している度合い測り間違えるんだよな。

 普段は勿論気にしているからこんな失敗はないのだけど、寝起きとか偶に目を凝らして見るだけで、気付けば粗相をしてたなんてあったし。

 俺のバカァ。


「く……ふ……、き、気にするな。このくらい絶対乗り越える」


 気丈に言ってくるホーリンの姿が胸にくる。

 皆も慣れたもので、すぐに各々行動を開始していた。

 いや、エリーは俺の胸で無邪気に頭こすり付けてるけどね。


「ほら、無理せずシンディーのお茶を飲もうじゃないか」


「む、アリエッタ殿がそう言うなら。それに、シンディー殿のお茶は美味しいからな」


「ささ、こちらへどうぞ」


 アリエッタに促され背を向けるホーリン。その先で椅子を引いているファニーの姿が。

 既に辺りにはいい匂いが充満している。

 ……気付いてないのだろうけど、アリエッタに話し掛けられた瞬間物凄い安心したように息を吐いているのだよな。

 多分本来なら、いくら尊敬出来るような相手からの言葉とは言え聞くはずがないのだろうけど、やはりどんなに強がっても傷が早々簡単に消える訳もないって事だ。

 いや、寧ろ無理をしている分治療以外は逃げ回るタイプより治るのは遅いかもしれない。


「根気よく頑張るしかないよな」


「うん、私はずっとお兄ちゃんを応援しているからね」


 思わず口を出た呟きを聞いたエリーが、無邪気にそう言ってくれる。

 はは、本当に可愛いやつめ。

 胸を温かい物が満たしつつ、エリーと共にベッドの方へと向かう。

 流石にホーリンと席を共にする訳にもいかぬし、それに、俺がベッドで腰掛けてお茶飲むのは最近じゃ普通だからな。椅子が足りないからと言っているけど……それで納得してしまうのが異常だとホーリンが自ら気付くのはいつになるやら。

 いや、折角和やかなお茶の時間だ。俺もつらつらと考えるんじゃなく、のんびり楽しもう。

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