意地っ張り
彼女が目覚めるまでほぼ丸1日の時間を要した。ので、今恐ろしいくらい眠い。
極限の集中を欲求される行為を続けた為、どちらかと言えば精神的に消耗しちゃっているようだ。
気力や魔力がその程度で切れるわけもない。まぁ、無茶な使い方したら別だけどさ。
ともかく、起きそうになった青髪の子に目隠しをし、アリエッタに頼んでベッドまで運んで貰って、疲れを感じながらシンディーにお茶を淹れて貰っている。
エリーは無駄に頑張って起きてたらしく、今は夢の中だ。ファニーはシンディーのお手伝いを頑張っている。
「ふわぁ。流石に眠いなぁ」
大きく伸びをしながら呟く。多分締りのない顔をしているのだろうなと思いつつ、早く寝たいと言う欲求を無理矢理捩じ伏せる。
……淹れて貰ったお茶は勿体無いけど頭から被るか? いやいや、シンディーに失礼すぎるな。
そんな馬鹿な事を考えていると、目の前にお茶が差し出される。
「はい、シンディーさん特製のお茶です。
ご主人様。お疲れ様でした。マッサージでもしましょうか?」
「ありがとうファニー。それじゃぁ是非お願いしようかな」
別に体が疲れている訳でも……いや、ずっと同じ体制だったから自分で思うより疲れているのかもしれない。
満面の笑みで頷いてくれるファニーは可愛いなぁと思いつつ、お茶を口に運ぶ。うん、シンディーのお茶はほんと美味しいな。
おっファニーのマッサージは上手いと言うか何と言うか、優しさを感じれるのが良いな。
「どうですか? 力加減は足りてますか?」
「んー、十分気持ちいいよ」
「ありがとうございます」
嬉しそうに答えたファニーの声を聞きつつ、心地よい感覚に身を任せる。
ふぅー、物凄い癒されるけど更に眠くなるなぁ。うーむ、名残惜しいけどここはそろそろ止めてもらうか。
「ファニー。ありがとう。気持ち良かったよ。
ただ、これ以上されると寝ちゃう」
「はい、お粗末さまでした」
ニッコリと微笑み合い、再びお茶を飲もうとカップを持ち上げたところでシンディーと目が合う。
黙って、じぃいいいいいいいいいいいいいいっとこちらを見ているシンディーと。
……どうしよう、なんか何も悪い事してないはずなのにドキドキしてきた。
居心地の悪さを感じるものの、お陰で眠気が吹っ飛んだのはせめてもの救いか。
お願い、エリーが起きるなりアリエッタが報告に来るなり早く。
「ご主人様、そう露骨に目をそらされますと傷つきます」
「うわぁ、……ご、ごめん」
「後、その反応も傷つきました」
いや、だって突然声かけるんだもん。気まずくて目を逸らしたのは確かに悪かったと思うけど、仕方ないじゃん。
あ……、でも、なんか。怒っていると言う雰囲気じゃない? 最近若干分かってきたけど、無表情で責めているのではなく、何かを求めている?
……うん、よく分かんないから頭撫でておこう。詰め寄られて丁度いい位置に頭あるし。
「ご、ご主人様、何を?」
「いや。なんか……そう。寂しいのかなぁって。大丈夫。シンディーにはいつも頼らせて貰っているし、皆ちゃんと好きだからね」
面と向かって言い切れば、今度は手を払われ後ろを向かれる。
うーむ、これは本音とは言え恥ずかしい事を言った手前、流石に切ない物があるぞ。
「わ、分かりましたから。十分分かりました!」
最後は悲鳴に近い形で走って台所へ逃げるシンディー。……うん、女心は秋の空と地元じゃぁ言ってたけど、すんごい納得だ。よく分からん。
助けを求めるようにファニーに視線を向ければ、なんだかとても楽しそうにニコニコしていた。
うん、事情を把握してそうだし聞こうかな?
「お兄ちゃん!」
「おわっ」
そんな事を思っていたら背中に衝撃を受ける。
どうやらエリーが起きたようで俺に抱き付いて来たみたいだな。そちらを向けば、クマを作った笑顔を俺に向けていて……うおお、クマとかごめんな。
「エリー、まだ眠くないかい?」
「ううん、お兄ちゃんが居るから平気!」
それ微妙にズレてるぞ。
突っ込んでても仕方ないので膝の上に乗せてあげる。まぁ、元気っぽいし今日は早めに寝せると大丈夫だろ。
もしくはひと段落ついたら一緒に寝るのも良いかもしれないな。
「ご主人様、ホーリンをそちらに連れて参ります」
アリエッタの声が聞こえ、さっとそちらに集中する。
どうやら服は皆と同じメイド服を着ているようだ。まぁこの服が一番多いから良いのだが。問題はその本人の俺を見ての反応だ。
どうやら最初ほど取り乱す事はなかったようで、ブルブルと小刻みに震えるもののこちらにゆっくりと近づいてくる。
「いや、辛いなら無理に近づく必要はないぞ」
「……」
無言で更に近づく青髪――いや、ホーリン。
精神破壊寸前まで追い込んだと言うのに、いくら回復させたとは言えまだ全然なのに流石と言うべきか、本来は物凄い負けず嫌いの意地っ張りなのだろうな。
丁度テーブルを挟んだ向かいの席の前に立ち、きっとこちらを睨んでくる。
ああ、そうしないと自分を保てないのか……本当に無茶をする。下手すると傷口は広がるだけだって言うのに。
勿論、それ以上に申し訳ない気持ちでいっぱいになり、なるべく笑顔を浮かべるように心がける。きっと睨み返すどころか、無表情や真面目な顔を作ってもそれで与えるストレスはとんでもないだろう。
いや、笑顔でもきっと辛いに違いないけど、視線を逸らすのも悪手とくればこれ以上やりようもない。
「無理するな。辛いだろう?」
「貴様が私の心配? 笑わせる……なょ……」
うわぁ、最後の方とか涙声じゃないか。ほんと無理するなって。
こうなると、本当に治療は嫌がろうがなんだろうが続けていくしかないな。申し訳ないけど。
「憎んでもらっても何でも構わない。俺は君に酷い事をしたからな。
ただ、どんなに嫌だろうと抵抗しようと治療は続ける。昨日1日治療したからそうやって無理も出来る程度には回復しているが、覚えているかは分からないが昨日はすぐに舌を噛み切ろうとしたからな。
別にそれが悪い訳でもないし、ただ俺の所為だって事だから。せめて普通の生活に戻れる程度には続けさせてくれ」
あー、真面目な最中ヘラヘラ笑っているのって嫌いなのだが、そうも言っていられない状況は本当に辛い。
ただ、多分彼女は答える事も出来ない――。
「断る……」
ポツリと呟くホーリン。うん、負けず嫌いもここまで来ると褒め称えるに値するな。
「分かった、心底嫌なのは十分理解した。ただ、さっきも言った通り何が何でも治療はする。
俺も本意ではないけど、命令だし決定事項だからな。
ちゃんと俺の胸ぐら掴んで言えたらまた考えるよ」
きゅっとスカートの裾を持ち、多分限界なのだろう視線をテーブルへと落としているホーリン。
それを気遣わし気に見守るアリエッタって、何故俺を見ている? ここはホーリンを気遣うところだって。
と、きっと再び俺を睨んで一気に詰め寄ってきて――数歩でその場に崩れ落ちるホーリン。この意地っ張りさは表彰物だね。
「皆、ホーリンを安静に休めてくれ。俺はエリーと出てくるから」
「デート? わーい、やったー」
純粋に喜んでくれるエリーに心癒される思いで席を立つ。
そのまま右肩に乗せ、視線を合わせれば頷いてくれたファニーとシンディーにそれぞれ頷き返す。
アリエッタはいち早くホーリンの介抱へ向かってくれていたようで、移動の途中で目配せをしておく。
「それじゃぁ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
異口同音の言葉を聞きながら、エリーと共に部屋を後にしたのだった。




