気
見ていて気分の良いものではないのは明白なので、シンディーに必要になるであろう物の準備を頼む。
ファニーにはエリーを見てもらい、免疫は確実にあるだろうアリエッタは俺に付いてもらう事にした。
青髪の女の子をベッドの上に寝かせ、その顔を見て再び自責の念にかられる。
「で、どうするの?
正直ここまでの怪我だと……おい、お前その手はどうした!?」
言われてみれば、自分の手がどす黒く腫れ上がっている事に気づく。
「ああ、そりゃぁ魔力や闘気を込める訳にはいかないから当然だろう。
それなら流石に殺す可能性もかなり下がるし、そもそも女性の顔を殴るんだ、これでも軽すぎるものだって」
ひらひらと何でもないアピールの為動かすけど、うん、もんの凄い睨まれてるなぁ。
そりゃぁ痛いけど、もとより覚悟があった俺は本当に大したことないんだって。彼女に比べればさ。
内心で言い訳しつつ、別の事を告げる為口を開く。
「ささ、いい加減治してあげたいから全部後でな」
さっと手をかざし、先ずは気で相手を包み込む。
「……闘気すらそのレベルで扱えるのか。しかし、どうするの?」
感心したように呟き、俺が何をしようとしているのか気付いたようだ。
なので、そのまま答える。
「どうするって、このまま治すのだけど」
「……いや、先に暴走して邪魔はするまい。
だけど、教えて。気の力で治す場合古傷等ですら完治させる代わりに痛みを数倍、場合によっては数十倍にも増幅させると聞いているのだけど。
確かに小さな古傷等に使う場合は良さそうだけど、今の彼女に使えば精神を破壊させかねないのじゃないの?」
一瞬いつものように怒鳴ろうとしたのか、口を開くものの何かを言う前に首を横に振り、その後そうたずねてくるアリエッタ。
「その通り。ただ1つ付け加えるなら気って相手の精神まで正常と言われる状態に戻そうとする効果もあるらしくてね。実は精神に強烈なトラウマを植え付けさせるのにはこれ以上の方法はないと思っている」
俺の答えに目をパチパチと瞬かせ、口を半開きにして俺をじっと見ている。
あぁ、こりゃぁヤバイかなと思い急いで続きを話す事に。
「でだ、それの対策にこうやってやれば良いのさ」
気で全身をおおった状態に魔力を混ぜ込む。
それを見て顔色が……あれ? アリエッタの顔色変わんないんだけど?
何でそんな有り得ない事を聞いたか見たかしたような顔のままなんだ?
「いや、……待て、どこから何をどう突っ込めば良いんだ?」
「おおう、とりあえず落ち着こうか」
明らかに錯乱している様子のアリエッタに若干驚きつつも促す。
しかし、ブツブツと呟きだしたので、こりゃぁしばらくダメかなぁと放置する事にした。
いったいどうしたんだろうな、マジで。
さて、ともかくこれで準備万端なのでさっさと治してあげる事にする。
ふわぁっと淡い輝きが色濃くなり、直視出来ないほどではないけどすればかなり眩しいくらいになる。
と、原型を想像するのが困難な程にボロボロにされた彼女の顔が、徐々にだが確実に元に戻っていく。
時間を巻き戻す様にと言う感じではないが、治るまでに掛かる工程を高速化すればこうなるのではないだろうか。
ほどなく元の姿へと戻った彼女。当然腕も一緒に治している……のだが、汚れた衣服を戻す事は気で出来る訳もなく、ここは魔法の出番となる。
じゃない、そうやって心遣いに欠ける行為をしないように折角シンディーに準備させていると言うのに意味がないじゃないか。
それに、考えなくとも2度見たくないだろう俺に色々されたくない筈だ。うん、失敗する前に気付いて良かったぁ。
「……し、信じられん。一体何がどうやって気と魔力を同時に使ったんだ?」
「うわぁ、びっくりしたぁ」
猛烈な勢いで詰め寄ってきてってか、胸がメッチャ当たってるから柔らかいな畜生。
違う、落ち着け俺。ここも冷静に対処だ。さっきだってやらかしかけたけどなんとか対処出来たじゃないか。うん、ここだって大丈夫。
「いや、俺も最初は苦労したんだけど、気に魔力を合わせる時は練りこむイメージ。逆に魔力に気を合わせる場合は混ぜるイメージでやると俺は上手くいったんだ。
ただ、個人差があるからそのイメージでやったからって出来る奴と出来ない奴がいるからな。例を出せば幼馴染は逆のイメージだとしっくりきたって言ってたし」
「いやいやいや、そう言うレベルの問題ではないだろう?
2つを合わせると掛け合わせたかのごとく強力な力になり、それの制御は不可能だって言われているくらいなんだぞ」
「ああ、そりゃぁ特に最初の頃はミスって怪我を負うのは当たり前で、その中で慣れていくっていう……そうか、周りにこの回復法知る人間がいなけりゃそりゃぁ修行自体躊躇するわけか」
納得がいって頷く俺に対し、鼻息荒く詰め寄って来た状態のまま絶句するアリエッタ。
と言うかさ、俺の理性の糸がブチブチと音を立てて切れていってる錯覚を覚えているからさ、お願いだからそろそろ離れるか一緒にベッドに倒れこむ――は、青髪の子がいるから離れる1択だけどお願い早く動いて。
「あー、アリエッタお姉ちゃんズルい! 何でお兄ちゃんにくっついてるの」
願いはどうやらエリーに届いたようで、大きな声を上げる。
それでようやく気づいたか顔を真っ赤にして離れるアリエッタ。……た、助かったけど残念とか思ってしまう。
いや、まぁこれ以上説明しなくていいなら良いかな。ナイスエリー!
「エリーちゃん、アリエッタさんはきっとアドバイスなさってたんですよ。
邪魔しちゃダメですよ」
「ぐぅ」
「そうなの? じゃぁ我慢するー。
お兄ちゃん、アリエッタお姉ちゃん、頑張ってね!」
「うぅっ」
ファニーとエリーの言葉を聞く度に、近距離にいる俺にギリギリ聞こえる程度に呻くアリエッタ。
うーむ、アリエッタが返事するかと思ったけど、俺が返事した方が良いっぽいな。
「おー、2人ともぼちぼち終わるからもう少し待っててくれよ」
2人のはーいと言う声を受け、手を振って応えてアリエッタの方を向いたら……何でか上目遣いに睨まれるハメに。
なんで?
「で? どういう原理でその痛みをなくしたんだ?」
あっ……、なんかよく分からないけど何かを誤魔化すような仕草っぽいなとか思ってたら、そうじゃなくて感づいてた訳かぁ。
うわー、どう言うかな。
頭を掻いて視線を彷徨わせた為か、顔色を変え再び詰め寄って来るアリエッタ。
流石に今度は肉薄こそしているもの胸を押し付けるほど接近はしていない。
「そんなに言いにくい事なのか?」
真剣な眼差しに降参を認める。
出来るなら心配かけかねないから話したくなかったのだけど、仕方ないか。
「いや、なくした訳じゃなく単に魔力に乗せて痛みを運んだだけさ」
「ほぅ、その移動先は?」
「魔力で包んでいる相手。つまり俺って事だ」
ガッと胸ぐらを掴まれ、しかし、すぐに放される。
「いや、すまない。
だが、それしか手段がなくとも事前に教えて欲しい。お願いだから」
うっ、そんな切なそうに言われると、普通に怒鳴られるより遥かに精神的にクル訳だが。
まぁ、自業自得か、しゃーない。
「すまなかったな。
今後ちゃんと話すよ」
「ああ、お願い」
約束を交わし、納得したのか安心したように息を吐き笑みを零すアリエッタ。
直後まるでタイミングを見計らったかのようにシンディーがこちらに言葉を投げ掛けて来た。
ってか、タイミングを見計らったんだろうけど。
「こちらの準備も出来ています。経過はどのような感じでしょうか?」
「ああ、こっちは終わったから後はよろしく」
「はい、承りました」
深々と頭を下げるシンディー。
ふとベッドの上に寝ている青髪の女の子へと視線を向ける。
体の傷は治れど心の傷は別。気を使ってもあくまで壊れないようにするだけだから、相当の傷を負っている事は想像に易い。
未だごめんなさいとうわ言を言っている彼女に胸を痛めながら、着替えも当然するだろう、部屋から出る為扉の方へと足を向けた。




