やりすぎ注意
暴力・流血等の表現があります。ご注意下さい。
闘士として初めての女性の相手と言う事でアリエッタに相談する事にしたのだが、エリーはシンディーとファニーに見てもらう事にした。
幾つかのパターンを想定しているのだが、男相手ならこんなに悩む必要ないのにと内心で何度ため息をついた事やら。
「で、相談とは何? 貴方なら何にも考えてなくても問題ないと思うのだけど」
「いや、対戦相手が女性らしくて、ホーリンって相手なんだがどんな人か聞いた事あるか?」
たずねると、思い出そうとしているのか眉を寄せるアリエッタ。
少しの間を置いてため息を吐き出した後、何故か若干不機嫌そうに答える。
「彼女は私達の間でも有名だったわ。
何せ王宮指南役の娘で、その才能を彼に認められているほどだからね。
確か彼は元闘士でランクⅥまで上り詰めた猛者だったらしいわ。だから私達の間でも有名だって話でもあるのだけど、娘を修行の一貫として闘技場に放り込んだ理由でもあるみたいね」
「なるほど、となればとことん心を折らないとダメって事か」
説明を聞き、一切の甘えや妥協は許されないかと口にする。
俺の願いも虚しく、アリエッタが深く頷く。
「そうね、心から負けを認めない限り彼女から敗北宣言なんてしないでしょうし」
「了解、それじゃぁあまり気は進まないけど当初の方針で戦ってくるよ」
複雑そうな顔で頑張ってねと言うアリエッタ。うん、多分俺がどうしようとしているか分かっているのだろうな。
はぁ、本当に憂鬱だ。
「戦う直前に言われてもなぁ。まぁ元々殺すつもりなんてないけど」
場合によっては死者が出るのは当たり前なのだが、今回担当の執事服に相手を殺す事は絶対に許されないと伝言を受ける。
もし万が一殺してしまった場合は、問答無用で一族を根絶やしにするそうで。
まぁウチの一族を滅ぼせるもんならやってみろと言いたいが、それは俺の場合が特殊なだけと言う認識くらいは出来ているので、きっと今までの対戦相手もやりにくかったのだろうなと思う。
やっぱりこの手の相手って事なんだろう。それでも気は進まないのだけど、うん、容赦してしまうと俺が危ないな。
落ち込んでいくテンションを無理矢理上げようと努力しつつ出番を待つ。
控え室に数人女性がいるが、果てさてどいつが相手なのか、こうなると余裕だからと事前に調べるのを怠ってきた事が悔やまれるな。
お金に余裕のない俺は情報屋から情報を得る何てとてもじゃないが出来ないし、そうなると事前に戦うところを見るしかなかったのにな。戦闘スタイルさえ分かればもう少し対策立てたりより深く予測したりとやりようがあったのだが。
もし同ランクに仲の良い闘士がいれば一気に解決出来そうだが、いないどころか今までの戦い方とかで嫌われてるくらいだし。はぁ、憂鬱だ。
「私を倒したら私は貴方の付き人になろう」
宣言する頭の高い位置で青い髪を1つ結びにした女性。なるほど確かに美少女だけど、戦う前からこうやって駆け引きをするって事は、つまりそう言う事だよな。
出て来た相手が美少女だったからって訳ではないのだが、その人気の高さの凄まじさからその発言が出るまでは、やっぱり戦い方を変えようか悩んでいたのだけど。うん、そんな生易しい事言ってちゃダメそうな相手だな。
憂鬱だとか言ってる場合じゃないし。何より俺は負けられない理由だってある。主に金銭面とかで。
「了解。先に謝っとくが、すまないな」
「ほぅ、既に勝ったつもりでいるのか。舐められたものだな」
うわぁ、怒気を含んだ笑みって毎度恐ろしいものだなぁ。って、全く舐めてないからの発言だったのだが、怒らせてしまったのなら何を言ったところで逆効果だろうし。そもそも折角怒らせたのならそれを利用させてもらう手はない。
……でも、あの手のタイプってこんなに感情表に出すっけ? はっ。これすら陽動の可能性もあるのか。本当に油断ならないな。
それにしても、会場の雰囲気どころか審判の解説すら俺が悪役みたいなんだが、これって勝っても今まで築き上げてきた人気失うよなぁ。
闘士って人気も相当に大事だろうし、ああああ、本当に気が乗らないぜ。
「それでは、戦乙女ホーリン=ハーシュベル嬢と奴隷闘士シンイチロウ=タカミヤの戦い。始め!」
いつもと違い長ったらしい口頭の後宣言されるとともに俺に突っ込んでくるホーリン。
その真っ直ぐな攻撃に思わず思い出す人物がいたのだけど、幼馴染でもあるそいつと同じような性格なら良かったのにと思わざるを得ない。
確実にランクⅢの領域を超えたほど鋭い攻撃が襲いかかってくるものの、右に左に、場合によっては距離を取ったり飛んだりしゃがんだりしながら避ける。
「避けるだけでは勝てないぞ!
それとも貴殿は口だけか!?」
戦いになると怒りを昇華出来るタイプか、はたまた演技が上手いだけか。それを見抜けるほど見る目があるとは思っていないのだが、直感では前者ではないかと感じる。
それを証明するかのように剣筋が鋭さを増すのだが、それすらも何食わぬ顔で演技出来るのが女性ってもんだからなぁ。
散々辛酸を舐めされられて来た故に、女好きだからもあるが、そもそも精神的に強かすぎる女性の相手はやっぱり苦手だ。からめ手とか使うのも対処するのも苦手だから尚更そう思う。
最善手として思いついている方法は色んな意味でアレなので、せめてもう少しマシな方法はないか模索してみたが、これだけ素の実力も高いとなるともう悠長な事は言ってられない。
距離を取り邪魔になる剣を投げ捨てる。
と、相手はその距離を保ったまま俺を睨みつけてくる。
「……舐めた真似をと思ったけど、それが貴方の戦いのスタイルだったわね。
ようやく本気って事かしら?」
口調も怒りが滲み出て……これって演技で出来るもんなのか? いや、ここまで来たら疑問が湧いても後戻りしている場合でもない。
もし演技じゃなかったのなら本当にすまない!
心理戦をもっと修行しないとなと戒め、不用意に答えて相手の思うツボにハマる訳にもいかないので無言でこちらから突っ込む。
しっかりと警戒していたのだろう、恐ろしいキレのカウンターが俺を襲ってくるが……今までと違いフェイントもないそれに対処するのはまだ可能だ。
更にもう少しキレがあれば再び距離を取らざるを得なかったのだが、更にもう1歩踏む込み体に当たる直前の刃を下から打ち上げる。
手放さなかった事は素晴らしいのだが、この場合に限れば最悪手でしかない。
そのまま逆の手で相手の顔を掴み押し倒しつつ、頭が地面に当たる瞬間を狙って膝を顔面に打ち込む。
鮮血が舞い会場中が息を飲むのが分かったが、これで油断して背中からバッサリ何て目も当てられない。
離れずに未だ剣を手放さない方の腕を取り、転がる勢いを利用して固めに入らずそのまま折る。
「ああああああああああああああ」
激痛からか悲鳴が上がるが、これで虎視眈々と逆転の機会を狙っている場合を考えると止まる訳には行かない。
素早く相手に馬乗りをし、体の自由を封殺して再び顔に今度は両拳を打ち込んでいく。
これで口の中に何を仕込んでいても大丈夫だろう。このまま気を失うまで殴り続けるだけだ。
「がっぐっ、ぶぅっ、もぐあぁ、もやぅっ、やめっ」
何やら呻き声が聞こえるが、脳裏を過るのはここで気心を与えようとした所為で逆に殺してしまった暗殺者の顔。
殺せぬ以上過度な手心などもっての他だな。静かになるまで殴り続ける。
ついに呻き声もなくなり、顔の原型もほぼ分からなくなったところで拳を止めた。
くそが、後味最悪だ……仮に俺が当初から想定していた性格だったとしても、女性を痛めつけて楽しむ何て趣味を持ち合わせてない以上気持ちの良い物である訳がない。
立ち上がっても静かなままで、とは言えいつものように勝利宣言をする気分の訳もなく審判に近づく。
「ひぃ」
審判の男は俺が近づくと後ずさった。それもそうだろう、最悪な気分が表情にも出ているだろうから。
「このまま彼女を連れて行くぞ。
彼女も宣言してたし問題ないよなぁ?」
激しく首を上下に降る審判。
それを確認するとすぐに俺がボロボロにした彼女の元に行き、うわごとのようにごめんなさい、やめて下さいと呟く彼女を抱き抱えて会場を後にする。
だから女性の相手って苦手なんだよ。




