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涙の価値

 涙を零すファニーをいつの間にか抱きしめていた。

 いや、放っておける訳が無い。

 スンスンと鼻をすする音が響き、胸が温かい物で湿っていく。


「な、泣くつもり……な、なかったのに。だ、ダメですね」


 必死に涙を止めようとしているのだろう、そんな言葉を漏らすファニーに思いを告げる。


「いいさ、泣いたって。感情を殺すなんてきっと良くないから。

 思いのまま泣いて、落ち着いたらまた話せばいい。なーに、まだまだ時間はあるんだ。大丈夫」


 エリーにするように頭を撫で、頷いたファニーが再び話し出すのを待つ。

 ふとアリエッタとシンディーの方を見れば、2人とも表情を綻ばせていた。

 くっ、なんか恥ずかしいなぁ。あ、エリーは真顔でガン見してる。


「ふふふ、ありがとうございます。もう大丈夫です」


 涙が収まった事をアピールするかのように、髪のように赤く染まった瞳でこちらを見るファニー。

 ヤバイ。滅茶苦茶可愛いんだけど。いや、そんな状況じゃない、自重しろ俺。


 取り敢えず包容から開放すると、1歩下がるファニー。

 どうやら、そこで話を続けるようだ。


「いつもいつも優しくして下さってありがとうございます。

 毎日私達に心を砕いてくださるような方がご主人様で、本当に幸せです。

 これからも誠心誠意努めさせて頂きますので、よろしくお願いいたします」


 俺に当たらないように、もう1歩後ろに下がり深く頭を下げるファニー。


「あぁ、こちらこそこれからもよろしくな」


 自然と笑みが漏れてしまう。

 頭を上げたファニーと微笑み合い、ただ、1つ深く息を吐き出す。


「いやー、それにしても良かった。俺ファニーとシンディーには好かれてないと思ってたからさー」


 思わず溜め込んでいた思いをそのまま言葉に乗せて呟いてしまう。

 と、がたんと椅子を倒してシンディーが立ち上がり、つかつかとこちらへと歩み寄ってくる。


「何故ご主人様はそう言う結論に達したのでしょう?

 私としましてははなただ不本意にございます。

 それに、何故私とファニーに限ったのでしょう? 正直言ってそこの何もしないアリエッタさんより遥かにご主人様にご奉仕していると自負しておりましたのですが。

 勿論理由をお答え頂けますよね!」


 ちょっちょっ、近いって! なんか目が血走ってるし。

 ほら、ファニーもエリーも目を丸くしてるじゃないか。名指しされたアリエッタも最初はニヤニヤしていたのに、目をシロクロさせているし。

 ってか、普段メッチャクールと言うか感情表に出さないのに。実は滅茶苦茶感情豊かだったのね。


「いや、だって色々お小言貰っちゃうし。ファニーにも良かれと思ってやって芳しくない結果な時も多々あったし」


 しどろもどろに言った俺の言葉に深くため息を吐き、こめかみを抑えるシンディー。


「ほんと貴方は馬鹿ですか?

 どこの世界に付き人がご主人様に対し小言を申すと言うと思ってるのです。

 つまりはそれだけ心を許している証拠で……」


 喋ってる途中から勢いがなくなり、ぽんっと音を立てたように顔を赤く染め上げるシンディー。

 一気に目が潤んで、涙が溢れそうにもなってるようだ。


「い、今のは忘れて下さい!」


 それだけ告げると、台所へと逃げるように去って行くシンディー。

 えっと、うん。好意は持ってくれているって事だよな。

 ファニーに視線を向ければクスクス笑っているし。あ、アリエッタは地味に凹んでやがる。

 まぁ、付き人になった癖にあんまし家事とか仕事しないからだよ。つっても、エリーに対してはバッチリやってるけど……一応は俺が主人なんだしね。うん、シンディーが正論だろうな。


 そんな事を考えていると右足に衝撃を感じ、視線を落とせばエリーが抱きついていた。


「お兄ちゃん! 私が1番お兄ちゃんの事好きなんだからね!

 シンディーお姉ちゃんもファニーお姉ちゃんも妾にしていいけど、本妻は私なんだからね!」


 うん、必死に言う姿は可愛らしいし、色々目を瞑れば可愛らしい事を言ってくれるなぁと思うけど。

 いや、妾とか本妻とか、どこで覚えたよ? 少なくとも俺がここに連れて来た時は知らなかったでしょうに。まぁ、今地味に凹んでる人物の所為だって分かってるが、何教えてんだよマジで。









 ついにこの日がやって来た。いや、正確にはこの夜か?

 なんだかんだ大騒ぎをしたのものの、意思の疎通を取り合え親密さを増した俺達。

 年頃の男女の集まりなんだし、この流れはある意味自然なのかもしれない。

 少なくとも、闘士にその付き人達だと行為事態はあって当然なんだろうな。

 いや、こんなもんじゃないかな?

 ともかく、俺は物凄い幸福感と――これ以上ない程の生殺しな目にあっている。


 好意を持っていてくれる素晴らしく魅力的な女性が2人、俺の腕をそれぞれ枕にしていて……。エリーがお腹の上に寝てます。

 はい、これ以上もうどうしようもありません。

 くっそー。アリエッタの奴最初はエリーと席を外そうとしたのに、嫌、お兄ちゃんと一緒がいいって言ったエリーの1声で、では皆で寝ましょうと来たもんだからな。


 当然俺もシンディーもファニーも大慌てで真意を問いただせば、おや、ただ寝るならば良いじゃないですかと来たもんだ。


「あのー、流石にこの体制で寝るの非常に辛いのだが。許してはくれないのか?」


「当たり前だ。俺とシンディーとファニーの純情を弄んだバツだ」


 膝枕をさせているアリエッタにそう返す。

 表情を見れば、眉を下げてとても困り顔で……いい気味としか今日は思えねーわ。


 いや、だって心通じ合ったなら何にも障害なかった筈なのに!

 俺だって年頃の男だ。そう言う興味はあるし、やる気満々だったのに……流石にエリーを交えてとか無茶に決まってるだろ! 見られて興奮するとか、ねーよ!


「……これじゃぁご褒美なのかバツなのか分かんないよぉ……」


「ああ? お前ドMなのか? そうか、エリーの寝顔見れてそんなに幸せか。良かったな」


 ぼそりと呟くアリエッタに、こいつ本当にブレないなぁとそう返す。

 と、最初は顔を真っ赤にさせたのだが、聞き終えると妙に不機嫌になったな。何で?

 あ、そっぽ向かれた。

 うーん、女心は本当によくわかんねーや。

 まっ、夜もだいぶ更けたし、さっさと寝ちまうか。

 ……寝れる訳ねーけど。はぁ、明日は寝不足確定か。色んな意味でほんとトホホだよ。





 ファニーの告白の日から俺達の仲は物凄い良くなったと実感する。

 相変わらずシンディーには小言言われるし、本当に好意持ってくれてるの? ってくらい無表情だけど、時たま無邪気に笑ってくれるのがツボかな。

 ファニーはその表情をコロコロ変えて相変わらず可愛らしいし。俺と喋る時若干照れるのが、なんだろう、俺も嬉し恥ずかしって感じで良い。

 エリーとアリエッタは相変わらずかな。まぁ若干エリーが嫉妬を見せる頻度が上がり、アリエッタも時たま妙に不機嫌だったりする事があるけど。


 ふへへ、現状を思い返すだけでやる気が漲るってもんだぜ。

 今日は顔色を悪くした線の細い男が相手なんだが、多分シーフ系な感じなのだろう。気が練れるなら体格はあまり関係なくなるのだけど、そう言う感じはしないし。

 さてさて、今日もバシっと勝利して皆の元へ戻ろうかね!




 そうやって順調に勝利出来たのはここまでだった。

 その日を終え、皆と仲良く戯れた翌日貼り出された対戦相手の名前を確認した時点で嫌な予感が走り、その姿を確認してため息が溢れてしまう。


「はぁ、とうとう異性と対戦かよ」


 思わず口に出てしまったが、正直女子供に手を上げるのは苦手というか、出来ればやりたくないんだがなぁ。

 憂鬱に満たされつつ、トボトボと部屋に戻る事になってしまった。

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